近年、地球温暖化問題に関連して、森林が二酸化炭素を吸収し炭素を固定すること、炭素固定産物としての木質資源の長期利用は温暖化防止に有効であることなどから、世界各国で、森林、木質資源の利・活用に注目が集まってきている。中国では、人工林面積が世界一となったが、ポプラやチャイナファーなどの蓄積量が大きい低質木質資源の利用技術がまだ十分でない。このような背景を考えた時、中国産低質材の高耐久・高機能化技術の基礎、ならびに実用技術の確立は、中国における森林の持続において必須の研究課題である。
低質木質材料の欠点を改良するために、これまでに日本の研究者らは、木材の性能、機能の向上を目的とした複合化処理に関する研究を長年続けてきた。それによると、目的とする薬液を木材中の反応場にいかに十分注入するかが重要視された。しかし、これらの研究は、断片的になされていたため、多くの樹種について、前処理方法が確立されていない。また、近年多くのバイオマス由来の薬品が開発されても、分子量や溶液濃度によって、材にうまく浸透できないことが多い。すなわち、木材への液体の有効浸透の悪さが、新しい木質材料の開発や環境に良い化学薬品の木材への応用を阻んでいる。
従って、木質材料を有効に利用するために、木材の浸透性を左右している因子、樹種によって異なる影響因子の影響度など、樹種全体を説明できる液体浸透の本質に迫る必要がある。その本質の解明によって、木材の浸透性を改善する基礎的問題を見直し、系統的に、普遍的な技術を確立しなければいけない。そこで、本研究は、日本の樹種を含み、中国の主要な人工林樹種を視野に入れ、木材の液体浸透機構を新たな観点から解明し、低環境負荷、国際的に産業化できる木材への液体浸透技術を確立して、高耐久・高機能性材料の創製や埋蔵材などの木材の保存に貢献することを目的とする。