Research Institute for Sustainable Humanosphere

ミッション5-2 「脱化石資源社会の構築 (植物、バイオマス、エネルギー、材料)」
平成30年度の活動

課題1 リグニン代謝工学に基づくイネ科バイオマス植物のテーラーメード育種技の開発

所内担当者 梅澤俊明、飛松裕基、鈴木史朗
共同研究先 徳島大学、奈良先端科学技術大学院大学、産業総合研究所、アースノート、香港大学、ウィスコンシン大学、米国エネルギー省バイオエネルギー研究センター、中国科学院植物生理生態研究所ほか

種々のバイオマス利用目的(エネルギー生産、材料および化成品への変換)に応じたイネ科バイオマス植物のテーラーメード育種技術の基盤構築を目指し、リグニンの量や構造を様々に改変した形質転換イネの作出と特性評価を行う。同時に、有用リグニン形質を持つ大型イネ科植物種の選抜育種も実施する。平成30年度は、リグニン生合成に関与する種々の転写因子及び酵素遺伝子をゲノム編集等により機能破壊することで、リグニンの量及び構造を様々に改変したイネ変異体を作出し、その特性を明らかにした。またエリアンサス及びさとうきびにおけるリグニンの構造と化学反応性及びバイオマス糖化性の関係性を明らかにした。これらの成果を纏め、下記の論文発表を行った。

図 リグニンの化学構造を改変した形質転換イネ(右)とイネ科植物における一般的なリグニンのモデル構造式(左)

成果発表

  1. Miyamoto, T. et al., OsMYB108 loss-of-function enriches p-coumaroylated and tricin lignin units in rice cell walls. The Plant Journal, in press, doi:10.1111/tpj.14290, 2019.
  2. Lam, P. Y. et al., Recruitment of specific flavonoid B-ring hydroxylases for two independent biosynthesis pathways of flavone-derived metabolites in grasses. New Phytologist, in press, doi:10.1111/nph.15795, 2019.
  3. Mutuku, J. M. et al., The structural integrity of lignin is crucial for resistance against Striga hermonthica parasitism in rice. Plant Physiology, in press, doi:10.1104/pp.18.01133, 2019.
  4. Takeda, Y. et al., Lignin characterization of rice CONIFERALDEHYDE 5‐HYDROXYLASE loss‐of‐function mutants generated with the CRISPR/Cas9 system. The Plant Journal, 97, 543-554, doi:10.1111/tpj.14141, 2019.
  5. Takeda, Y. et al., Comparative evaluations of lignocellulose reactivity and usability in transgenic rice plants with altered lignin composition. Journal of Wood Science, 65, 6, doi:10.1186/s10086-019-1784-6, 2019.
  6. Tobimatsu, Y. and Schuetz, M. Lignin polymerization: how do plants manage the chemistry so well? Current Opinion in Biotechnology, 56, 75-81, doi:10.1016/j.copbio.2018.10.001, 2019.
  7. Takeda, Y. et al., Downregulation of p‐COUMAROYL ESTER 3‐HYDROXYLASEin rice leads to altered cell wall structures and improves biomass saccharification. The Plant Journal, 95, 796-811, doi:10.1111/tpj.14141, 2018.
  8. Miyamoto, T. et al., A comparative study of the biomass properties of Erianthus and sugarcane: lignocellulose structure, alkaline delignification rate, and enzymatic saccharification efficiency. Bioscience, Biotechnology and Biochemistry, 82, 1143-1152, doi:10.1080/09168451.2018.1447358, 2018.
  9. Miyamoto, T. et al., Comparative analysis of lignin chemical structures of sugarcane bagasse pretreated by alkaline, hydrothermal, and dilute sulfuric acid methods. Industrial Crops and Products, 121, 124-131, doi:10.1016/j.indcrop.2018.04.077, 2018.
  10. Umezawa, T. Lignin modification in planta for valorization. Phytochemisty Reviews, 17, 1305-1327, doi: 1007/s11101-017-9545-x, 2018.

 

課題2 植物の脂質分泌能を利用した物質生産プラットホームの技術開発

所内担当者 矢崎一史、杉山暁史
共同研究先 理化学研究所ほか

植物細胞はその分化の方向性に応じて様々な機能を獲得し、細胞タイプによっては脂質を分泌する高いポテンシャルがある。ナフトキノン系の脂溶性色素であるシコニンを生産するムラサキの細胞は、生産したシコニン(脂質)のほぼ全てを細胞外に分泌し、その量は細胞重量あたり10%にも及ぶ。本研究では、ムラサキ細胞を脂質分泌生細胞のモデルプラットホームに利用した応用研究テーマとして、ムラサキ細胞のすぐれた脂質分泌能を利用して物質生産に利用することに挑んでいる。細胞外の分泌できれば、培地は交換可能なため、生産量の観点からは細胞の容量を超える総生産が期待される。H30年度は特に、脂質分泌に関するムラサキの遺伝子やタンパク質を網羅的に解析するとともに、細胞からの脂質分泌に関する培地や培養条件の差について検討した。その結果、論文として公表したように、多くの膜交通系のタンパク質や、幾つかの特徴的な膜輸送体遺伝子が、脂質分泌とリンクする形で発現誘導されることが明らかとなった。現在、これらの遺伝子産物の機能解析を進めつつ、代謝工学的な応用をこれに加えて、脂溶性のテルペン系化合物の代謝工学に向けたコンストラクトを作成した。

図 植物の脂質分泌能を利用した物質生産

成果発表

  1. Takanashi et al., Comparative proteomic analysis of Lithospermum erythrorhizon reveals regulation of a variety of metabolic enzymes leading to comprehensive understanding of the shikonin biosynthetic pathway. Plant Cell and Physiology, 60, 19-28, doi:10.1093/pcp/pcy183, 2019.
  2. Kitajima, S. et al., Comparative multi-omics analysis reveals diverse latex-based defense strategies against pests among latex-producing organs of the fig tree (Ficus carica), Planta, 247, 1423-1438, doi:10.1007/s00425-018-2880-3, 2018.
  3. Kusano, H. et al., Establishment of a modified CRISPR/Cas9 system with increased mutagenesis frequency using the translational enhancer dMac3 and multiple guide RNAs in potato, Scientific Reports, 8, 13753, doi: 1038/s41598-018-32049-2, 2018.

 

課題3 マイクロ波・生物変換プロセスによるバイオマスの化学資源化

所内担当者 渡辺隆司、西村裕志
共同研究先 日本火薬、大陽日酸、 京都大学化学研究所;京都大学エネルギー理工学研究所;鳥取大学;タイ国立科学技術開発庁NSTDA、チュラロンコン大学、インドネシア科学院LIPIほか

脱化石資源社会を目指し、熱帯産や国内バイオマスを機能性化学品原料、燃料などに高効率で変換するシステム開発の産学連携・国際共同研究を行った。平成30年度は、タイ国立科学技術開発庁、チュラロンコン大学、インドネシア科学院と共同でサトウキビ収穫廃棄物からのバイオ燃料や化学品の生産を目指して、メタゲノム由来のセルラーゼの機能解析、マイクロ波前処理法、糖化残滓リグニンからの界面活性剤の合成などの研究を実施した。この共同研究は、JSTのe-Asiaプログラムに採択され、2019年度からラオス国立大学を加えた4ヵ国共同研究として実施する。また、新規なルイス酸触媒マイクロ波前処理に関する論文などを発表した。

図 マイクロ波によりバニリン収率を3倍まで増加させる銅錯体反応を見出し、空洞共振器を用い、電場による高い反応促進効果を示した。また、915MHz連続式マイクロ波反応装置を開発して、スギ材から耐熱性ポリマーを生産した。

図 木質バイオマスからのバイオエタノール生産時に副生する残滓リグニンから発酵阻害物質吸着体を製造し、自己完結型の発酵システムを開発した。

成果発表

  1. Ohashi, Y. and Watanabe, T. Catalytic performance of food additives alum, flocculating agent, Al(SO4)3, AlCl3 and other Lewis acids in microwave solvolysis of hardwoods and recalcitrant softwood for biorefinery, ACS Omega, 3, 16271–16280, doi: 1021/acsomega.8b01454, 2018.
  2. Isozaki, K. et al., Robust surface plasmon resonance chips for repetitive and accurate analysis of lignin–peptide interactions, ACS Omega, 3, 7483-7493, doi:10.1021/acsomega.8b01161, 2018.
  3. プレス発表:サトウキビ収穫廃棄物の統合バイオリファイナリー, http://www.jst.go.jp/pr/info/info1357/besshi1.html; http://www.jst.go.jp/pr/info/info1357/Appendix1. html.
  4. Tokunaga, Y. et al., NMR analysis on molecular interaction of lignin with amino acid residues of carbohydrate-binding module from Trichoderma reesei Cel7A, Scientific Reports, 9, 1977, doi:10.1038/s41598-018-38410-9, 2019.
  5. プレス発表: セルラーゼとリグニンの相互作用をはじめて分子レベルで包括的に解明 –バイオマス変換や酵素科学に貢献–. 京都大学プレスリリース. http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2018/190213_1.html.

課題4 リグノセルロースの分岐構解析を基盤とした環境調和型バイオマス変換反応の設計

所内担当者 西村裕志、渡辺隆司
共同研究先 チェルマース工科大学、ワレンバーグ木材科学センターWWSC、京都大エネルギー理工学研究所ほか

植物バイオマスの高度利用を進めるためには、リグノセルロース高分子の分子構造を正確に把握することが重要である。特に分岐構造、リグニン・多糖間結合の解明は、バイオマスを化学品、材料、エネルギーへ変換する上で重要である。 本研究では、多糖分解酵素処理と各種クロマトグラフィーによる分離を組み合わせることで、高純度にリグニン・多糖結合部を含む試料調製法を確立し、2次元、3次元NMR法により共有結合(スピン結合)のつながりとしてリグニン・多糖間結合を周辺構造を含めて連続的に解明した。現在、正確な分子構造解析に基づいて、環境調和型バイオマス変換法の開発を進めている。

図 木質バイオマス中のリグニン-多糖間結合の解明

 

成果発表

  1. Nishimura, Y. et al., Direct evidence for α ether linkage between lignin and carbohydrates in wood cell walls, Scientific Reports 8, 6538, doi:10.1038/s41598-018-24328-9, 2018.
  2. 西村裕志, リグノセルロースの結び目構造を解く~リグニン・多糖結合の多次元NMR解析, アグリバイオ, 2, 9, 64-66, 2018.
  3. プレス発表: 植物細胞壁中のリグニン・多糖間結合を初めて解明 -バイオマス変換法の開発や持続可能な社会の実現に貢献-, http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2018/180425_5.htm, 他 日本経済新聞電子版2018/05/07など。

課題5 セルロースおよびキチンナノファイバーを用いた成形品の開発

所内担当者 矢野浩之、阿部賢太郎
共同研究者 Chuchu Chen, 南京林業大学

持続可能な資源であるセルロースの幅広い利用展開を目指すべく、安全かつ簡便な手法で成型品(フィルム、繊維、フィルター等)を製造する手法を開発する。平成30年度は主にセルロースまたはキチンナノファイバーを用いた高強度ゲルの開発を行った。高分子による架橋を行うことで、セルロース/キチンナノファイバーの高弾性を活かしながら優れた破壊強度を示すことが示された。また、昆虫のクチクラ構造を模倣することで薄くしなやかながら高い引張強度を示すフィルムの作製に成功した。これらの成果は以下の論文により報告された。

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図 セルロースナノファイバー由来の紡糸繊維

 成果発表

  1. Chen, C. et al., Formation of high strength double-network gels from cellulose nanofiber/polyacrylamide via NaOH gelation treatment. Cellulose, 25, 5089-5097, 10.1007/s10570-018-1938-5, 2018.
  2. Yang X. et al., Extremely stiff and strong nanocomposite hydrogels with stretchable cellulose nanofiber/poly(vinyl alcohol) networks. Cellulose, 25, 6571-6580, doi:10.1007/s10570-018-2030-x, 2018.
  3. Abe, K., Novel fabrication of high-modulus cellulose-based films by nanofibrillation under alkaline condition. Carbohydrate Polymers, 205, 488-491, doi:10.1016/j.carbpol.2018.10.069, 2018.
  4. Chen, C. et al., Bioinspired hydrogels: quinone crosslinking reaction for chitin nanofibers with enhanced mechanical strength via surface deacetylation. Carbohydrate Polymers, 207, 411-417, doi:10.1016/j.carbpol.2018.12.007, 2019.

 

課題6 バイオマスからのエネルギー貯蔵デバイスの開発

所内担当者 畑俊充
共同研究先 リグナイト、京都大学大学院農学研究科、インドネシア科学院LIPI、大阪府立大学ほか

バイオマスからのエネルギーデバイスの開発は、再生可能、低コスト、および豊富に存在する、という点で有利である。バイオマスを原料に熱硬化樹脂球状化技術を応用し、実用可能な電気化学キャパシタの開発に取り組んだ。細孔構造、結晶構造、異種元素効果、表面化学状態などの最適化と充放電機構の解明により、バイオマス由来の電気化学キャパシタの性能向上を図った。平成30年度にはセルロースナノファイバーをフェノール樹脂に複合化することにより、空隙構造の階層化を図った。異なる大きさの空孔が組み合わさることにより、イオンの移動と吸着がスムーズとなり電気二重層キャパシタの静電容量の向上につながった。

図:電気二重層キャパシタの充放電機構

成果発表

  1. 大西慶和ら, セルロースナノファイバー複合固体フェノール樹脂を電極とした電気二重層キャパシタの開発, 第16回木質炭化学会 (2018年6月).
  2. 大西慶和ら, セルロースナノファイバー複合フェノール樹脂炭素化物の電気二重層キャパシタ特性, 第45回炭素材料学会年会 (2018年12月).
  3. Hata, et. al. Development of Energy Storage Device from Biomass, 6th JASTIP Symposium, Tangerang, Indonesia 11. 2018.

課題7 マイクロ波無線電力伝送に基づくIoT技術の実証研究

所内担当者 篠原真毅、三谷友彦
共同研究先 三菱重工業、パナソニック、翔エンジニアリングほか

脱化石燃料依存社会構築のため、IoT(Internet Of Things)による社会システムの高度化が求められている。本研究では、マイクロ波無線電力伝送を利用したアンコンシャス(無意識)のワイヤレス給電システムや電池レスセンサーの開発を行い、無線により電源と情報の両方を供給する次世代IoTシステムを提案と実証試験を行う。今年度は昨年度に開発したウェアラブルバッテリーレスセンサー用の受電整流素子(レクテナ)を改良し、人体接触や折り曲げ時にも性能が劣化しないレクテナを開発した。

図 バッテリーレスウェアラブルセンサーのイメージと、2018年度に検討を行った折り曲げ型レクテナと性能変化の一例

成果発表

  1. Yang, B. et al., Evaluation of the modulation performance of injection-locked continuous-wave magnetrons, IEEE-Trans. ED, 65, 1-7, doi: 1109/TED.2018.2877204, 2018.
  2. 田中勇気ら, マイクロ波無線給電を用いた小電力無線センサ端末の開発, 電子情報通信学会論文誌B, J101-B, 968-977, doi:10.14923/transcomj.2018EEP0008,
  3. プレス発表:イギリスBBC Arabic 「BBC News 4Tech مشروع لنقل الطاقة الكهربائية لاسلكياً」(2018年9月5日).

課題8 マイクロ波電磁環境下における昆虫生態系への影響調査

所内担当者 柳川綾、三谷友彦
共同研究先 フランス国立農業研究所、奈良教育大学、帝塚山高等学校ほか

マイクロ波帯でのワイヤレスネットワーク需要は今後更に増加すると予想される。電磁波の一層の活用のためには、哺乳類以外の生物が被り得る影響についても十分な調査が必要である。そこで、昆虫目をモデルに、電磁波が生態系に与えうる影響について調査する。平成31年度からは、岩谷直治記念財団の研究助成をいただくことが決まり、地道に研究を展開している。平成30年度は、京都大学次世代支援プログラムの支援を得て、Steyer博士およびLe Quemuner博士を招へいし、奈良教育大学において研究打合わせを行った。また、ショウジョウバエ遺伝資源センターの都丸博士を新たに共同研究者に迎え、昆虫遺伝子レベルでのマイクロ波照射の影響について調査した。引き続き、植物や昆虫の誘電率測定や電子スピン共鳴のスペクトル(ESR)の結果から、昆虫が哺乳類に比べ電磁波吸収量が小さい理由を分析している。

図 葉の誘電率測定

成果発表

  1. Yanagawa, A., If insect sense electromagnetic field? HSS2018/8th ISSH, Medan, Indonesia (2018 Nov).

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