卵菌には、陸上植物へ甚大な被害を与える『根腐れ病』や『立枯れ病』の原因の菌になるPhytophthoraやPythium属などが含まれており、ジャガイモやトマトの疫病菌のPhytophthora infestansがその代表例である。このジャガイモ疫病菌はヨーロッパ全域でジャガイモを壊滅的に枯らし、19世紀中ごろにアイルランドで歴史的な大飢饉を引き起こしたことで知られる植物病原菌である。ジャガイモは、世界中で年間約1億トンも消費される主要作物の一つで、ジャガイモ疫病菌がもたらす年間被害額は50億米ドルに達ている。このことは、農業に深刻な打撃を与えて続けており、食糧を確保する上での問題点の一つである。
水産業では卵菌類に属するSaprolegnia sp.やAchlya sp.、Aphanomyces sp.などによってミズカビ病が引き起こされる。特にSaprolegnia sp.が原因のサケ科魚類の受精卵に発生するミズカビ病が深刻で、養マス業の種苗生産に大きな被害を及ぼしている。また、ミズカビによる水産業への被害はサケ科魚類のみではなく、アユやナマズ、うなぎ、クルマエビなどへの感染も報告されている。また、馬や犬などの動物にも感染することが知られており、その感染が人にも及ぶことがある。人への感染例は、Pythium insidiosumが報告されており、重篤化する場合もある。これは、卵菌が真菌とは細胞壁、細胞膜中のステロイドなどが異なるため従来の抗真菌症薬剤では治療が困難であるためである。
本研究では、放線菌Streptomyces sp. TK08046株が生産するサプロルマイシンの抗卵菌活性において増大に関わる希少糖であるアキュロースの糖転移酵素をコードする遺伝子を同定する。また、農業、水産業、人の健康に被害を与える卵菌に対して特異的抗卵菌活性を示す新たな物質を代謝デザインを駆使して創製を試みる。
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2019年4月22日作成