Research Institute for Sustainable Humanosphere

ミッション5-1「人の健康・環境調和」
平成30年度の活動

課題1-1 植物バイオマスからの生理活性物質の生産

研究代表者 渡辺隆司(京都大学 生存圏研究所)
共同研究者 西村裕志、Ruibo Li、木村智洋、宮崎達也(京都大学 生存圏研究所), 応田涼太(北海道大学 医学研究科)、成田亮、藤田尚志 (京都大学 ウイルス・再生医科学研究所)、松田修、扇谷えり子、柏本理緒(京都府立医科大学医学研究科)

未利用バイオマスから薬効成分・生理活性物質を生産し、人の健康や安全な生活に貢献することを目的とし、ウイルス・再生医科学研究所や京都府立医科大学医学部と共同で、木竹酢液に含まれる多様な抗ウイルス性フェノール誘導体の構造を同定して作用機構を解析するとともに、木材やサトウキビバガスを様々な触媒反応で分解し、抗ウイルス性物質やの抗腫瘍物質が生産できることを示した。本年度は、抗ウイルス性カテコール誘導体を同定し、置換基が及ぼす抗ウイルスへの影響を明らかにするとともに、カテコール誘導体が直接ウイルスを不活化することを示し、論文発表した。また、木材の酸性ソルボリシスにより抗ウイルス物質や抗腫瘍物質が生産できることを見出し、構造を解析した。

木酢液由来カテコール誘導体の脳心筋炎ウイルス (EMCV) に対する抗ウイルス活性 – 濃度依存性と添加方法の影響(t検定:*P < 0.05, **P < 0.01 )

成果発表

  1. R .Li, R. Narita, R. Ouda, C. Kimura ,H. Nishimura, M. Yatagai, T. Fujita, T. Watanabe, Structure-dependent antiviral activity of catechol derivatives in pyroligneous acid against the encephalomycarditis virus. RSC Adv., 2018, 8,35888-35896. (2018). DOI: 10.1039/C8RA07096B
  2. Kimura, R. Li, R. Ouda, H. Nishimura, T. Fujita, T. Watanabe, Production of antiviral compounds from sugarcane bagasse by microwave reactions, 2018 Joint Convention SWST & JWRS, Nagoya (5-9/11, 2018).

課題1-2 バイオマスの生体防御物質 生理活性物質の生産機構と生物工学

研究代表者 矢崎一史(京都大学 生存圏研究所)
共同研究者 杉山暁史(京都大学 生存圏研究所)、津山 濯(宮崎大学 農学部)、田浦太志(富山大学大学院 医学薬学研究部)

医薬品として利用される植物の二次代謝産物には、抗癌剤のビンクリスチンやパクリタキセルのように、高い脂溶性を示す化合物が多いが、その分泌機構は大部分が未解明である。本研究では、ムラサキのシコニン生産系をモデルに、その機構解明に挑んでいる。
現状のモデルでは、下図のようなマシナリーが関与して、脂溶性物質の細胞外分泌が制御されていると仮定して研究を進めている。平成30年度は、植物脂質の国際会議The 23rd International Symposium on Plant Lipidsでシンポジウムをオーガナイズするとともに、複数の研究成果に関して報告する機会を得た。また、本研究内容に関して企業関係者に内容をアピールする機会として、第36回植物細胞分子生物学会のNEDOプロジェクト関連シンポジウム、ならびに「関西スマートセルフォーラム2018」において講演をする機会を得て、国際コミュニティーのみならず産業界に対しても研究内容をアピールすることができた。また、富山大学との共同研究において、関連の植物脂溶性生理活性物質の一種で、ツツジ科植物の抗HIV活性天然物として注目を集める脂溶性物質ダウノクロメン酸の生合成に関する重要遺伝子の同定も論文として報告した。さらに本研究内容に関して、CRISPR/Cas9システムを使ったゲノム編集技術の適用を進めているところであり、基礎的な部分に関しては論文を公表した。

成果発表

  1. Saeki, H., Hara, R., Takahashi, H., Iijima, M., Munakata, R., Kenmoku, H., Fuku, K., Sekihara, A., Yasuno, Y., Shinada, T., Ueda, D., Nishi, T., Sato, T., Asakawa, Y., Kurosaki, F., Yazaki, K., Taura F., A novel aromatic farnesyltransferase functions in the biosynthetic pathway of daurichromenic acid, Plant Physiol., 178: 535-551 (2018).
  2. Kusano, H., Ohnuma, M., Mutsuro-Aoki, H., Asahi, T., Ichinosawa, D., Onodera, H., Asano, K., Noda, T., Horie, T., Fukumoto, K., Kihira, M., Teramura, H., Yazaki, K., Umemoto, N., Muranaka, T., Shimada, H., Establishment of a modified CRISPR/Cas9 system with increased mutagenesis frequency using the translational enhancer dMac3 and multiple guide RNAs in potato, Sci. Rep., 8 (1), 13753 (2018).
  3. Yazaki, K.,  Shikonin production of Lithospermum erythrorhizon, a model system of secondary metabolic lipids in plants、The 23rd International Symposium on Plant Lipids (Yokohama), July 9th, 2018, Invited Lecture
  4. 矢崎一史、脂溶性物質のアポプラスト集積に関わる生物学的イベント、第36回日本植物細胞分子生物学会(金沢)、平成30年8月26日〜28日、シンポジウム講演
  5. 矢崎一史、植物の特異的スマートセルとその制御戦略、第2回セミナー「関西スマートセルフォーラム2018」(大阪)、平成30年11月14日、招待講演

課題1-3 バイオマスの生体防御物質 抗腫瘍性リグナンの生物生産に向けた単位反応の構築

研究代表者 梅澤俊明 (京都大学 生存圏研究所)
共同研究者 小林慶亮、松浦悠、山村正臣、鈴木史朗、飛松祐基(京都大学 生存圏研究所)

リグナンとは二分子のフェニルプロパン単量体がC8同士で結合した化合物の総称であり、様々な有用生理活性を有している。ポドフィロトキシンは抗腫瘍性リグナンであるが、同化合物を産生する植物の希少さから、安定した生物生産系の確立が望まれている。本研究では、ポドフィロトキシンの生物生産系確立に向け、H30年度は前年度に引き続き同化合物の生合成遺伝子の取得と機能解析を進めている。抗腫瘍性リグナン生合成経路におけるO-メチル化の反応段階を触媒するO-メチル基転移酵素(OMT)として、従来数種の植物より合計8種のOMT遺伝子が単離されている。これらのOMTについて.、すでに我々は、全長アミノ酸配列の相同性が高くないことなどから、収斂進化により機能が獲得されたと結論付けてきたが、本研究により、リグナンOMTに特徴的なアミノ酸残基が存在することが示唆された。mission_report_28_5_1_4抗腫瘍性リグナン推定生合成経路

成果発表

  1. 小林慶亮、山村正臣、白石慧、小埜栄一郎、Ragamustari S. K.、熊谷真聡、佐竹炎、梅澤俊明、「シャクにおける機能性リグナンOMTの機能解析」、第36回日本植物細胞分子生物学会(金沢)大会、2018年8月26〜28日、金沢商工会議所会館(口頭発表)

 

課題1-4 バイオマスの生体防御物質 昆虫モデルによるバイオマス(植物・微生物)の生理活性機構調査 ―グルーミング行動を利用した遺伝子資源探索ー

研究代表者 柳川 綾(京都大学 生存圏研究所)
共同研究者 Coby Schal (ノースキャロライナ州立大学), Trudy Mackay (クレムソン大学), Wen Huang (ミシガン大学), Akihiko Yqmamoto (ノースキャロライナ大学), Ayako Katsumata(ノースキャロライナ州立大学), Antoine Couto (フランス国立科学研究所), Jean-Chritophe Sandoz (フランス国立科学研究所), 畑 俊充 (京都大学), Aniruddha Mitra (ショーリニ大学), Mutaz Ali Agha(インセクト), Frederic Marion-Poll(パリ13大学, フランス国立科学研究所)

グルーミングは、動物が自身あるいは相互に体表をなめあうなどの衛生行動を指す。ヒトでは貧乏ゆすりなども含まれ、ストレス性心疾患から生じる異常行動に関わる。本課題では、昆虫をモデルにグルーミング機構の関連遺伝子や植物・微生物由来生理活性物質を探索することで、病気による異常行動の緩和など、医学的な治療に貢献する。平成30年度は、微生物との接触によって誘導される反射的なグルーミング行動には味覚刺激受容器この重要な関与が予想されることから、昆虫にとって微生物が味覚的にどのように知覚されているのかを、味覚遺伝子突然変異個体を用いて調査した。試験には大腸菌から精製されたリポポリサッカロイド(以下LPS)を用いて行った。その結果、大腸菌表面物質であるLPSは、苦味受容器遺伝子だけでなく、甘味受容遺伝子を発現している味覚受容細胞でも受容されていること、そして、いずれの味覚刺激もグルーミング行動の誘導に関与していることが示された。

成果発表

  1. Karim, M.R., Yanagawa, A., Ohinata, K., Soy undecapeptide induces Drosophila hind leg grooming via dopamine receptor, Biochem Biophys Res Commun. 499 (3), 454-458, 2018. doi: 0.1016/j.bbrc.2018.03.162
  2.  Yanagawa, A., Couto, A., Sandoz, JC., Hata, T., Mitra, A., Agha, M.A., Marion-Poll, F.,(2019) LPS perception through taste-induced reflex in Drosophila melanogaster, Journal of Insect Physiology 112, 39-4.
  3. Yanagawa, A., Neyen, C., Hata, T., Yoshimura, T., Lemaitre, B., Marion-Poll, F., Collaboration may exist between immunity and behavioral resistance in Drosophila, 日本比較生理成果学会第40回神戸大会(学会発表、2018年11月、神戸)
  4. 公益財団法人 三島海雲記念財団 平成30年度学術研究奨励金【自然科学部門】(外部資金獲得:H30年6月―H31年5月)

課題1-5 生理活性物質の輸送体の同定と有用物質生産への応用

研究代表者 杉山暁史 (京都大学 生存圏研究所)
共同研究者 荻田信次郎(県立広島大学 生命環境学部)、士反伸和(神戸薬科大学)

アデニン等のプリンアルカロイドを取り込む輸送体タンパク質ファミリーとしてPurine permease(PUP) が報告されている。これまでシロイヌナズナの AtPUP1 とイネの OsPUP7 は、それぞれ植物体内にはカフェインを含まず、内在性基質ではないもののカフェイン取り込み活性を有することが示唆されてきた。コーヒーノキ (C. canephora) のゲノム配列中の PUP ファミリータンパク質を BLASTP を用いて検索したところ、15種のPUP候補タンパク質が見出された。それらの候補タンパク質の遺伝子 CcPUP に対して発現解析を行ったところ、器官特異的に発現するCcPUPが複数見出された。CcPUP のカフェイン取り込み活性をカフェイン含有培地での酵母の生育を指標として調べたところ、カフェイン取り込み活性を示唆する CcPUP が複数見出された。

成果発表

1. 掛川博文、士反伸和、荻田信二郎、矢崎一史、杉山暁史「コーヒーノキpurine permeaseの発現及び輸送解析」第36回植物細胞分子生物学会 2018年8月

課題2 電磁波の生体影響

研究代表者 宮越順二、篠原真毅(京都大学 生存圏研究所)                    

 我々の生活環境には多種多様な非電離放射線の電磁波が存在し、これら電磁波のばく露による人の健康への影響について、国際的な議論が高まっている。このような背景から、細胞や遺伝子レベルの実験により、電磁波ばく露の影響評価研究を行っている。具体的なテーマとしては、以下の研究に取り組んでいる。
・国際的な普及が見込まれる超高周波帯(ミリ波、テラヘルツ)生体影響評価
・生活環境におけるワイヤレス電力伝送システムによる生体の安全性評価 
 ワイヤレス電力伝送(WPT:Wireless Power Transmission)システムに使用される電磁波により、生体にどのような影響が見られるかを検索するため、生体表面からの深度を考慮して、ヒト角膜由来上皮細胞(HCE-T細胞)を用い、400kHzばく露による遺伝毒性指標である小核(Micronucleus: MN)形成頻度、コメットアッセイ(DNA鎖切断)試験および生理的影響評価の1つとして熱ショックタンパク(Heat shock protein: Hsp)発現試験を実施した。
 400kHzばく露(条件:160A/m、ICNIRPの職業者ガイドライン80A/mの2倍、1時間)を行ったHCE-T細胞において、有意な小核形成上昇が観察された。ただ、DNA鎖切断の指標であるTail Momentの上昇は観察されなかった。また熱ショックタンパク、Hsp-70に関して、ばく露による発現量の増加はなかった。以上のことから、HCE-T細胞において、400kHzばく露によるストレスタンパク発現誘発への影響はないか極めて低いものと考えられるが、遺伝毒性について、特に小核形成増加への影響を及ぼす可能性が見られた。
 今回の実験から、400kHzばく露によるHCE-T細胞のDNA鎖切断やストレスタンパク発現誘発の変化は観察されなかったが、小核形成への影響を及ぼす可能性が見られた。今後、生体表面への影響検索として、ヒト由来皮膚表皮のケラチノサイト細胞を用いて、皮膚免疫応答を中心として、電磁波の生体影響研究を進める予定である。

成果発表

  1. Junji Miyakoshi, Cellular Effects of Radio Frequency, Millimeter, and Terahertz Waves; in “Biological and Medical Aspects of Electromagnetic Fields, Fourth Edition” (eds. Ben Greenebaum and Frank Barnes), The Handbook of Biological Effects of Electromagnetic Fields, CRC Press (Taylor & Francis Group) London, pp 69-88. (2019)
  2. J. Miyakoshi, H. Tonomura, S. Koyama, E. Narita, N. Shinohara, Effects of exposure to 5.8 GHz electromagnetic field on micronucleus formation, DNA strand breaks, and heat shock protein expressions in cells derived from Human eye. IEEE Xplore, Engineering in Medicine and Biology Society (in Press).

課題3 大気質の安心・安全―人間生活圏を取り巻く大気の微量物質の動態把握―

研究代表者 高橋 けんし、矢吹 正教(京都大学 生存圏研究所)

大気微量成分(ガスおよび粒子状物質)は、ローカルからグローバルスケールの大気環境への影響や、ヒトへの健康影響も懸念される。本研究では、人間生活圏および森林圏に近い大気の化学的動態の変動に着目し、大気微量成分の時空間分布を精細に描写する新しい大気計測手法を開拓することを目指している。平成30年度は、人の健康に深く関わる居住空間とそれを取り巻く大気圏の空気質診断を行う手法として、光源から比較的近い領域におけるエアロゾルの空間分布を可能にする新しいライダー装置の開発を行うとともに、超長光路レーザー吸収分光法を用いた都市型大気汚染の観測研究を大阪府堺市にて開始した。

mission_report_28_5_1_8野外観測や室内実験による大気微量成分の動態把握

成果発表

  1. 矢吹正教、北藤典也, 高距離分解能ライダーによる小空間のエアロゾル分布計測, 第35回エアロゾル科学・技術研究討論会(名古屋), 2018年7月31日‐8月2日.
  2. K. Takahashi, Application of laser spectroscopy techniques to atmospheric chemistry studies in a forest environment, International conference on tropical meteorology and atmospheric sciences (ICTMAS), Institut Teknologi Bandung, Indonesia, 2018.9.19-20.

 

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