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ミッション5-3「日常生活における宇宙・大気・地上間の連関性」
平成29年度の活動

更新日: 2019/05/21

課題1 スペースデブリの観測技術と軌道モデル構築に関する研究

研究体制

代表者氏名:山川 宏(京都大学 生存圏研究所)
共同研究者:星賢人、池田成臣、小林優太、明里慶祐、鳥居拓哉、平田拓仁、新城藍里、田井宏、三木淳平(京都大学 生存圏研究所)

研究概要と成果

測位・観測・通信等の生活情報のための宇宙インフラや国際宇宙ステーションの維持と利用を図るために、これらに衝突して破壊する恐れのあるスペースデブリに関して、その観測、軌道進化、除去等の総合的対応に関する工学研究を推進した。
地上MUレーダによるスペースデブリ観測を実施し、デブリの軌道推定精度向上のための観測パラメタの検討を開始した。一方、軌道上の人工衛星に搭載した光学観測装置を想定した場合の軌道推定の精度について検討を開始した。スペースデブリの形状推定については、MUレーダによる観測を実施し、回転するデブリから得られるドップラー情報を用いた時間周波数解析手法、および、レーダーエコー情報を用いた散乱断面積変動解析手法を用いることで、スペースデブリの大きさ、スピン状態、形状の推定に取り組んだ。また、計算機シミュレーションにより、MUレーダによるデブリ観測を検証するために、FDTD手法によるプログラム開発を開始した。レーダー方程式等により、MUレーダによる静止軌道付近にあるデブリの観測可能性について検討を開始した。さらに、地球周辺電磁場の微小デブリの軌道に対する影響の評価を計算機シミュレーションにより実施し、破砕現象に起因するデブリの軌道進化についての検討を開始した。

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課題2 衛星測位システム(GNSS)を用いた大気圏の変動特性の解明

研究体制 

代表者氏名:矢吹正教(京都大学 生存圏研究所)
共同研究者:津田敏隆、Noersomadi、柿原逸人(京都大学 生存圏研究所)

研究概要と成果

本研究では、精密衛星測位システム(GNSS)の電波を大気計測に用いた、GNSS気象学による実証観測やデータ解析を通じて、降水過程や気候変動の理解に資する研究を推進する。ミッション研究費は、これら成果をまとめた論文出版費に活用した。
1.GNSS電波掩蔽観測:地球環境変化を研究するうえで、対流圏界面の構造と変動を知ることは大変重要である。本研究では、GNSS電波掩蔽データからCPT(Cold Point Tropopause) およびLRT(Lapse Rate Tropopause)を解析する際に問題となる、観測値の高度分解能を検討しRISHで解析されたCOSMIC-GNSS電波掩蔽データの有用性を示した。
2.地上型GNSS気象学:①太陽放射による積雲対流の生成過程、およびその活動度の一日周期変動 について、インドネシア・バンドン盆地の複雑地形における現象を対象に、 GNSSによる可降水量測定等による観測結果と気象数値予報モデルを併用して明らかにした。この成果は、今後、当該地域における集中豪雨の予測に役立つと期待される。② 滋賀県甲賀市信楽地区に整備したGNSS稠密観測網の運用と解析を進めた。また、GNSS可降水量を用いて水蒸気ラマンライダーを校正する手法を開発した。

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課題3 GPSを用いた電離圏3次元トモグラフィ

研究体制

代表者氏名:山本 衛(京都大学 生存圏研究所)
共同研究者:齊藤 昭則(京都大学 大学院理学研究科)、斉藤 享(電子航法研究所) 

研究概要と成果

GPSは全世界における測位サービスとして定着している。GPSシステムは、周波数の違う2つの電波の伝搬の差から電離圏中の全電子数(Total Electron Consistent: TEC)が観測できる。我が国では国土地理院による電子基準点の観測網GEONETが利用でき、TEC 観測は電離圏の研究に広く用いられてきた。本課題では、理学研究科および電子航法研究所と共同して推進している、電子密度の3次元分布を明らかにするトモグラフィ解析の高度化を目指す。
今年度は、リアルタイム・トモグラフィー解析を順調に継続する一方、GEONETの過去データを用いた大量解析に取り組んだ。生存圏研究所のAKDK全国・国際共同利用の下で、スーパーコンピューターによる並列処理を開発した。これによって、全国200点のデータに基づく15分毎の3次元トモグラフィ解析について、1年間分を約30時間で実行することに成功した。現在から2002年までの解析を終えており、今年度末までにはGEONETが発足した1996年までの到達を目指している。また解析結果の品質を確かめるため、イオノゾンデやGPS掩蔽観測との統計的な比較を行った。台湾・韓国の研究者とも交流を継続中であり、両地域のGPS観測データを活用した解析の拡大にも取り組んだ。結果として、解析領域の周辺における解析結果の品質向上が確認されている。研究発表ついては、リアルタイム・トモグラフィー解析について論文発表し、国際会議等において研究状況の報告を行った。

課題4 日本の電力網を流れる地磁気誘導電流(GIC)計算モデルの開発

研究体制

代表者氏名:海老原祐輔(京都大学 生存圏研究所)
共同研究者:大村善治(京都大学生存圏研究所)、後藤忠徳(京都大学工学研究科)、中村紗都子(京都大学生存圏研究所)、亘慎一(情報通信研究機構)、菊池崇(名古屋大学名誉教授),田中高史(九州大学名誉教授)、藤田茂(気象大学校)

研究概要と成果

太陽でコロナ質量放出現象(CME) が起こると地球では磁気嵐が発生することがある。このとき宇宙空間を流れる大電流によって送電網に地磁気誘導電流(GIC)と呼ばれる電流が流れる。2003 年に発生した大きな磁気嵐時では日本の送電網を100 アンペアを超えるGIC が流れ、日本はGIC に対して必ずしも安全だと言い切ることができなくなった。日本の送電網を流れるGICを物理的に正しくモデル化するため、宇宙空間を流れる電流が日本列島に誘導する電場(GIE)を有限差分時間領域(FDTD)法によって解いた。アメリカ海洋大気局(NOAA)の標高モデルと堆積層の厚さモデルに基づき、日本列島直下の電気伝導度分布(地殻比抵抗構造)を陸地、海水、堆積層に分類し、各々について電気伝導度を仮定した。結果は以下のとおりである。①海岸線付近で電場が強まる海岸効果が再現できた。電気伝導度の勾配によって電荷が蓄積し、二次的な電場が生じたためと理解される。湾曲した海岸線でこの効果は顕著に現れる。②堆積層の厚みが不均一であるため、東北・関東・北海道の内陸部でも電場が増幅する。③海の深さによっても海岸線効果は異なる。次に得られた電場分布から日本の50 万ボルトの送電網を流れるGICを計算した。変電所等の位置はgoogle map を用いて同定し、送電線抵抗は公開されている線材と線径のデータを参考に推定した。模擬した日本の50 万ボルト送電網を流れるGICには以下の特徴が認められた。西方向の電離圏電流を与えると、西側からGIC が送電網に入り東側から出て行く。東西方向の電気伝導度勾配が小さい関東から中国地方にかけてはGIC が比較的小さい。送電網が主に南北方向を向いているため、東北地方ではGIC が小さい。電離圏電流が北を向くと、日本海側から電流が入り、太平洋側から出るという一般的な傾向に加え、一部の変電所・発電所に電流が集中する傾向があることが認められた。これは東京のような大都市に変電所が偏在しているためと考えられる。日本は海に囲まれた島国であるという地理的特徴に加え、限られた大都市に人口が集中している(つまり変電所等が偏在している)ため、一様な電離圏電流を仮定してもGIC の流れ方は複雑になることが分かった。

課題5 MUレーダー・小型無人航空機(UAV)観測による大気乱流特性の国際共同研究

研究体制

代表者氏名:橋口浩之(京都大学生存圏研究所)
共同研究者:山本衛、矢吹正教(京都大学生存圏研究所)、Lakshmi Kantha, Dale Lawrence (University of Colorado, USA)、Hubert Luce (Toulon-Var Univ., France), Richard Wilson (LATMOS, CNRS, France)

研究概要と成果

乱流混合は熱や物質の鉛直輸送に寄与する重要なプロセスであり、これまで、MUレーダーを用いたイメージング(映像)観測により大気乱流の発生・発達・形成メカニズムや、メソ~総観規模現象との関連が研究されてきた。近年の小型無人航空機(Unmanned Aerial Vehicle; UAV)の進歩により、遠隔操作による上空の計測、サンプル取得、空撮等が従来よりも容易に行えるようになりつつあり、コロラド大で開発された気象センサーを搭載した小型UAVとMUレーダーとの同時観測実験を実施した。
日米仏の国際共同研究により、2015~2017年の6月にUAVとMUレーダーとの同時観測実験(ShUREX(Shigaraki, UAV-Radar Experiment)キャンペーン)が行われた。UAVは、小型(両翼幅1m)、軽量(700g)、低コスト(約$1,000)、再利用可能、GPSによる自律飛行可能で、ラジオゾンデセンサーを流用した1Hzサンプリングの気温・湿度・気圧データに加えて、800Hzの高速サンプリングの気温センサーによる乱流パラメータの高分解能データを取得する試みも行った。MUレーダーは、天頂ビームで46~47MHz範囲で等間隔の5周波数のレンジイメージングモードで運用した。また、水平風の情報も得るため、天頂角10°で北、北東、東、南東、南の5方向にビームを走査するモードも併用した。
MUレーダーとUAVの観測データからそれぞれ下部対流圏の屈折率勾配の二乗を推定し、比較・検討した。成層が見られる領域では小さな逆転層により両者が一致しない場合があったが、他の大部分では概ね一致する結果が得られた。一方、大気乱流の存在が示唆される場所ではMUレーダー観測から求めた値の方が大きくなった。これは乱流からの等方性散乱が起こる場合はエコー強度の決定に屈折率勾配以外の要素の寄与が小さくないことを示唆していると考えられる。大気乱流は至るところに存在し、人間生活に及ぼす影響も小さくなく、航空機の安全運航のためにもその観測・予測は重要な課題である。MUレーダーとUAVとの同時キャンペーン観測は大変貴重なデータセットを提供する。

ShUREXキャンペーンで使用したUAV

課題6 宇宙からの地球大気環境モニタリング

研究体制

代表者氏名:塩谷 雅人(京都大学生存圏研究所)
共同研究者:斉藤 昭則(京都大学理学研究科)

研究概要と成果

地球を周回する衛星からのグローバルな大気観測は,地球環境変動を理解するために必須の情報源となっている.社会的あるいは科学的な要求を踏まえて,下層大気の変動に対して敏感な高層大気領域の熱的・力学的構造,さらには大気微量成分分布を高精度でモニタリングするための装置の検討をおこない,次世代の観測手段を提案する.
人の生存環境にとって,中層大気(成層圏+中間圏)領域の果たす役割は大きく,その熱的・力学的構造,さらに大気微量成分分布は人間活動による擾乱の影響を受けている.この大気領域については,2009-2010年にかけて国際宇宙ステーションに搭載された観測装置JEM/SMILESが,世界で始めて4K冷却による超高感度サブミリ波大気観測をおこなった.この技術を基礎として,次世代の大気環境モニタリングをおこなうにはどのような観測が必要なのかを検討する.
中層大気から超高層大気に興味を持つ研究者が,この領域で明らかにすべき科学的なテーマについて議論し,これまで観測の空白域であった上部中間圏から下部熱圏を中心とした領域のグローバルな観測データを得ることが必須であることを認識した.中層大気から超高層大気までの領域の温度場・風速場と大気微量成分とを同時に一気に通して高精度で観測することによって,地球大気変動の最も重要な要素の一つである日周変動成分(潮汐)の鉛直構造を含めた動態把握がはじめて可能となる.また,大気波動にともなう運動量収支を通した力学過程や,気候変動の理解にとって重要なオゾン層変動に影響を与える化学過程を特定できる.これらの知見にもとづいて,気候研究のための化学モデルによる将来予測の信頼性向上や,宇宙天気のためのモデルのさらなる精度向上に寄与できる.以上のシナリオにもとづいてそれを実現するための具体的な装置デザインも含め,SMILESの発展型衛星観測を提案するための計画書を取りまとめた.

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