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森林代謝機能化学分野 教授 飛松裕基 ~植物の陸上で適応・進化できたキーファクター「細胞壁」の研究に没頭しています~

更新日: 2023/10/02

 令和54月より、定年退職された梅澤俊明先生の後任として、森林代謝機能化学分野を担当させていただいております。当研究分野は、生存圏研究所の前身となった京都大学木材研究所リグニン化学部門として1968(昭和43)年41日に発足し。以来、55年に及び、樋口隆昌先生、島田幹夫先生、梅澤俊明先生が教授として、研究室を牽引されてきました。歴代の先生方の偉大な功績を前にして、身の引き締まる思いです。先生方、諸先輩方が築き上げられてきた伝統に敬意を払いつつ、新たな時代に向けて研究室が発展していけるよう、微力ながら尽力したいと思っています。皆様、よろしくお願いいたします。

4億年前、海から陸上に進出した植物は、乾燥、重力、紫外線に晒される厳しい陸上環境に適応するため、強固な高分子複合体(リグノセルロース)でできた分厚く硬い細胞壁(維管束)を作る能力を獲得しました。そして現在に至る長い進化の過程で、維管束植物は、細胞壁の構造を複雑化・多様化させ、細胞レベルで高度に制御する生体機構を発達させました。複雑多様な細胞壁の構造と機能、植物がそれを作り出す仕組みを明らかにすることは、陸上植物の進化の道筋と環境適応の仕組みを紐解く重要なヒントになります。一方、細胞壁は、陸上に存在する最大の生物資源(木質バイオマス)という顔も持ちます。まさに細胞壁の塊である木材に代表されるように、人は古来より、身近な細胞壁資源を様々な生活用途に利用してきました。年々深刻化する環境問題や資源・エネルギー問題を背景に、石油製品を代替する化学製品や燃料をカーボンニュートラルな細胞壁資源からクリーンに作り出そうという試みが世界中で活発に進められています。人の暮らしを豊かにする新たなテクノロジーの創出という観点からも、細胞壁の研究が注目されています。

植物はなぜ・どのようにして複雑多様な細胞壁を作り出すのか?その仕組み(遺伝子)を利用して、細胞壁の形成をコントロールできるのではないか?そして、あわよくばバイオマスの生産性や利用性を高めた植物を作り出すことができるのではないか?これらの疑問の答えを探しながら、研究を続けてきました。

京大農学部4回生の時に与えられた卒論テーマを発端として、大学院生時代、5年間のアメリカでの研究員生活を経て、京大農学部に助教として戻り、その後、生存研に転任して、今に至るまで、かれこれ20年近くの間、細胞壁、特にその主要成分であるリグニンの研究に没頭してきました。大学院生の時は、細胞壁が作られる際に、リグニンがどのように高分子化していくのかを有機化学的に研究していました。アメリカで研究員をしていた時は、NMRなどを使って、150種以上の植物の細胞壁を調べ、それまで知られていなかった全く新しいタイプのリグニンを見つけたり、細胞壁の形成過程を生体中で可視化する蛍光プローブを作ったりしていました。また、モデル植物(シロイヌナズナやトウモロコシ、テーダマツなど)のリグニン生合成遺伝子を探索して、バイオ燃料生産性に優れた遺伝子組換え植物を作る研究にも関わりました。京大に帰ってきてからも、モデル植物(イネやシロイヌナズナなど)を使った細胞壁の研究を続け、細胞壁の進化に関わる遺伝子を探したり、ゲノム編集を使って細胞壁の構造を様々に改変した変異体を作り、細胞壁の構造や機能と植物進化との関係性を調べたり、バイオマス利用に有効な細胞壁改変植物を開発したりしています(写真1)。また、細胞壁成分(リグニン)と代謝経路を共有する有用二次代謝産物(リグナン・ネオリグナン・フラボノイドなど)の研究も進めています。

上記の通り、学部4回生の時から、かれこれ20年近くの間、細胞壁の研究をしてきましたが、その間の科学技術の発展には目を見張るものがあります。最近では、NMRX線を使って、細胞壁中でリグニンと多糖が複雑に絡み合う様子を原子レベルで調べたり、スーパーコンピューターやAIを使って、リグニンや多糖、その生合成に関わるタンパク質の3次元構造をシミュレーションしたり(写真2)、次世代シーケンサーを使って、細胞壁や二次代謝産物の生合成に関わるかもしれない何千何万個もの遺伝子を一気に解析したりできるようになりました。また、ゲノム編集技術を使って、細胞壁を様々に改変した植物を、研究室に配属したばかりの大学院生でも、気軽に作ることができるようにもなりました。こういった研究ツールを使って、色々分かってきた分、深まる謎や新たな疑問もあり、研究に飽きることは今のところはなさそうです。

そうこうしている間にも、地球温暖化は着々と進み、大きな災害に見舞われたり、謎の病気が蔓延したり、悲惨な紛争が勃発したりと、生存圏の未来の不確実性は年々高まっている様に感じます。いつか僕らの細胞壁や二次代謝物の研究が地球の役に立つ日が来るといいなと思います。また、そういう思いも共有しながら、一緒に研究をする大学院生・研究員を募集しています。

写真1. 細胞壁を改変したゲノム編集イネの栽培

写真2. 二次代謝産物の生合成に関わる酵素の分子モデリング

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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