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生存科学計算機実験分野 教授 海老原祐輔 ~スーパーコンピューターで宇宙空間をシミュレーションしてわかる「生存圏」の今と未来~

更新日: 2023/09/13

地球の周りの宇宙はどうなっているのだろう?そんな素朴な疑問から研究が始まりました。この問いは、私たちはどこに住まうのか、私たちはどこに向かうのか、という根源的な問いにつながります。人間の生存に必要な領域と空間を生存圏と呼ぶならば、宇宙空間はその最遠にあたり、生存圏はどうなっているのだろうか?という問いに置き換えることができます。これらの問いに答え、宇宙を安全に利用できる場とすべく、計算機の中で宇宙空間を模擬し、宇宙空間で起こる様々な現象を調べています。

 

宇宙空間は真空ではなく、多数の粒子で満ちています。とりわけ陽子と電子がバラバラになって電気を帯びた粒子(プラズマ)は宇宙空間変動の原因となり重要です。電気を帯びた粒子は電場や磁場の影響を受けて動き、粒子が動くと場を変えます。粒子と場は互いに影響を及ぼし合うため粒子の動きはとても複雑で、そのような粒子が無数に飛び交う宇宙空間は複雑さの極みです。だからといって手に負えないということはありません。粒子は磁力線に巻き付くという性質や集団で動くという性質(粒子は自由のようで完全に自由ではない)をうまく使い、適切な近似を施すと計算機で扱えるようになります。生存圏研究所にはA-KDKというスーパーコンピュータがあります。現在、1秒間に600兆回もの演算ができるほどの性能があり、複雑で大規模な計算を行うことができます。

 

粒子と場の相互作用の結果、宇宙空間では磁気嵐、オーロラ爆発、放射線帯の急増といった大規模な乱れが時々発生します。なぜでしょうか。太陽は強い磁場を持ち、常にプラズマを惑星間空間に向かって吹きだしています。太陽風と呼ばれ、平均速度は秒速400キロメートルもあります。巨大な太陽フレアが発生すると秒速1000キロメートルを超えることもあります。幸い地球は強い磁場を持ち、地球磁場の勢力範囲である磁気圏が盾となり、吹き荒れる太陽風の直撃を免れています。ただし、磁気圏の守りは鉄壁ではなく、磁場のエネルギーはたやすく磁気圏に侵入することができるのです。

 

エネルギーの侵入に伴い、磁気圏の中でプラズマが昼側から夜側へ、夜側から昼側へと循環する対流が駆動されます。対流は夜側で遅くなる傾向があり、渋滞がおこります。プラズマは押しつぶされ、温度は数千万度に上昇します。熱くなったプラズマは対流に乗って昼側に向い、さらに温度が上昇します。この高温プラズマは地球磁場が数日間乱れる磁気嵐や、電磁波動を発生させ、その電磁波動が電子を光速近くまで加速し、放射線帯を増やす原因になります。一つの粒子は非常に小さいものですが、無数の粒子が集団として動き、ときには場を介して協調しあい、大規模な乱れを作り出しているのです。

 

磁気圏の夜側で一部の磁力線がつなぎかわることがあります。磁気再結合現象と呼びます。つなぎかわった磁力線は急速に縮み、周囲のプラズマと共に地球向きに進みます。シミュレーションによると、プラズマは地球に近づくにつれ向きを変え、地球の磁力線を東西方向に引っ張って強い電流を作り、その電流は極域の超高層大気に流れていきます。オーロラ嵐の始まりです。余剰な電流を排出しようと、超高層大気からの要請で地球と宇宙をつなぐ電流が新たに生じます。この電流は西や北の方に広がり、明るいオーロラがどんどん拡大することに対応しているようです。オーロラ嵐はまさに宇宙と地球の共創といえるでしょう。そんな姿がシミュレーションから見えてきました。

 

シミュレーションによって宇宙空間で起こる様々な現象の理解が進みました。謎が全て解けたかというとそうではありません。オーロラの細かい動きはまだ再現されていませんし、放射線帯の急増など多くの未解決問題があります。計算機がさらに発達し、より大規模なシミュレーションを行えるようになると、生き生きと動き回るオーロラなど宇宙空間でおこる様々な変動を詳細に再現できるようになるかもしれません。

 

シミュレーションは未来予測も得意です。例えば、地球の磁場は100年間に約6%の割合で減っています。このまま減り続けると数千年後には地球磁場は無くなる計算です。地球磁場の大きさを様々に変えたシミュレーションを実施したところ、地球磁場が減るとオーロラ爆発の勢いは弱まるが、超高層大気を流れるジェット電流が増える(送電網への影響が高まる)という意外な結果を得ました。これはシミュレーションしてみなければ分からないことです。ほかにも、たとえば太陽で超巨大爆発が起きたらどうなるか、そのとき日本の送電網は安全か、宇宙飛行士や人工衛星は安全か、という問題があります。生存圏の未来に関わるこれらの問題に対し、シミュレーションは威力を発揮することでしょう。

 

古代の為政者は占術を用いて未来を予測しました。占術に代わり現代では計算機シミュレーションが未来を予測してくれます。身近な例として天気予報や台風の進路予想があります。宇宙はまだ身近とは言えませんが、太陽活動の送電網への影響が懸念されていますし、気軽に宇宙に行ける時代が近づいています。より豊かな社会の実現をめざし、変わりゆく宇宙や地球のなかでどう生きながらえていくのか、そしてどこに向かうのかという問いに計算機シミュレーションを用いて答えていきたいと思います。

シミュレーション動画:オーロラ爆発のしくみ(2023)


電磁流体シミュレーションが示唆するオーロラ爆発のしくみ。
2023年公開
制作者:生存科学計算機実験分野 海老原祐輔

 

生存科学計算機実験分野・電磁流体シミュレーション動画はこちら

https://www.rish.kyoto-u.ac.jp/research_movies/lcshs/

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