Research Institute for Sustainable Humanosphere

ミッション5-2 「脱化石資源社会の構築 (植物、バイオマス、エネルギー、材料)」
令和元年度の活動

受賞

新化学技術奨励賞(New Chemical Technology Research Encouragement Award)

【受賞者】西村裕志(京都大学生存圏研究所助教)
【授与組織名】公益社団法人新化学技術推進協会 The Japan Association for Chemical Innovation (JACI)
【受賞年月】 2019年6月
【受賞理由】 バイオマス由来製品の事業化課題を解決する革新的素材・技術に関する研究について。 タイトル「分子特性を活かした天然型リグノセルロース高分子の新展開」

ベストポスター賞 (第2位)

【受賞者】Subyakto(LIPI), R. Marlina(LIPI), N. Masruchin(LIPI), 畑 俊充(京都大学生存圏研究所), Y. Onishi(リグナイト(株)), I. Ide(リグナイト(株))
【授与組織名】インドネシア日本学術振興会同窓会主催第3回国際シンポジウム
【受賞年月】2019年10月
【受賞理由】 アブラヤシ空果房のチャーからコンデンサ用電極を作製し、静電容量を調べたポスター発表: “Preparation of A New Electrode for Capacitor from Char of Oil Palm Empty Fruit Bunches”が評価されたから。

課題1 リグニン代謝工学に基づくイネ科バイオマス植物のテーラーメード育種技の開発

所内担当者 梅澤俊明、飛松裕基、鈴木史朗
共同研究先 徳島大学、奈良先端科学技術大学院大学、理化学研究所、産業総合研究所、中国科学院植物生理生態研究所、香港大学、インドネシア科学院LIPI、オクラホマ大学、ウィスコンシン大学ほか

本研究では、循環型社会構築を担うバイオマス生産植物の分子育種技術基盤の構築を目指し、リグノセルロース系バイオマスの主要成分であるリグニンを様々に改変した組換え植物の作出とバイオマス特性の評価を国内外の研究機関と共同で進めている。本年度は、前年度に引き続き、ゲノム編集等を活用したリグニン生合成遺伝子の発現制御により、リグニンの化学構造や量を改変したイネ及びポプラ組換え株の作出に成功し、そのバイオマス生産利用特性を明らかにした。また、有用リグニン形質を示す高バイオマス生産性ソルガム系統のスクリーニングも行った。

図 リグニンの化学構造を改変した形質転換イネ(右)とイネ科植物における一般的なリグニンのモデル構造式(左)

成果発表

  1. Lam et al., OsCAldOMT1 is a bifunctional O-methyltransferase involved in the biosynthesis of tricin-lignins in rice cell walls. Scientific Reports, 9:11597 (2019).
  2. Lam et al., Recruitment of specific flavonoid B-ring hydroxylases for two independent biosynthesis pathways of flavone-derived metabolites in grasses. New Phytologist, 223: 2014-219 (2019).
  3. Martin et al., Altered lignocellulose chemical structure and molecular assembly in CINNAMYL ALCOHOL DEHYDROGENASE-deficient rice. Scientific Reports, 9: 17153 (2019).
  4. Wahyuni et al., Variation in lignocellulose characteristics of 30 Indonesian Sorghum (Sorghum bicolor) accessions. Industrial Crops and Products, 142: 111840 (2019).
  5. Gui et al., Phosphorylation of LTF1, a MYB transcription factor in Populus, Acts as a sensory switch regulating lignin biosynthesis in wood cells. Molecular Plant, 12:1325-1337 (2019).
  6. Lee et al., Lignin‐based barrier restricts pathogens to the infection site and confers resistance in plants. The EMBO Journal, e101948 (2019).
  7. Tobimatsu et al. Solution-state multidimensional NMR of lignins: approaches and applications. In: Lu F. and Yue F. (eds) Lignin: Biosynthesis, Functions, and Economic Significance, pp 79-110, Nova Science Publishers Inc. (2019).
  8. Miyamoto et al., Double knockout of OsWRKY36 and OsWRKY102 boosts lignification with altering culm morphology of rice. Plant Science 296: 110466 (2020).
  9. Gui et al., Fiber‐specific regulation of lignin biosynthesis improves biomass quality in Populus. New Phytologist, 226: 1074-1087 (2020).
  10. Lui et al., Convergent recruitment of 5´‐hydroxylase activities by CYP75B flavonoid B‐ring hydroxylases for tricin biosynthesis in Medicago legumes. New Phytologist, in press (DOI: 10.1111/nph.16498).

招待講演他4件; 国際会議他18件; 国内学会他8件.

課題2 植物の脂質分泌能を利用した物質生産プラットホームの技術開発

所内担当者 矢崎一史、杉山暁史
共同研究先 理化学研究所ほか

植物の表皮細胞は、自らの体を乾燥から守るためにワックスなど脂質を細胞外に分泌する能力を宿命的に有している。1980年代に三井化学がシコニン生産用に開発した植物用培地M9は、植物細胞を表皮細胞に代謝分化させるポテンシャルがある。一方、生産量の多い脂質にはトリアシルグリセロールがあるが、これは貯蔵脂質として細胞内に蓄積するため、細胞容積を超える生産は不可能である。そこで、ムラサキ培養細胞あるいは毛状根を脂質分泌のプラットフォームとして、M9培地を使うことで有用脂質や化学原料となる化合物を細胞外に効率よく分泌する新奇な生産システムの構築を行う。R元年度は特に、ムラサキ毛状根に外来遺伝子を導入する方法を検討し、理研との共同研究展開のため、Rhizobium rhizogenesを国産のA13株に切り替え、国内のリソースの移動を可能にしたことと、元ベクターの種類や選抜条件を詳細に検討することで、遺伝子導入効率 50〜70%を達成する手法を確立した。

図 植物の脂質分泌能を利用した物質生産

成果発表

    1. Tatsumi et al., Highly efficient method of Lithospermum erythrorhizon transformation using domestic Rhizobium rhizogenes strain A13, Plant Biotech., in press.
    2. Shitan and Yazaki, Dynamism of vacuoles toward survival strategy in plants, Biophys. Acta – Biomembranes, in press.
    3. Kusano et al., Evolutionary developments in plant specialized metabolism, exemplified by two transferase families, Front. Plant Sci., 10:794 (2019).

    国内学会発表他3件

課題3 マイクロ波・生物変換プロセスによるバイオマスの化学資源化

所内担当者 渡辺隆司、西村裕志
共同研究先 日本火薬、大陽日酸、 京都大学化学研究所、京都大学エネルギー理工学研究所、タイ国立科学技術開発庁NSTDA、チュラロンコン大学、インドネシア科学院LIPI、Al-Azhar大学ほか

サトウキビ廃棄物から有用物質を生産するJSTのe-Asia研究を、タイ国立科学技術開発庁(NSTDA)、インドネシア科学院(LIPI)、ラオス国立大学、チェンマイ大学、京都大学エネルギー理工学研究所、エネルギー科学研究科と立ち上げ、タイのバンコクでキックワークショップを開催した。本研究は、サトウキビ廃棄物を原料として多様な有用化学品をつくることにより、既存の砂糖産業やエタノール工場をバイオリファイナリー工場に再構築し、持続発展可能な地域社会の創成に貢献することを目的とする。本年度は、サトウキビ廃棄物の前処理、糖化酵素、乳酸およびイソブタノール生産菌の分子育種、リグニン系界面活性剤の合成、微生物によるキシロースからのキシリトールの生産研究を実施した。また、全体プロセスのLCA解析の手法を検討した。この他、グリセロールや、グリセロールと糖の混合物からエタノールを高効率で生産する酵母を育種し、学会発表した。

図  e-Asia プロジェクト”サトウキビ収穫廃棄物の統合バイオリファイナリー”

成果発表

    1. Qu, K. Ito, I. Katsuyama, T. Mitani, K. Kashimura, T. Watanabe, Microwave directly accelerated cleavage of C–C and C–O bonds of lignin by copper oxide–peroxide reaction, ChemSusChem, in press (2020).
    2. Watanabe, e-Asia project “Integrated Biorefinery of Sugarcane Trash”, The 1st Japan-ASEAN Multi-Stakeholder Strategic Consultancy Forum (Bangkok, Oct 12, 2020).
    3. Watanabe, Introduction of the e-Asia project “Integrated Biorefinery of Sugarcane Trash” Kick-Off Workshop of e-Asia project “Integrated Biorefinery of Sugarcane Trash” (Bangkok, Oct 13, 2020).
    4. Watanabe et al., Lignocellulosic Biorefinery Using Microwave Organosolvolysis. 7th Asian Conference on Biomass Science (ACBS 2019) (Kooriyama, Dec 10, 2019).
    5. Watanabe, Conversion of Lignocellulosic Biomass for Sustainable Humanosphere, Joint Symposium on Tropical Studies “Green Innovation on Tropical Forest and Forest Industries Toward Sustainable Livelihoods” (Berau, Sep 4-7, 2019).

    国際学会発表他10件など

課題4 リグノセルロースの分岐構解析を基盤とした環境調和型バイオマス変換反応の設計

所内担当者 西村裕志、渡辺隆司
共同研究先 チェルマース工科大学、京都大学エネルギー理工学研究所、群馬大学食健康センター、海洋研究開発機構、京都大学化学研究所ほか

リグニンの利活用はバイオマス全体利用の鍵を握るが、現状は変性した低質リグニンの熱回収に留まっている。リグノセルロースの多様な分岐構造を解き明かし、分子構造に基づいてバイオマス変換法を設計することが、植物基礎科学の発展と、植物資源を活かしたサステイナブル社会の実現につながる。特にリグニン・多糖間結合の解明は、バイオマスを化学品、材料、エネルギーへ変換する植物バイオリファイナリーの構築への貢献が期待される。本年度は、木質バイオマスかリグニン・多糖結合部の新規調製法として、多糖分解酵素処理と各種クロマトグラフィーによる分離に加えて、リグニンのエーテラーゼ酵素を用いた選択的分解反応により、リグニン・多糖結合部を濃縮する手法の開発に取り組んた。本研究は主にJST 戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発ALCA (JPMJAL1504)、科研費若手研究A(16H06210)等により推進した。知財化、産学連携も進めている。

図 木質バイオマス中のリグニン-多糖間結合の解明

 

成果発表

  1. Aoki et al., Evaluation of ring-5 structures of guaiacyl lignin in Ginkgo biloba L. using solid- and liquid-state 13C NMR difference spectroscopy, Holzforschung. 73:1083-1092 (2019).
  2. 西村裕志, 植物バイオマスの複雑高分子の多次元NMR構造解析, 細胞-構造生物学の最前線, 51, 12, 56-57 (2019).
  3. 西村裕志, リグニンとヘミセルロースをつなぐ共有結合の解明 ~植物バイオマスの高度利用, アグリバイオ, 3, 6, 87-89 (2019).
  4. 西村裕志, リグノセルロース高分子のNMR法による構造解析, 高分子学会 (NMR研究会) (招待講演)
  5. Nishimura, “Structural analysis of lignocellulosic biomass towards the efficient utilization”, e-ASIA kick-off symposium, Bangkok, Thailand, 2019.10.13 (Invited Talk).

招待講演他1件; 国際会議他11件; 国内学会他5件.

課題5 セルロースおよびキチンナノファイバーを用いた成形品の開発

所内担当者 矢野浩之、阿部賢太郎

セルロースナノファイバーを活用した高弾性・高強度ゲルの開発を進めている。高結晶性のセルロースナノファイバーは、柔軟なハイドロゲルに対して高弾性を付与することができるが、一方で破壊ひずみを急激に減少させ、ゲル本来の特性が失われてしまう。そこで、ナノファイバー表面を改質しマトリックスポリマーとの界面親和性を制御することで、靱性を維持しながら弾性を自由に付与することを可能にした。これらの材料は、人工皮膚のような高強度・高靱性を求められるゲル材料への応用が期待される。

 成果発表

  1. Tanpichai et al., A sustainable lignin-poor cellulose source for the production of cellulose nanofibers, ACS Sustain. Chem. Eng., 7:18884-18893 (2019).
  2. Yang et al., Stiffened nanocomposite hydrogels by using modified cellulose nanofibers via plug flow reactor method, ACS Sustain. Chem. Eng., 7:9092-9096 (2019).
  3. Yang et al., Fabrication of ultrastiff and strong hydrogels by in situ polymerization in layered cellulose nanofibers, Cellulose, 27: 693–702 (2020).

 

課題6 バイオマスからのエネルギー貯蔵デバイスの開発

所内担当者 畑俊充
共同研究先 リグナイト、京都大学大学院農学研究科、インドネシア科学院LIPI、大阪府立大学ほか

バイオマスからのエネルギーデバイスの開発は、再生可能、低コスト、および豊富に存在する、という点で有利である。アブラヤシの空果房から得られたセルロースマイクロ/ナノ繊維を原料として、新しい環境にやさしいエネルギー貯蔵コンデンサーの開発を行った。原料のアブラヤシのセルロースマイクロ/ナノ繊維にKOHまたはZnCl2を加え、700℃で炭化および賦活を行った。BET比表面積779 m2/gの比較的大きな比表面積をもった多孔質炭素が得られた。そのサンプルから電気二重層コンデンサー用の電極を作成し、静電容量を測定したところ、100 mA/gにおいて315 F/gとなった。

図:電気二重層キャパシタの充放電機構

成果発表

  1. Hata and Subyakto. 2019. Experimental techniques for preparation and characterization of functional carbonized wood. LIPI Press, Jakarta (manuscript of Book Chapter).
  2. Subyakto, R. Marlina, N. Masruchin, T. Hata, Y. Onishi, I. Ide. 2019. Preparation of A New Electrode for Capacitor from Char of Oil Palm Empty Fruit Bunches. The 3rd International Symposium of JSPS Alumni Association of Indonesia. 31 October 2019, Bogor, Indonesia (Second best poster). 

課題7 マイクロ波無線電力伝送に基づくIoT技術の実証研究

所内担当者 篠原真毅、三谷友彦
共同研究先 パナソニック、ミネベアアツミほか

脱炭素社会の実現に向け、IoT(Internet-Of-Things)センサの実用化が期待されている。マイクロ波送電を用いたバッテリーレスIoTセンサの実用化を目指し、人体貼り付け型(ウェアラブル)レクテナ(整流器付アンテナ)のための整流回路の高効率化を行った。総務省情報通信審議会で法制化の議論が進んでいる、周波数920MHz帯を用いたシステムでの応用を目指し、回路シミュレーションを行った結果、世界最高となる97.1%のマイクロ波-直流変換効率を実現した。また走行する車からマイクロ波送電を行い、トンネル内の点検を自動で行う実証実験も並行して検討しており、特区を利用した実車実験を実施予定である。

図 バッテリーレスウェアラブルセンサーのイメージと、整流回路の回路シミュレーションモデルおよびマイクロ波-直流変換効率特性

成果発表

  1. Kawai et al., Design of High Efficiency Rectifier Circuit for 920MHz Wireless Power Transmission, Proc. of IEEE WPW2020, accepted
  2. メディア発表:9.26 日経産業新聞「「無線給電」の普及競う」など

国際招待講演17件;国際会議19件他

課題8 マイクロ波電磁環境下における昆虫生態系への影響調査

所内担当者 柳川綾、三谷友彦
共同研究先 奈良教育大学、帝塚山高等学校、フランス国立農業研究所;京都工芸繊維大学ほか

マイクロ波帯でのワイヤレスネットワーク需要は今後更に増加すると予想される。哺乳類外の生物は、電磁場暴露に対する耐性は強く、UV照射により個体の生命活動に異常をきたすことはほとんどないが、ち密に構成される生態系を構成する生物の振る舞いの変化が、生物全体において及ぼしうる影響については未知の点が多い。そこで、電磁場が昆虫に及ばす影響について調査をすすめている。平成31年度は、前回示された、マイクロ波を昆虫に照射した際に生じるごく微量の熱エネルギーについて、いずれにしても熱的影響は電場によるもので、マイクロ波が定在波であるときしか認められないことを確認し、一般的な使用においては熱的影響が生じる可能性は限りなく低いことを再確認した。一方で、Electron Spin Resonance (ESR)データ解析を進め、マイクロ波照射による非熱的影響も存在していることを確認した。また、国際共同研究相手国であるフランスから、博士課程研究の一環として、Aurelie Bichot博士(当時学生)が滞在し、植物体のもつ常磁性物質について調査した。

図 マイクロ波照射下で増加したイエシロアリのフリーラジカル

成果発表

  1. Yanagawa et al., Physical assessments of termites (Termitidae) under 2.45 GHz microwave irradiation, Sci. Rep., in press.
  2. Yanagawa, Energy transit petterns of 2.45GHz microwaves in termite body, Coptotermes formosanus, HSS2019/9th ISSH, Bogor, Indonesia (2019 Oct) (Invited Talk)

国内学会他1件

平成30年度の成果報告はこちら

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