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大気微量成分観測に基づく対流圈成層圏大気輸送・混合過程の評価
Research on atmospheric transport and mixing processes in the troposphere and the stratosphere based on trace gas observations

更新日: 2015/04/16

氏名 稲飯洋一
共同研究者 塩谷雅人
採択年 2014(平成26) 年度

地球温暖化、オゾンホールは人類の生存に関わる重大な地球環境問題である。地球温暖化の進行は、気温や降水の時空間分布を変化させ、植生に支配的な影響を 持つ。またオゾンホールによる紫外線(UV-B)量の増加も、植物を含む生物の遺伝情報とその発現を担う核酸に影響を与え、さらに腐食物質の合成や光励起 反応によって生じる活性酸素種に影響を与えることで土壌を変質させる。

地球温暖化・オゾンホールは、温室効果気体やオゾン破壊物質の人為的過剰放出が原因で生じている。これらの物質は人間活動に伴い多くは地表付近に排出さ れ、上部対流圏へ輸送された後、赤道域に存在する対流圏-成層圏遷移層; 熱帯対流圏界層(Tropical Tropopause Layer (TTL))を通過して、成層圏へと流入している。その後、成層圏の子午面循環(Brewer-Dobson; B-D 循環)に伴って、赤道域で 400 m/月程度の速度で上昇し高緯度の成層圏全体へと輸送されていると考えられている。

対流圏や成層圏における温室効果気体の増加に伴い、対流圏は温暖化/成層圏は寒冷化することに加えて B-D 循環が強化されると予測されている(Butchart et al., 2006; 2010)。最近の化学気候モデルのシミュレーションによれば、成層圏の寒冷化は成層圏オゾンの増加に繋がると考えられているが、B-D 循環の変化に伴う成層圏オゾン分布への影響についてはモデル間で予測にばらつきが生じている(Douglass et al., 2014)。このように環境変動問題を理解しその解決を図るためには、B-D 循環をはじめとした成層圏力学過程の理解が不可欠であるが、特に現場観測に基づく研究(例えば Engel et al., 2009)はモデルによるそれに比べて量的に不足しているのが現状である。

本研究では、船舶・気球・航空機・島嶼観測所などによりこれまでに観測された二酸化炭素(CO2)や(SF6)濃度データを用いて、大気の輸送・混合過程の評価を試みる。その評価には、CO2 や SF6 が増加トレンドを持つ気体であり化学的に安定なためその放出源/吸収源から離れた場所においては空気塊のトレーサーとして用いることができることを利用する。また CO2 や SF6 濃度データに加え、特に上部対流圏/下部成層圏においてトレーサーとしての役割を持つオゾン・水蒸気観測データも用いて、図に示すような下部対流圏から TTL そして成層圏への大気輸送過程・混合過程を評価しその実態を観測事実に基づき明らかにする。

 

2013m01
図:対流圏、熱帯対流圏界層(TTL)、成層圏の模式図(緯度-高度断面)。対流圏の大気はTTLを通過し成層圏へと流入する(青矢印)。本研究ではこの循環場に沿った大気微量成分観測データ(赤丸部)を解析し大気輸送過程を評価する。

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