Research Institute for Sustainable Humanosphere

ミッション5-4「木づかいの科学による社会貢献(木造建築、木質住環境、木質資源・データベース、木づかいの変遷)」
令和2年度の活動

受賞

令和2年度 京都大学 優秀女性研究者奨励賞(研究者部門)

【受賞者】京都大学生存圏研究所 田鶴寿弥子
【授与組織名】京都大学
【受賞年月】20213月3日
【受賞タイトル】新旧手法を併用した木質文化財の科学調査による東アジアの木の文化の多様性解明へむけた文理融合型研究

 課題1 アジアにおける木材情報の調査と保存

研究代表者 田鶴寿弥子(京都大学 生存圏研究所)
共同研究者 今井友也、馬場啓一(京都大学 生存圏研究所)、国立台湾歴史博物館より数名

我が国の適所適材の用材観や伝統的木製品は、アジア域の相互的文化交流の歴史によって培われた賜物であり、それらの知識なしに、我が国特有の木の文化を理解することは不可能である。本研究では、東アジア(中国、韓国、日本)との国際共同研究として、貴重な木製品や建造物などの樹種識別ならびに学術的研究を実施することを主課題とした。特に欧米の美術館・博物館との木彫像の樹種調査に関する共同研究の実施を進めた他、DNAを用いた木質文化財の樹種識別手法の基礎的研究を進めた。
本年度は、コロナ禍により欧米や東アジア諸国の美術館への訪問調査が叶わなかったものの、継続してクリーブランド美術館やシカゴ美術館などをはじめとして、新たな文化財調査を進めている。
2019年にフィラデルフィア美術館にて調査を行った日本の神像彫刻について樹種を調査した結果、Magnolia.spということが判明したが、その後美術史の研究者らと形態的特徴などからこの神像が世界中に散逸してしまったある神像グループの一つである可能性が高いことが示唆された、それを皮切りに、このグループに属する可能性が高い他の神像について、欧米・国内の美術館など複数の機関にコンタクトをとり、樹種を含めた体系的な研究計画が進み始めている。これまでに、まずはクリーブランド美術館などから神像の試料を受け取り済みであり、今後、伊東隆夫京大名誉教授(奈文研)、メヒテル・メルツ博士(東アジア文明研究センター(フランス))、田鶴寿弥子(京大生存研)、杉山淳司(京大)により、光学顕微鏡およびSPring-8の放射光マイクロCTを活用した樹種同定を進めていく予定である。
また、国内の建造物調査において当時の木材利用や木材流通を知る上で大きなヒントをもたらすと期待されているアスナロ属の古材を用いたDNAによる樹種識別への応用を目指した研究を進めている。市販のキットを古材試料からDNAを抽出し、PCRによりrbcL遺伝子、matK遺伝子の増幅を試みた。現在のところ古材からでもDNAを増幅し配列解析を行うことは、遺伝子上の短い領域であれば可能であることが判明したが配列データが乱れる傾向が葉の試料からのDNA分析と比較して強く、さらなる解析が必要であることも分かった。
文化財から得られる科学的情報は、言うまでもなく日本の歴史ならびに東アジア地域の文化を知る上で重要である。今後もデータベースの拡充にむけて尽力したい。来年度も国内およびアメリカ国内およびヨーロッパの複数の博物館や美術館に保管されている木彫像の樹種調査をすすめる予定である。また国立台湾歴史博物館との生存圏研究所間のMOUが無事締結されたが、世界情勢を鑑みながら、次年度以降、徐々に木彫像の共同研究に向けて準備を進めていく。
継続してすすめている日本国内の茶室・和風近代建築・歴史的建造物における樹種調査では、裏千家今日庵をはじめ国宝如庵や聴竹庵、近代和風建築数件などについても、調査が完了しており2021年度複数の報告書と論文をまとめることになっている。

成果発表

1.論文
1) 田鶴寿弥子 杉山淳司 重要文化財裏千家住宅保存修理工事における部材の樹種識別調査 木材学会誌 , 67,1 2021.
2) 喜多祐介 田鶴寿弥子 竹下弘展 杉山淳司 近赤外分光法と多変量解析を用いた建築用材の識別とその汎化性能向上, 木材学会誌 , 66, 3, 171 182 , 2020.
3) 田鶴寿弥子 木材の樹種識別の今とこれから Cellulose Communications, 27, 21, 50 53 , 2020.
4) Sung Wook H wang Suyako Tazuru, Junji S ugiyama, Wood Identification of a Historical Architecture in Korea by Synchrotron X ray Microtomography based Three Dimensional Microstructural Imaging, Journal of the Korean Wood Science and Technology, 48, 3, 283 290, 2020.
5) Yusuke Kita, Suyako Tazuru, Junji Sugiyama Two dime nsional microfibril angle mapping via polarization mic roscopy for wood classification, IOP Conf. Series: Earth and Environmental Science, 012028, 415, 2020.
6) 田鶴寿弥子 重要文化財菅田庵及び向月亭ほか一棟保存修理工事事業における部材の樹種識別調査 茶の湯文化学 , 35 , 2020 .

2.報告
1) 田鶴寿弥子 反町始 杉山淳司 令和 2 年度 修復文化財(木彫)の樹種同定報告 (美術院 奈良国立博物館 文化財保存修理所 修理報告書 2021.
2) 田鶴寿弥子 木材同定表 楽浪文化財修理所文化財修理報告書 2020.
3) 杉山淳司 田鶴寿弥子 反町始 平成 30 年度修理文化財(木造)材質調査報告 平成三十年度奈良国立博物館文化財保存修理所修理報告書第二号 , 2, 103 104 2020.

3.紀要・レポート
1) 田鶴寿弥子 杉山淳司 重要文化財願興寺本堂保存修理工事における用材調査 第二報 , 生存圏研究 ,京都大学生存圏研究所編 16, 45 50 , 2020 .
2) 田鶴寿弥子 奈良県吉野地方における木彫像の樹種調査 月刊 考古学ジャーナル , 745, 23 25 , 2020.
3) 田鶴寿弥子 メヒテル・メルツ 伊東隆夫 杉山淳司 ボストン美術館所蔵日本の木彫像における樹種識別調査事例 SPring 8/SACLA 利用研究成果集 , 8, 3, 506 508 , 2020.
4) Suyako Tazuru Mizuno, Wood selection for Japanese wooden Komainu, Sustainable Humanosphere, 16, 1 2 ,2020.
5) 田鶴寿弥子 杉山淳司 山下立 滋賀県地域における狛犬の樹種調査 -近江の狛犬 基 礎資料集成(稿4・木造狛犬(樹種同定作品)篇)- 安土城考古博物館紀要 , 26 ・ 27 号合併号 , 1 24 , 2020.

課題2 熱帯における年輪気候学

研究代表者 今井友也(京都大学 生存圏研究所)
共同研究者 田上 高広(京都大学 理学研究科)、渡邊 裕美子(京都大学 理学研究科)、片山 善登(京都大学 理学研究科 M1)、田鶴寿弥子(京都大学 生存圏研究所)、杉山 淳司(京都大学 農学研究科)

年輪酸素同位体比のプロキシシステムモデルによる解析: インドネシア・ジャワ島のチークのセルロース酸素同位体について、プロキシシステムモデルによる解析を行い、降水プロキシとしての年輪酸素同位体比の理解深化を目指した。Kurita et al. (2016) によるモデルを修正し、ジャワ島産チークに適用した。その結果、モデルによる計算値は実測値 (Hisamochi et al., 2018) にほぼ一致したことから、モデルはチークの同位体比を大まかに再現することができたと言える。チーク同位体比は、土壌水、水蒸気、相対湿度より変動していることが示唆された。現在、この研究成果を投稿論文としてまとめている。
比叡山スギにおける年輪幅と同位体比変動: 京都・比叡山の杉の円盤試料について、年輪幅や年輪セルロースの水素・炭素・酸素同位体比を分析し、過去350年ほどの時系列変動データを得た。酸素同位体比のマスタークロノロジーと比較して、年輪の形成時期を特定した。さらに、年輪の酸素同位体比と気象データとを相関解析をした結果、5~6月の降水量、6月の相対湿度と逆相関があり、降水プロキシとして有用であることが示唆された。

成果発表

  1. Ohmuro, W., Watanabe, Y., Li, Z. and Nakatsuka, 2020. Cellulose oxygen isotopic time series of teak disks collected from Bago Mountains, Myanmar.  JpGU-AGU Joint Meeting 2020, virtual meeting, July 12-16th, 2020.
  2. Watanabe, Y.、Hisamochi, R., Sano, M., Nakatsuka, T. and Tagami, T., 2020. Cellulose oxygen isotopic time series of teak disks collected from Java, Indonesia.  JpGU-AGU Joint Meeting 2020, virtual meeting, July 12-16th, 2020.
  3. Katayama, Y., Watanabe, Y., Li, Z. and Nakatsuka, 2020. Hydrogen, carbon, and oxygen isotopic variations of tree ring cellulose in Mt. Hiei, Shiga.  The 5th Asia Research Node Symposium on Humanosphere Science, virtual meeting, December 22-23th, 2020.
  4. 中島公洋, 李貞, 中塚武, 渡邊裕美子, 田上高広, 2020. 遺跡出土材を対象とした年輪セルロース酸素・水素同位体比年層内変動の検討.  日本文化財学会第37回大会, WEB開催, 2020年9月5~13日.
  5. 渡邊裕美子, 2021. 年輪幅とセルロース同位体比による降水情報の抽出:インドネシアとミャンマーでの事例.  第441回生存圏シンポジウム, 京都大学生存圏研究所, 2021年3月2日.

課題3 伝統構造・未来住空間

代表者氏名:五十田 博(京都大学 生存圏研究所)
共同研究者:中川 貴文、Li Zherui、小松 幸平(京都大学 生存圏研究所)、北守 顕久(大阪産業大学)、Que Zeli(中国 南京林業大学 材料科学与工程学院)、Min-Fu Hsu(台湾国立成功大学 建築学部)、Yu-Lin Chung(台湾国立成功大学 建築学部)

アジア域における伝統的な木造建築から、最新の中層木造建築までの種々の住環境的特徴や構造的性能を評価することにより「木づかい」の理解を深化させるとともに、その知見に立脚した新しい高性能木質素材を開発・利用することにより、安心安全な未来型木質住空間の創成を目指しています。
 伝統構法技術に関して、断面の大きい木造軸組の構造耐力性能を正当に評価する道筋を見出すため、頭貫と太い柱を持つ構面の実験を実施した。さらに、水平抵抗性能のキーポイントとなる差し鴨居の切り欠きのある柱の曲げ耐力を明らかにした。

成果発表

  1. ドットコーポレーション、京都大学生存圏研究所 国土交通省令和2年度建築基準整備促進事業「差し鴨居接合部を有する垂れ壁の軸組の壁倍率に関する検討 報告書」令和3年3月
  2. 小松幸平、北守顕久、中川貴文、中島昌一、五十田博:東アジアの伝統木造建築に見られる柔構造メカニズムの解明 その1―柱の傾斜復元力に及ぼす頭貫の影響、日本建築学会大会学術講演梗概集(2020)
  3. 李哲瑞、北守顕久、中川貴文、荒木康弘、五十田博:Lateral Resistance of Traditional Timber Frame with Large Cross-section. Part.3 Diagonal Effect of the Sashigamoi Tie-beam and the Interaction with Beam-end Joints その3 断面の大きな差し鴨居の効果、日本建築学会大会学術講演梗概集(2020)          

 

課題4 高性能木質素材

研究代表者 梅村 研二(京都大学 生存圏研究所)
共同研究者 安藤 大将(京都大学 生存圏研究所)、張 敏(浙江農林大学、京都大学 生存圏研究所)、趙 中元 (南京林業大学)、Ragil Widyorini(ガジャマダ大学 森林学部)、Sukma Surya Kusumah(インドネシア LIPI 生物材料研究センター)、Rahma Nur Komariah(ジャンビ大学 森林学部)、Md. Iftekhar Shams (バングラデシュ クルナ大学)

未来型木造建築では、持続可能な低環境負荷型木質材料の開発が求められる。昨今の世界的な森林面積の減少や、低炭素化社会へ向けた様々な取り組みを考えると、農産廃棄物などの未利用リグノセルロースを木質材料の原料として積極的に利用するとともに、化石資源由来の接着剤を出来る限り使用しない接着技術を開発する必要がある。本研究では、オイルパームに着目し、樹幹部分の特に内側部分を原料に用いたパーティクルボードの開発を進めている。
今年度は、昨年度に得られた結果に基づいて、リン酸二水素アンモニウム(ADP)の添加によって高寸法安定性のボードが得られるメカニズについて検討を行った。その結果、ADPが原料中のヘミセルロース成分の一部を分解して遊離糖を生成させ、それがフラン化合物を含む高分子物質へと変性し、ボードの耐水性に寄与したと推察された。この他、海外の共同研究者と留学生の受け入れについて協議するとともに、今後の研究計画等について意見交換を行った。

成果発表

  1. Rahma Nur KOMARIAH, Takuji MIYAMOTO, Sukma Surya KUSUMAH, Soichi TANAKA, Toshiaki UMEZAWA, Kozo KANAYAMA and Kenji UMEMURA: Influence of water-soluble extract of the inner part of oil palm trunk on the binderless particleboard adding ammonium dihydrogen phosphate. BioResources(投稿中)

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