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網羅解析による木造建築の耐震性能に与える生物劣化の影響の見える化
Visualization of Effect of Biodeterioration on Seismic Performance of Wooden building by Comprehensive Analysis

更新日: 2023/05/01

氏名 井上 涼
共同研究者 中川貴文
採択年 2023(令和5) 年度

関連ミッション

  • ミッション4 「循環材料・環境共生システム」
  • ミッション5 「高品位生存圏」

研究概要

木造住宅は腐朽や蟻害といった生物劣化の影響を受けることによって耐震性能が低下する。既存住宅を長期利用するためには、残存耐震性能を適切に評価し、状況に応じて適切な耐震補強・補修を施す必要がある。しかし、生物劣化がみられた木造住宅の残存性能を詳細に評価する手法は定まっていない。

 現在、既存住宅の残存耐震性能の評価にあっては、劣化が疑われる部分にドライバーを直接突き刺し、刺さり具合によって劣化度を判断するなど、診断者の感覚に頼る部分が大きい。これを受けて、より定量的な評価を目指して、劣化診断機器としてピン貫入抵抗測定装置を取り上げ、木材の残存強度や接合部の残存性能などとの関係についてのデータ蓄積が進められている状況であり、これを用いた耐震性能評価が可能となることが望まれる。

 生物劣化がよく見られる個所として、水回り付近や仕上げにクラックがみられた開口部付近の部材などといった水分が供給されやすい場所であることが知られているが、劣化の箇所によっては構造的には大きく影響しないなど、劣化箇所や程度、組み合わせが耐震性能に与える影響についての分析が必要である。

 本研究の目的は、生物劣化の箇所や劣化度合い、劣化の内容などの違いが木造住宅の耐震性能に与える影響を明らかとすることである。生物劣化を受けた構造要素の実験結果を反映した網羅解析の結果を分析することにより、劣化内容に応じた詳細な評価が可能となること、さらに耐震診断やその後の耐震補強における指針の作成に寄与するデータの作成を目指す。

 生物劣化を受けた耐力壁の荷重変形関係は実験によって蓄積が進められており、これらのデータを用いて生物劣化を受けた木造住宅の地震応答解析を実施すること自体に新規性がある。解析は、特定箇所の劣化を考慮できる木造住宅倒壊解析ソフトウェアwallstatを用いて実施する。これまでの取り組みにおける課題点として、多数の部材1つ1つが劣化した場合について解析し、耐震性能への影響を分析することが困難であったため、解析結果の蓄積量が十分ではなかったこと、詳細な劣化調査は破壊を伴うことから、調査可能な物件が制限されており、分析のために必要な棟数や生物劣化の事例が集まらないことが挙げられる。これに対して、本研究では、解析にスーパーコンピュータを用いることで、一度に大量の解析結果が得られるところに更なる特徴がある。網羅的な解析によって様々な劣化パターンについて検証することが可能となり、データの更なる拡張が期待できる。得られた膨大なデータは機械学習を取り入れた手法によって効率的に分析が可能となる見込みであり、数ある生物劣化パターンから影響度の高いものが抽出できると考えている。

 これまで定量的に評価することが難しかった生物劣化を受けた住宅の耐震性能の評価手法を示し、耐震補強の促進に資する資料となることを期待している。また、今後蓄積が進むと期待している実物件の劣化状況と併せて整理することで、より実態に則した診断・評価指標の提案につながると考えている。

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2023年5月1日作成

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