Research Institute for Sustainable Humanosphere

ミッション5-1「人の健康・環境調和」
令和2年度の活動

課題1-1 植物バイオマスからの生理活性物質の生産

研究代表者 渡辺隆司(京都大学 生存圏研究所)
共同研究者 西村裕志、Ruibo Li、木村智洋、岡部由美、(京都大学 生存圏研究所), 応田涼太(北海道大学 医学研究科)、藤田尚志 (京都大学 ウイルス・再生医科学研究所)、松田修、扇谷えり子(京都府立医科大学医学研究科)

未利用バイオマスから薬効成分・生理活性物質を生産し、人の健康や安全な生活に貢献することを目的とし、ウイルス・再生医科学研究所や京都府立医科大学医学部と共同で、木質バイオマスを分解して生成する抗ウイルス物質や抗腫瘍物質を分離し、その構造と作用機構を明らかにすることを目的に研究を行った。本年度は、サトウキビバガスのマイクロ波分解物から細胞毒性が低い抗ウイルス物質が生産できることを見出し、論文を出版するとともに、プレス発表した(図1)。また、木材の酸性ソルボリシス分解物から抗ウイルス物質をもつリグニン・糖結合体を分離し、構造解析を行った。これらの成果を、第14回生存圏フォーラム特別講演会などで発表した。

 

図1 サトウキビの搾りかすをマイクロ波反応で分解し、ウイルスと直接作用して増殖を抑制する物質を生産

成果発表

  1. 論文
    Kimura, C., Li, R., Ouda,R., Nishimura, H., Fujita, T., Watanabe, T., Production of Antiviral Substance from Sugarcane Bagasse by Chemical Alteration of its Native Lignin Structure through Microwave Solvolysis, ChemSusChem, 13, 4519-4527 (2020). DOI:10.1002/cssc.202000490
  2. プレス発表
    京都大学プレス発表、サトウキビ搾りかすの化学分解により抗ウイルス物質を生産 -ウイルスの感染対策やバイオマス利用に貢献-、2020年5月29日
    (京都大学)https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2020-05-29-1
    (生存圏研究所)http://www.rish.kyoto-u.ac.jp/news/サトウキビ搾りかすの化学分解により抗ウイルス/
  3. 新聞報道
    化学工業日報2020年6月3日版、日刊工業新聞2020年6月5日版、日本農業新聞2020年6月25日版
  4. 学会発表・講演
    1) 渡辺隆司、バイオマスからの抗ウイルス物質の生産、第14回生存圏フォーラム特別講演会「ポストコロナ時代の生存圏科学」、2020年11月7日、宇治
    2) 木村智洋、李瑞波、應田涼太、西村裕志、藤田尚志、渡辺隆司、マイクロ波化学反応によるサトウキビバガスからの抗ウイルス活性リグニンの生産、日本農芸化学会2021年度大会、2021年3月18-21日、online
    3) Ruibo Li, Ryota Ouda, Chihiro Kimura, Hiroshi Nishimura, Takashi Fujita, Takashi Watanabe, Production of non-cytotoxic antiviral lignin-carbohydrate complex from woody biomass by microwave acidolysis、第65回リグニン討論会、2021年11月6日、online

課題1-2 バイオマスの生体防御物質 生理活性物質の生産機構と生物工学

研究代表者 矢崎一史(京都大学 生存圏研究所)
共同研究者 杉山暁史(京都大学 生存圏研究所)、棟方涼介(京都大学 生存圏研究所)、渡辺文太(京都大学 化学研究所)、高梨功次郎(信州大学)、吉川信幸(岩手大学 農学部)、増田 税(北海道大学 農学部)山本浩文(東洋大学 生命科学部)、和田昭盛(神戸薬科大学 薬学部)、山野由美子(神戸薬科大学 薬学部)

植物の生産する生理活性物質には、抗癌剤のビンブラスチンやカンプトテシンのように、脂溶性の高い化合物が多い。これら脂溶性代謝産物の内、カロチノイドのようにプラスチド内に蓄積するものもあるが、細胞外に分泌されて蓄積するものも少なくない。しかし、二次代謝に関わらず植物細胞からの脂溶性の生理活性物質の生合成や分泌の機構は未だ多くの部分が解明されておらず、ここに高品位生存圏に対する基礎研究のニーズがある。ムラサキの作る脂溶性生理活性物質のシコニンは、培養細胞で大量に生産できることからその生産機構についての良いモデル材料となっている。一方、生合成経路の全容は未だ解明されていない。本年度は、その生合成に関して植物細胞の持つ代謝活性を新たに明らかにした。また遺伝子側からのアプローチも有効であると考え、遺伝子のノックダウン手法の一つであるウイルス誘導性遺伝子サイレンシング系を、国産のウイルスであるALSVを用いて確立した。これらの成果から得られる知見は、脂溶性生理活性化合物の分泌機能解明につながり、抗がん剤のタキソールなど疎水性の植物起源抗がん剤の生産に役立つことが期待される。

成果発表

  1. Yamamoto, H., Tsukahara, M., Yamano, Y., Wada, A., Yazaki, K., Alcohol dehydrogenase activity converts 3″-hydroxygeranylhydroquinone to an aldehyde intermediate for shikonin and benzoquinone derivatives in Lithospermum erythrorhizon, Plant Cell Physiol., 61, 1798-1806 (2020).
  2. Izuishi, Y., Isaka, N., Li, H., Nakanishi, K., Kageyama, J., Ishikawa, K., Shimada, T., Masuta, C., Yoshikawa, N., Kusano, H., Yazaki, K., Apple latent spherical virus (ALSV)-induced gene silencing in a medicinal plant, Lithospermum erythrorhizon, Rep., 10, Article 13555 (2020).
  3. Tatsumi, K., Ichino, T., Onishi, N., Shimomura, K., Yazaki, K., Highly efficient method of Lithospermum erythrorhizon transformation using domestic Rhizobium rhizogenes strain A13, Plant Biotech., 37, 39-46 (2020).
  4. Oshikiri, H., Watanabe, B., Yamamoto, H., Yazaki, K., Takanashi, K., Two BAHD acyltransferases catalyze the last step in the shikonin/alkannin biosynthetic pathway, Plant Physiol., 184, 753-761 (2020).

課題1-3 バイオマスの生体防御物質 抗腫瘍性リグナンの生物生産に向けた単位反応の構築

研究代表者 梅澤俊明 (京都大学 生存圏研究所)
共同研究者 小林慶亮、廣田光希、山村正臣、飛松祐基(京都大学 生存圏研究所)

リグナンとは二分子のフェニルプロパン単量体がC8同士で結合した化合物の総称であり、様々な有用生理活性を有している。ポドフィロトキシンは抗腫瘍性リグナンであるが、同化合物を産生する植物の希少さから、安定した生物生産系の確立が望まれている。本研究では、ポドフィロトキシンの生物生産系確立に向け、R2年度は前年度に引き続き同化合物の生合成遺伝子の取得と機能解析を進めた。特に、リグナン生合成経路の上流に位置する反応段階であり、リグナンの立体化学の制御に深く関わっているPinoresinol/Lariciresinol reductase(PLR)の酵素遺伝子の同定、及び、同生合成経路の下流に位置するYateinの環化反応を触媒する2-oxoglutarate-dependent dioxygenase(2ODD)の酵素遺伝子の同定にも成功した。現在、組換え酵素を調製し各酵素の機能解析を行なっている。

成果発表

  1. 小林慶亮、山村正臣、熊谷真聡、小埜栄一郎、白石慧、佐竹炎、梅澤俊明、「シャクにおけるyateinの環化に関与する2-oxoglutarate-dependent dioxygenaseの同定」、第71回日本木材学会大会(東京大会、オンライン)、2021年3月19〜21日

課題1-5 生理活性物質の輸送体の同定と有用物質生産への応用

研究代表者 杉山暁史 (京都大学 生存圏研究所)
共同研究者 荻田信次郎(県立広島大学 生命環境学部)、士反伸和(神戸薬科大学)、青木裕一(東北大学)、永野淳(龍谷大学)

植物細胞等を用いた生理活性成分の生産を効率的に生産するために、輸送体を同定し、生合成系遺伝子と組み合わせて異種発現系に導入することを目指す。昨年度まではコーヒーノキが分泌するカフェインに着目して研究を進めていたが、今年度は、トマトの分泌するステロイドグリコアルカロイドであるトマチンの分泌についての解析を中心に進めた。また、ダイズ根から分泌されるイソフラボンやソヤサポニンについて、トランスクリプトームを日周解析し、生合成系遺伝子との共発現から輸送体候補遺伝子を選抜した。

成果発表

  1. Matsuda, H., Nakayasu, M., Aoki, Y., Yamazaki, S., Nagano, A. J., Yazaki, K., Sugiyama A. (2020) Diurnal metabolic regulation of isoflavones and soyasaponins in soybean roots. Plant Direct 4, e00286.

課題2 電磁波の生体影響

研究代表者 宮越順二、篠原真毅(京都大学 生存圏研究所)

ワイヤレス電力伝送(WPT:Wireless Power Transmission)システムに使用される電磁波により、生体にどのような影響が見られるかを検索するため、ヒト由来皮膚細胞を用い、400kHzばく露によるエピジェネティクス試験を実施した。
電磁波のばく露による人の健康への影響について、国際的な議論が高まっている。このような背景から、細胞や遺伝子レベルの実験により、電磁波ばく露の影響評価研究を行っている。令和2年度のテーマとしては、生活環境におけるワイヤレス電力伝送システムによる生体の安全性評価として、電磁波によるエピジェネティクスへの影響を検索した。エピジェネティクスとは電磁波(放射線含む)影響の1つとして、DNA切断を伴わない(塩基配列に変化のない)遺伝子発現制御を引き起こすものである。遺伝子と環境要因の架け橋となる機構で、がんや種々の疾病にも関与している可能性が示唆され、近年大きな注目を浴びている。エピジェネティクスの指標としては、大きく2つに分けて、DNAのメチル化とヒストン修飾で、これらによるクロマチンの構造変化を調べることである。
ヒト由来皮膚細胞(CCD32Sk)を用い、400kHzばく露によるエピジェネティクス試験を実施した。400kHzばく露(条件:160A/m、ICNIRPの職業者ガイドライン80A/mの2倍、1時間)を行った。DNAのメチル化(5-メチルシトシン:5-mc)の解析にはDNA抽出キットを用いた。ヒストン修飾(アセチル化、メチル化)の解析には、ヒストン抽出キットを用いた。n=3での統計処理(Dunnett’s test)で有意差を検討した。図1~ 4に結果を示す。
DNAのメチル化、ヒストン修飾のアセチル化ならびにメチル化の解析において、DNA及びヒストン修飾でのメチル化で減少傾向は見られるものの、400kHzばく露によるエピジェネティクスへの影響はないか極めて低いものと考えられる。
これまで、電磁波応答の評価指標として、遺伝毒性試験、皮膚免疫能試験、エピジェネティクス試験を行ってきた。一部の応答に減少や増加傾向は観察されたものの、統計的な有意性は認められなかった。従って、これらの細胞応答において、400kHzばく露による影響はないか極めて低いものと考えられる。

電磁波ばく露によるヒト由来皮膚細胞におけるエピジェネティクスへの影響

成果発表

    1. J.Miyakoshi, H. Tonomura, S. Koyama, E. Narita, N. Shinohara, Effects of exposure to 5.8 GHz electromagnetic field on micronucleus formation, DNA strand breaks, and heat shock protein expressions in cells derived from Human eye. IEEE Xplore, Engineering in Medicine and Biology Society, 18(2): 257-260 (2019).
    2. Junji Miyakoshi, Cellular Effects of Radio Frequency, Millimeter, and Terahertz Waves; in “Biological and Medical Aspects of Electromagnetic Fields, Fourth Edition” (eds. Ben Greenebaum and Frank Barnes), The Handbook of Biological Effects of Electromagnetic Fields, CRC Press (Taylor & Francis Group) London, pp 69-88. (2019)

課題3 大気質の安心・安全―人間生活圏を取り巻く大気の微量物質の動態把握―

研究代表者 高橋けんし、矢吹正教(京都大学 生存圏研究所)

大気微量成分(ガスおよび粒子状物質)の質的・量的な変動は、ローカルからグローバルスケールの大気環境変動に対して影響を与えるほか、ヒトへの健康影響も懸念される。本研究では、人間生活圏および森林圏に近い大気の化学的動態の変動に着目し、大気微量成分の時空間分布を精細に描写する新しい大気計測手法を開拓することを目指している。本年度は、都市大気汚染の動態探査を目的とした野外計測を、大阪府立大学との共同で実施した。また、高層ビル街の中の精緻なエアロゾル空間分布を捉える近傍から観測可能な車載ライダーを構築し、都市域での検証観測を実施した。

mission_report_28_5_1_8野外観測や室内実験による大気微量成分の動態把握

成果発表

  1. 矢吹正教, 藤井一輝, 三浦和彦, 速水 洋, 大気エアロゾル立体観測のための車載ライダーの開発, 第37回エアロゾル科学・技術研究討論会, 2020年8月27-28日.

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