Research Institute for Sustainable Humanosphere

ミッション5-2 「脱化石資源社会の構築 (植物、バイオマス、エネルギー、材料)」
令和2年度の活動

課題1 リグニン代謝工学に基づくイネ科バイオマス植物のテーラーメード育種技の開発

所内担当者 梅澤俊明、飛松裕基
共同研究先 徳島大学、奈良先端科学技術大学院大学、北海道大学、理化学研究所、産業総合研究所、森林総合研究所、上海植物生理生態研究所、香港大学、高麗大学校、インドネシア科学院、オクラホマ大学、ワシントン州立大学、ウィスコンシン大学ほか

本研究では、循環型社会構築を担うバイオマス生産植物の分子育種技術基盤の構築を目指し、リグノセルロース系バイオマスの主要成分であるリグニンを様々に改変した組換え植物の作出とバイオマス特性の評価を国内外の研究機関と共同で進めている。本年度は、前年度に引き続き、ゲノム編集等を活用したリグニン生合成遺伝子の発現制御により、リグニンの化学構造や量を改変したイネやポプラ組換え株の作出に成功し、バイオマスの構造と各種特性を明らかにした。また、シロイヌナズナやタルウマゴヤシなどのモデル植物において、細胞壁(特にリグニン)生合成に関与する転写因子や酵素遺伝子の同定にも寄与した。

図 リグニンの化学構造を改変した形質転換イネ(右)とイネ科植物における一般的なリグニンのモデル構造式(左)

成果発表

  1. Miyamoto et al., MYB-mediated regulation of lignin biosynthesis in grasses. Plant Biol., 24: 100174 (2020).
  2. Umezawa et al., Lignin metabolic engineering in grasses for primary lignin valorization. Lignin, 1: 30-41 (2020).
  3. Lui et al., Convergent recruitment of 5´‐hydroxylase activities by CYP75B flavonoid B‐ring hydroxylases for tricin biosynthesis in Medicago legumes. New Phytol., 228, 269-284 (2020).
  4. Kim et al., The Arabidopsis R2R3 MYB transcription factor MYB15 is a key regulator of lignin biosynthesis in effector-triggered immunity. Plant Biol., 11: 583153 (2020).
  5. Hori et al. Identifying transcription factors that reduce wood recalcitrance and improve enzymatic degradation of xylem cell wall in Populus. Rep. 10: 22043 (2020).

関連論文発表他5報

課題2 植物の脂質分泌能を利用した物質生産プラットホームの技術開発

所内担当者 矢崎一史、杉山暁史、棟方涼介
共同研究先 理化学研究所ほか

植物は、脂溶性の物質を細胞外に分泌してアポプラストの蓄積する能力がある。 特に表皮細胞では、ワックスなど高脂溶性物質を細胞外に分泌する機能を有し、これは自らの体を乾燥から守るために必須の能力でもある。通常、培養細胞にすると、植物細胞は液体培地の中で生育するためこの能力を失うが、ムラサキの細胞はこの脂質分泌能力を維持しており、M9培地の中では脂溶性物質のシコニンを 細胞外に大量に分泌する。この能力をプラットフォームとして、有用脂質や化学 原料となる化合物を細胞外に効率よく分泌する新奇な生産システムの構築を行っている。本年度は、理化学研究所との共同研究で進めている物質生産用のベクターが完成したため、研究室内で独自に確立した高効率形質転換系を用いてムラサキに導入した。現在毛状根の発生を待っている段階である。それ以外に、ムラサキ細胞に おける脂質生合成や遺伝子のサイレンシングに関する技術開発で進捗があり、論文として報告した。

図 植物の脂質分泌能を利用した物質生産

成果発表

    1. Yamamoto et al., Alcohol dehydrogenase activity converts 3″-hydroxygeranylhydro-quinone to an aldehyde intermediate for shikonin and benzoquinone derivatives in Lithospermum erythrorhizon, Plant Cell Physiol., 61: 1798-1806 (2020).
    2. Ueoka et al., A cytosol-localized geranyl diphosphate synthase from Lithospermum erythrorhizon and its molecular evolution, Plant Physiol., 182: 1933-1945 (2020).
    3. Izuishi et al., Apple latent spherical virus (ALSV)-induced gene silencing in a medicinal plant, Lithospermum erythrorhizon, Rep., 10: 13555 (2020).
    4. Oshikiri et al., Two BAHD acyltransferases catalyze the last step in the shikonin/alkannin biosynthetic pathway, Plant Physiol., 184; 753-761 (2020).
    5. Tatsumi, K., et al., Highly efficient method of Lithospermum erythrorhizon transformation using domestic Rhizobium rhizogenes strain A13, Plant Biotech., 37 (1), 39-46 (2020).

課題3 マイクロ波・生物変換プロセスによるバイオマスの化学資源化

所内担当者 渡辺隆司、西村裕志
共同研究先 京都大学エネルギー理工学研究所、京都大学化学研究所、ダイセル、日鉄エンジニアリング、タイ国立科学技術開発庁NSTDA、チュラロンコン大学、インドネシア科学院LIPI、Al-Azhar大学、ラオス国立大、ほか

サトウキビ廃棄物から有用物質を生産するJSTのe-Asia研究を、タイ国立科学技術開発庁(NSTDA)、インドネシア科学院(LIPI)、ラオス国立大学、京都大学エネルギー理工学研究所、エネルギー科学研究科と実施した。本研究では、サトウキビ廃棄物の前処理、糖化酵素、エタノールおよびイソブタノール生産菌の分子育種、リグニン系界面活性剤の合成、微生物によるキシロースからのキシリトールの生産研究を実施し、前処理と糖化酵素に関する論文を発表した。また、JASTIPプロジェクトで、キシラナーゼやリグニン分解酵素であるラッカーゼの研究をLIPIやチュラロンコン大学などと共同実施し、キシラナーゼによる配糖体合成と、固定化酵素を用いた環境汚染物質の分解に関する論文を発表した。また、バニリン生成リグニン分解反応のマイクロ波による反応促進機構の解析と、セルラーゼとリグニンの吸着部位の解析に関する論文を発表した。

図 e-Asia プロジェクト”サトウキビ収穫廃棄物の統合バイオリファイナリー”

成果発表

    1. Bunterngsook et al., Identification and characterization of a novel AA9-type lytic polysaccharide monooxygenase from a bagasse metagenome. Microbiol. Biotechnol. 105: 197–210 (2021).
    2. Alam et al. Biodegradation and metabolic pathway of anthraquinone dyes by Trametes hirsuta D7 immobilized in light expanded clay aggregate and cytotoxicity assessment. Hazard. Mater. in press (2021).
    3. Tokunaga et al. NMR elucidation of nonproductive binding sites of lignin models with carbohydrate-binding module of cellobiohydrolase I. Biofuels, 13: 164 (2020).
    4. Tokunaga et al. Complete NMR assignment and analysis of molecular structural changes of β-O-4 lignin oligomer model compounds in organic media with different water content. Holzforshung, in press (2021).
    5. Qu et al., Directly microwave‐accelerated cleavage of C−C and C−O bonds of lignin by copper oxide and H2O2, ChemSusChem, 13: 4510-4518 (2020).

    関連論文発表他4報.

課題4 リグノセルロースの分岐構解析を基盤とした環境調和型バイオマス変換反応の設計

所内担当者 西村裕志、渡辺隆司
共同研究先 チェルマース工科大学;京都大学エネルギー理工学研究所、群馬大学食健康センター、海洋研究開発機構、京都大学化学研究所、兵庫県立大学、富山県産業技術研究開発センター、民間企業.

リグニンの利活用はバイオマス全体利用の鍵を握るが、現状は変性した低質リグニンの熱回収に留まっている。リグノセルロースの多様な分岐構造を解き明かし、分子構造に基づいてバイオマス変換法を設計することが、植物基礎科学の発展と、植物資源を活かしたサステイナブル社会の実現につながる。特にリグニン・多糖間結合の解明は、バイオマスを化学品、材料、エネルギーへ変換する植物バイオリファイナリーの構築への貢献が期待される。本年度は、新規の環境調和型バイオマス変換反応を開発し、特許出願した。この知見を基にユニークな特性を見出し、リグノセルロースおよびリグニン多糖複合体ベースの新素材開発に取り組み、特許出願した。本研究は主にJST 戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発ALCA (JPMJAL1504)、科研費若手研究A(16H06210)により推進してきた。本年度は新たにNEDO事業、京都大学産官学連携本部GAPプロジェクト、複数の民間企業との共同研究、科研費挑戦的研究(萌芽20K21333)を開始し技術開発を進めている。

図 木質バイオマス中のリグニン-多糖間結合の解明

 

成果発表

  1. Tsubaki et al., Probing rapid carbon fixation in fast-growing seaweed Ulva meridionalis using stable isotope 13C-labelling, Sci. Rep., 10:1 (2020).
  2. Chotirotsukon et al., Sequential fractionation of sugarcane bagasse using liquid hot water and formic acid-catalyzed glycerol-based organosolv with solvent recycling, Res. in press (2020).
  3. Kimura et al., Production of antiviral substance from sugarcane bagasse by chemical alteration of its native lignin structure through microwave solvolysis, ChemSusChem, 13: 4519-4527 (2020).

関連論文発表他1件

課題5 セルロースおよびキチンナノファイバーを用いた成形品の開発

所内担当者 矢野浩之、阿部賢太郎

セルロースの幅広い利活用を進めるため、異なるセルロース素材(木材パルプ、セルロースナノファイバーおよび溶解・再生セルロース)からなる高強度セルロース複合材料の開発を進めている。セルロースのみから食品包装や3次元成形体の製造を目指しているが課題となるのは耐水性の問題である。通常、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン樹脂などを用いて耐水性を向上させるが、本研究ではパルプ間の架橋をセルロースナノファイバーで行うことで、耐水性を克服している。今後は、生分解性調査を行うとともにさらなる高強度化を目指し、環境に優しい成形品の製造を行う。本研究に関連して、環境研究総合推進費補助金「セルロースナノコンポジットの実用化」による研究も進めている。

図:パルプ+セルロースナノファイバー混合紙の湿潤強度におけるアルカリ処理の効果

 成果発表

  1. Yang et al. Strain-stiffening composite hydrogels through UV grafting of cellulose nanofibers, Cellulose, in press (2021).
  2. Abe et al. The reinforcement effect of cellulose nanofiber on Young’s modulus of polyvinyl alcohol gel produced through the freeze/thaw method. Polymer Res., 27: 241 (2020).
  3. Abe and Utsumi. Wet spinning of cellulose nanofibers via gelation by alkaline treatment, Cellulose, 27: 10441-10446 (2020).

課題6 バイオマスからのエネルギー貯蔵デバイスの開発

所内担当者 畑俊充
共同研究先 リグナイト、京都大学大学院農学研究科、インドネシア科学院LIPI、大阪府立大学ほか

バイオマスからのエネルギーデバイスの開発は、再生可能、低コスト、および豊富に存在する、といった点で有利である。トドマツを原料として、炭化・賦活によりエネルギー貯蔵コンデンサーの開発を試みた。原料にKOHを加え、350→600℃で炭化および賦活を行った。得られた多孔質炭素の0℃におけるCO2ガス吸着等温線へNLDFT法という密度汎関数理論を適用したところ、815 m2/gという比較的大きな表面積をもっていることがわかった。そのサンプルから電気二重層コンデンサー用の電極を作成し、電気化学的評価を行った。

図:電気二重層キャパシタの充放電機構

成果発表

  1. 畑 俊充 他, “熱処理および賦活条件が木質炭素の微細空隙構造に及ぼす影響”オンライン開催, 第71回日本木材学会大会 2021.3 

課題7 低地球軌道で利用するためのリグニン炭の微細空隙解析

所内担当者 畑俊充、飛松裕基、小嶋浩嗣
共同研究先 神戸大学工学研究科、長野工業高等専門学校ほか

宇宙圏における木質の利用可能性を検討するため、ブナ、スギ、およびイネから芳香核構造の異なるリグニンを準備し、電子顕微鏡用観察試料を調製した。低軌道宇宙環境下で問題となる原子状酸素(AO)に対する抵抗性の付与を検討するため、炭素化前後のナノ微細空隙構造の比較を行った。炭素化によって空孔径の収縮率は約69%で、0.37-0.44nmの範囲にメインピークが存在した。このことから短期のAO照射に対してはナノ空隙によってAO吸着が行われることがわかった。一方、AO照射による長期暴露に対しては、SiO2のような保護層を空隙内表面に形成することが有効である、と工業リグニンに関して得られた抵抗性データの解析結果から推定された。

図: 低地球軌道で利用するためのリグニン炭の研究概要

成果発表

  1. 畑 俊充 他, “低地球軌道宇宙環境下で活用するためのリグニン炭の空隙構造解析”ハイブリッドオンライン開催, 第18回木質炭化学会研究発表会9.25.
  2. 梶本武志;畑 俊充他, “AO照射におけるウルシDLC膜のEELS分析”ハイブリッドオンライン開催, 第18回木質炭化学会研究発表会9.25.

課題8 マイクロ波無線電力伝送に基づくIoT技術の実証研究

所内担当者 篠原真毅、三谷友彦
共同研究先 パナソニック、ミネベアアツミほか

これまでの様々なワイヤレス給電の研究成果の結果、2020年7月14日に政府(総務省)が情報通信審議会より 「構内における空間伝送型ワイヤレス電力伝送システムの技術的条件」に関する一部答申を受け、本答申を踏まえ、速やかに制度整備等を行う予定となった。制度整備後すぐに製品化ができるよう、金沢工大、パナソニックとのワイヤレス給電バイタルセンサーの研究開発を加速している。さらに本答申の次ステップを目指し、ミネベアミツミとの共同研究では特区制度を利用して2020年11月に京都府宮津市地蔵トンネル避難坑にて走行車両からトンネル内センサーへのビーム型ワイヤレス給電実験を成功させた。

図 ワイヤレス給電バイタルセンサーのために開発した920MHz帯用整流回路

成果発表

    1. (Invited) Shinohara, N., “History and Innovation of Wireless Power Transfer via Microwave”, IEEE Journal of Microwave, Vol.1, No.1, pp.218-228, 2021, doi:10.1109/JMW.2020.3030896

    関連論文発表他13件

令和元年度の成果報告はこちら

一つ前のページへもどる