Research Institute for Sustainable Humanosphere

ミッション3「宇宙生存環境」
令和元年度の活動

課題1 内部磁気圏でコーラス波動が成長可能な領域

研究代表者 海老原祐輔(京都大学 生存圏研究所)
共同研究者 池田拓也(生存圏研究所)、大村善治(生存圏研究所)、田中高史 (九州大学 名誉教授)

内部磁気圏で成長するコーラス波動は放射線帯を構成する相対論的電子を効率良く加速するため、激しい放射線帯変動の原因として有力視されている。コーラス波動による放射線帯変動を定量的に評価するためにはこれらの波動が「いつ」「どこで」成長するのか把握する必要がある。グローバル磁気流体シミュレーションとバウンス平均近似に基づく内部磁気圏粒子移流シミュレーションを組みあわせ、コーラス波動が線形的ならびに非線形的に成長可能な時空間領域を求めた。主な結果は以下のとおりである。(1)線形成長率は夜側から朝側のプラズマ圏の外側で高い。(2)高速太陽風のもとでは、コーラス波動は線形・非線形的に広い領域で成長可能である。これは高速太陽風到来時に放射線帯粒子が増えるという観測と調和的である。(3)低速太陽風時には線形成長は抑制されるが、外部から種となる波動が到来すると非線形的に成長が可能である。

(左)コーラス波動の線形成長率、(右)最適振幅と閾値振幅の比(この比が1以上の領域でコーラス波動が非線形的に成長することが可能である)中心が地球で太陽は左側にある。(Ebihara et al., 2020より抜粋)

成果発表

  1. Ebihara, Y., T. Ikeda, Y. Omura, T. Tanaka, and M. -C. Fok, Nonlinear wave growth analysis of whistler-mode chorus generation regions based on coupled MHD and advection simulation of the inner magnetosphere, J. Geophys. Res. Space Phys., 125, 1, e2019JA026951, doi:10.1029/2019JA026951, 2020.

課題2   放射線帯の相対論的電子フラックス変動の研究

研究代表者 大村善治(京都大学 生存圏研究所)
共同研究者 謝怡凱 (京都大学 生存圏研究所)

斜め伝搬ホイッスラーモード・コーラス放射による放射線形成過程を再現するために、テスト粒子計算に基づく数値グリーン関数法を用いたモデリングを行った(Hsieh et al., 2020)。経度方向に局在したコーラス放射を想定し、コーラス放射によって加速された相対論的な高エネルギー電子が経度方向にドリフトする過程を通じて、地球を取り巻く全球的なトーラス状の放射線帯が次第に形成されることを検証した。一方、相対論的な電子から形成されている放射線帯外帯の地球側境界は、その位置が殆ど変化しないため電子が侵入することができない領域(Impenetrable Barrier)と呼ばれている。この領域では、地上から発信されるVLF波によって高エネルギー電子が排除されてコーラス放射が生成されないために電子が相対論的エネルギーまで加速されず放射線帯が形成されないことを、Van Allen Probesの波動と粒子のデータとコーラス放射の非線形波動成長理論(Omura, 2021)に基づく解析から解明した(Foster et al., 2020)

局所的な経度範囲で発生したコーラス放射による電子加速と放射線形成

成果発表

  1. Y.-K. Hsieh, Y. Kubota, Y. Omura (2020), Nonlinear evolution of radiation belt electron fluxes interacting with oblique whistler mode chorus emissions. Journal of Geophysical Research: Space Physics, 125, e2019JA027465. https://doi.org/10.1029/2019JA027465.
  2. Y.Omura (2021), Nonlinear wave growth theory of whistler‑mode chorus and hiss emissions in the magnetosphere, Earth, Planets and Space, 73:95, https://doi.org/10.1186/s40623-021-01380-w.
  3. J.C. Foster, P. J. Erickson, Y. Omura, and D. N. Baker (2020), The impenetrable barrier: Suppression of chorus wave growth by VLF transmitters, Journal of Geophysical Research: Space Physics, 125, e2020JA027913, https://doi.org/10.1029/2020JA027913.

課題3 宇宙電磁環境の精密・多点観測を可能にする超小型プラズマ波動観測器の開発

研究代表者 小嶋 浩嗣(京都大学 生存圏研究所)
共同研究者 菊川素如(京都大学大学院工学研究科博士課程1年), 浅村和史(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所)

宇宙プラズマ中におけるエネルギー輸送は、プラズマ粒子とプラズマ波動との相互作用によって決定される。そのエネルギー輸送過程は、相互作用のメカニズムによって様々な様相を呈するが、基本は、粒子ひとつひとつがもつ速度ベクトルと波動の瞬時ベクトルの位相差で記述される。その記述を実際の観測で捉えようとするのが、「波動粒子相互作用解析装置(WPIA: Wave-particle interaction analyzer)」である。この装置では、粒子センサーで捕捉される粒子ひとつひとつと、波動センサーで観測される波形のサンプリング毎のデータとの位相比較を行う必要があり、規模が大きく、将来の小型・超小型衛星での搭載は困難である。そのため、WPIA専用の半導体チップを開発して超小型にしようとするのが、本研究である。本年度は、図で示した0.57mm x 0.21mmの範囲に粒子センサーで捕捉した数ナノ秒で立ち上がる電流パルスをとらえて、次段のプラズマ波動観測器に受け渡すための捕捉・増幅回路の実現とその動作の安定化に成功した。この小型化により、将来的に、プラズマ波動観測器と、粒子センサーを接続してWPIAを実現するための超小型チップの実現に近づいた。

チップ化された粒子検出器用のパルス捕捉回路レイアウト

課題4 新規材料の宇宙利用可能性に関する研究

研究代表者 上田 義勝(京都大学 生存圏研究所)
共同研究者 高橋 克幸 (岩手大学)

将来の宇宙利用に期待される新規材料として、微細気泡技術に関する基礎・応用利用研究を継続している。令和2年度においては、水中プラズマと気泡との関係性についての研究を開始しており、植物生長阻害物質の分解を試みる事で、処理された溶液の植物への生態への影響を評価した。試料には、キュウリの生長阻害物質である2,4-ジクロロ安息香酸を用いた。プラズマ処理で、2,4-ジクロロ安息香酸は分解除去され、処理後の溶液を用いキュウリを栽培した場合、健康に生長することがわかった。また、水中プラズマ方式の課題である、エネルギー効率の低さを解決する目的で、微細気泡を液中に導入することによって、プラズマ生成に関わるエネルギーバランスの改善を試みた。微細気泡を導入した場合、絶縁破壊電圧を2分の1程度まで低下し、より電離が進むことがわかった。これはパルス幅が短い場合に特に顕著であることがわかった。また、溶液の導電率を変化させ、十分な電圧を印加した場合、導電率の低下とともに放電確率が導電率の低下とともに減少するが、気泡がある場合はその低下が抑制されることが明らかになった。

図1 異なる養液を用いた場合のキュウリの地上部高さの日数変化
図2 微細気泡有無による放電確率の導電率依存性

 

課題5 EELSによるウルシ炭素化物DLC膜のAO抵抗性予測

研究代表者 畑 俊充(京都大学 生存圏研究所)
共同研究者 小嶋浩嗣、飛松裕基 (京都大学 生存圏研究所)

高度200から700kmの低地球軌道において、宇宙機の表面材料は原子状酸素(AO)により急速な酸化劣化を生じる。AOに対して抵抗性がある材料をつくるためDLC膜とその元となる木質炭素ターゲットにAOを照射し、得られた化合物と削られ量を調べた。電子エネルギー損失分光法(EELS)によりDLC膜の構成元素比を調べたところ、ケイ素の割合がAO照射により増加した。これはAO照射により炭素材料がCOやCO2といったガスとSiO2という個体残渣に変化したことによる。元の木質炭素ターゲットの重回帰分析により、SiO2やC=Oといった成分を含む化合物が、AO照射に対して抵抗性を示すことが予想された。Siを含む木質炭素化物によるAO抵抗性付与の可能性を示す結果が得られた。

Resistance against atomic oxygen by carbon

 

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