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ミッション3「宇宙生存環境」
令和元年度の活動

更新日: 2020/06/09

課題1 シミュレーションによるサブストームの研究

研究代表者 海老原祐輔(京都大学 生存圏研究所)
共同研究者 田中高史 (九州大学 名誉教授) 、上吉川直輝(京都大学 生存圏研究所)

オーロラ爆発が起こると莫大なエネルギーが極域超高層大気で消費され、大気を温める。オーロラ爆発は地震と同じように一種のエネルギー解放過程であり、その大きさを予測することは難しいと考えられていた。太陽風の条件を様々に変えたシミュレーションを行い、オーロラ爆発の大きさ(ジェット電流の強さ)は太陽風から磁気圏に流入するエネルギーにほぼ比例することが分かった。オーロラ爆発のエネルギー源は太陽風とともに太陽から引き出される太陽の磁場だと考えられていたが、磁気圏に流入するエネルギーのうち3割から9割は太陽風が持つ運動エネルギーが起源であることもわかった。大規模数値シミュレーションにより、太陽風という形態で太陽から地球に取り込まれるエネルギー変換の仕組みと流れがおよそ把握できるようになった。

成果発表

  1. Ebihara, Y., Mechanism of auroral breakup, Japanese Journal of Multiphase Flow, 33, 3, 267-274, doi:10.3811/jjmf.2019.T012, 2019
  2. Ebihara, Y., and T. Tanaka, Evolution of auroral substorm as viewed from MHD simulations: Dynamics, energy transfer and energy conversion, Reviews of Modern Plasma Physics, 4:2, doi:10.1007/s41614-019-0037-x, 2020.

課題2   放射線帯の相対論的電子フラックス変動の研究

研究代表者 大村善治(京都大学 生存圏研究所)
共同研究者 謝怡凱 (京都大学 生存圏研究所)

ホイッスラーモード・コーラス放射による放射線形成過程を再現するために、テスト粒子計算に基づく数値グリーン関数法を用いたモデリングを行った。経度方向に局在したコーラス放射を想定し、コーラス放射によって加速された相対論的な高エネルギー電子が経度方向にドリフトする過程を通じて、地球を取り巻く全球的なトーラス状の放射線帯が次第に形成されることを検証した2)。今後の展開として、相対論的電子を降下させるEMIC波と電子を加速するホイッスラーモード・コーラス波を組み合わせ、さらにこれらの波動の斜め伝搬の効果も取り入れた数値グリーン関数のデータベースを構築し、より現実的な放射線帯モデリングを実行できる環境を整えてゆく。

局所的な経度範囲で発生したコーラス放射による電子加速と放射線形成

課題3 宇宙電磁環境の精密・多点観測を可能にする超小型プラズマ波動観測器の開発

研究代表者 小嶋 浩嗣(京都大学 生存圏研究所)
共同研究者 菊川素如(京都大学大学院工学研究科博士課程1年), 浅村和史(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所)

宇宙プラズマ中におけるエネルギー輸送は、プラズマ粒子とプラズマ波動との相互作用によって決定される。そのエネルギー輸送過程は、相互作用のメカニズムによって様々な様相を呈するが、基本は、粒子ひとつひとつがもつ速度ベクトルと波動の瞬時ベクトルの位相差で記述される。その記述を実際の観測で捉えようとするのが、「波動粒子相互作用解析装置(WPIA: Wave-particle interaction analyzer)」である。この装置では、粒子センサーで捕捉される粒子ひとつひとつと、波動センサーで観測される波形のサンプリング毎のデータとの位相比較を行う必要があり、規模が大きく、将来の小型・超小型衛星での搭載は困難である。そのため、WPIA専用の半導体チップを開発して超小型にしようとするのが、本研究である。本年度は、図で示した0.57mm x 0.21mmの範囲に粒子センサーで捕捉した電流パルスをとらえて、次段のプラズマ波動観測器に受け渡すための捕捉・増幅回路を実現することに成功した。この小型化により、将来的に、プラズマ波動観測器と、粒子センサーを接続してWPIAを実現するための超小型チップの可能性を示すことができた。

チップ化された粒子検出器用のパルス捕捉回路レイアウト

課題4 新規材料の宇宙利用可能性に関する研究

研究代表者 上田 義勝(京都大学 生存圏研究所)
共同研究者 徳田 陽明、(滋賀大学)、廖 正浩(中国 同済大学)、Vishnu Thonglek, Rattanaporn Norarat(タイRajamangala University of Technology Lanna)

将来の宇宙利用に期待される新規材料として、微細気泡技術に関する基礎・応用利用研究を継続している。我々はこの微細気泡の基礎特性に関する研究と、応用試験、また融合研究として、いくつかのミッションにまたがる形として、各大学や研究機関とも共同研究を行ってきている。

High-speed image of microbubble generation with/without UFB (a: original photo of ejected water with UFB; b: original photo of ejected water without UFB; c: photo a after analyze particles; d: photo b after analyze particles)

課題5 低軌道宇宙環境耐性をもった木質系炭素膜の微細構造解析

研究代表者 畑 俊充(京都大学 生存圏研究所)
共同研究者 小嶋浩嗣、飛松裕基 (京都大学 生存圏研究所)

高度200から700kmの低地球軌道において、宇宙機の表面材料は原子状酸素(AO)により急速な酸化劣化を生じる。木質炭素材の宇宙圏における利用可能性を検討するため、ブナ、スギ、およびイネから得たリグニンを調製した。900℃で炭素化し高解像度透過電子顕微鏡を用いて微細構造を解析したところ、炭素化によりブナ、スギ、およびイネの炭素格子の面間隔がそれぞれ0.44, 0.44, および0.32nmとなった。炭素化前と比較するとそれぞれの面間隔の収縮率は41, 59, および22%であった。木質由来の炭素材は空孔径が小さくそろっており、宇宙圏で問題となる原子状酸素の吸着効果が大きく現れることが期待できる。この結果は、木質由来ならではの炭素材の宇宙利用の優位性を獲得できる可能性を示している。

Resistance against atomic oxygen by carbon

 

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