Research Institute for Sustainable Humanosphere

ミッション5-1「人の健康・環境調和」
平成29年度の活動

[バイオマスの生体防御物質]

課題1-1 木竹酢液の抗ウイルス活性物質の探索(渡辺隆司)

未利用バイオマスから薬効成分・生理活性物質を生産し、人の健康や安全な生活に貢献することを目的とし、木酢液、竹酢液の抗ウイルス活性成分の探索研究をウイルス・再生医科学研究所などと共同実施している。平成29年度は、木酢液に含まれる多様なフェノール誘導体の構造を決定するとともに抗ウイルス活性を評価し、芳香環につく置換基の抗ウイルス活性に与える影響を明らかにし、論文発表した。また、サトウキビバガスや木材のマイクロ波分解物の抗腫瘍活性や抗ウイルス活性に関する共同研究を開始した。

木竹酢液由来フェノール誘導体の脳心筋炎ウイルス (EMCV) に対する抗ウイルス活性

研究成果

  1. Li, R. Narita, R. Ouda, H. Nishimura, S. Marumoto, M. Yatagai, T. Fujita, T. Watanabe, ACS Sustain. Chem. & Eng., 6, 119–126 (2018).
  2. Li, R. Narita, R. Ouda, S. Marumoto, H. Nishimura, T. Fujita, T. Watanabe, Characterization of antiviral compounds in wood and bamboo vinegars, International Workshop on Bamboo Charcoal & Vinegar, Zhejiang, China, Dec.13. 2017.(招待講演)

課題1-2 生理活性物質の生産機構と生物工学(矢崎一史)

医薬品として利用される植物の二次代謝産物には、抗癌剤のビンクリスチンやパクリタキセルのように、高い脂溶性を示す化合物が多いが、その分泌機構は大部分が未解明である。本研究では、ムラサキのシコニン生産系をモデルに、その機構解明に挑んでいる。
29年度は、ムラサキ培養細胞、培養毛状根など複数の材料を用い、シコニン生産時と非生産条件化での網羅的発現解析をRNA-Seq と比較プロテオームにて行い、シコニン生産時に発現が有意に上昇する遺伝子、ならびに蛋白質断片を数多く見出した。それらを総合することで、シコニン生合成並びに分泌に関わると考えられる遺伝子のリストを作成した。

成果発表

  1. Ueoka, H., Miyawaki, T., Sasaki, K., Ichino, T., Yamamoto, K., Ohara, K., Suzuki, H., Shibata, D., Yazaki, K., “Functional analysis of geranyl diphosphate synthase localized in cytosol in Lithospermum erythrorhizon” The 2nd Asia Research Node Symposium on Humanosphere Science (Kyoto)
  2. 巽 奏 ,岡咲 洋三 ,梶川 昌孝 ,市 育代 ,市野 琢爾 ,斉藤 和季 ,福澤 秀哉 ,矢崎 一史 「ムラサキ培養細胞における脂質の細胞外分泌とシコニンとの関わり」第59回日本植物生理学会(札幌).
  3. Ueoka, H., Miyawaki, T., Sasaki, K., Ichino, T., Yamamoto, K., Ohara, K., Suzuki, H., Shibata, D., Yazaki, K., Characterization of Geranyl Diphosphate Synthase (GPPS) in Lithospermum erythrorhizon、JSBBA KANSAI 4th Student Forum (Kobe)

課題1-3 抗腫瘍性リグナンの生物生産に向けた単位反応の構築(梅澤俊明)

リグナンとは二分子のフェニルプロパン単量体がC8同士で結合した化合物の総称であり、様々な有用生理活性を有している。ポドフィロトキシンは抗腫瘍性リグナンであるが、同化合物を産生する植物の希少さから、安定した生物生産系の確立が望まれている。ポドフィロトキシンの生物生産系確立に向け、本研究では同化合物の生合成遺伝子の取得を試みた。一方、リグナンがヒトなどの哺乳動物体内で代謝されると、哺乳動物リグナンという独特の芳香核構造を有するリグナンが腸内細菌によって生成する。哺乳動物リグナンの体内濃度が高ければ乳がんなどの慢性疾患が発症するリスクを減少させるとの報告がある。しかし、腸内細菌が保有する哺乳動物リグナン生成に関わる酵素は、ほとんど未同定である。そこでH29年度は、これまで続けてきたポドフィロトキシン生合成機構の解明の研究テーマに加え、腸内細菌が保有する哺乳動物リグナン生成に関わる酵素の同定にも取り組んだ。

成果発表

  1. 久留菜美、鈴木史朗、内海龍太郎、梅澤俊明、「ヒト腸内細菌Blautia producta ATCC27340におけるリグナンO-デメチラーゼの探索」、第62回リグニン討論会(名古屋)、2017年10月26~27日(ポスター発表)
  2. 久留菜美、鈴木史朗、内海龍太郎、梅澤俊明、「哺乳動物リグナン生成機構に関わるリグナンO-デメチラーゼの探索」、第68回日本木材学会大会(京都)、2018年3月14~16日(口頭発表)

mission_report_28_5_1_4抗腫瘍性リグナン推定生合成経路

課題1-4 昆虫モデルによるバイオマス(植物・微生物)の生理活性機構調査 
―グルーミング行動を利用した遺伝子資源探索ー(柳川綾)

グルーミングは、動物が自身あるいは相互に体表をなめあうなどの衛生行動を指す。ヒトでは貧乏ゆすりなども含まれ、ストレス性心疾患から生じる異常行動に関わる。本課題では、昆虫をモデルにグルーミング機構の関連遺伝子や植物・微生物由来生理活性物質を探索することで、病気による異常行動の緩和など、医学的な治療に貢献する。平成29年度は微生物との接触によって誘導される反射的なグルーミング行動が、グラム陰性菌ペプチドグリカンによって誘導されていたこと、そしてその受容体であるPGRP-LCが誘導に関与することを明らかにした。PGRP-LC遺伝子は昆虫IMD免疫系を司るが、ヒト免疫系でも機能している。また、Or83b(嗅覚)およびpoxn70(味覚)ノックアウト系統を使って、グルーミングによる糸状菌除去では機械シグナルと匂いシグナルが重要であることを明らかにした。

研究成果

[論文発表]
1. Yanagawa, A., Chabaud, M., Imai, T., Marion-Poll, F. (2018) Olfactory cues play a significant role in removing fungus from the body surface of Drosophila melanogaster, Journal of Invertebrate Pathology151, 144-150. 
2. Yanagawa, A., Neyen, C., Lemaitre, B., Marion-Poll, F. (2017) The gram- negative sensing receptor PGRP-LC contributes to grooming induction in Drosophila, PlosOne 12(11), e0185370. 

[学会発表]
1. Yanagawa, A., Chabaud, M-A., Imai T., Marion-Poll, F. Drosophila usage of chemical cues in removing fungus Beauveria bassiana from the body surface, The International Congress on Invertebrate Pathology and Microbial Control and the 50th Annual Meeting of the Society (2017年8月, San Diego).
2. Yanagawa, A., Yoshimura, T., Hata, T. Raman spectra of Drosophila chemosensory wing hair,日本比較生理成果学会第39回福岡大会(2017年11月、福岡)

課題2 電磁波の生体影響(宮越順二)

我々の生活環境には多種多様な非電離放射線の電磁波が存在し、これら電磁波のばく露による人の健康への影響について、国際的な議論が高まっている。このような背景から、細胞や遺伝子レベルの実験により、電磁波ばく露の影響評価研究を行っている。具体的なテーマとしては、以下の研究に取り組んでいる。

国際的な普及が見込まれる超高周波帯(ミリ波、テラヘルツ)生体影響評価

生活環境におけるワイヤレス電力伝送システムによる生体の安全性評価

平成29年度の研究概要

電動トラックへのマイクロ波給電や空港におけるボディスキャナに使用される際に照射される電磁波により、生体にどのような影響が見られるかを検索するため、電磁波が浸透すると考えられる深度を考慮して、眼部表面の培養細胞(HCE-T細胞)を用い、5.8GHzおよび40GHzばく露による遺伝毒性評価を行った。

研究の結果および考察

HCE-T細胞の小核形成試験結果を図1に示す。5.8GHzおよび40GHzばく露を行った細胞で、通常インキュベータにおけるコントロールおよびShamばく露と有意な差は見られなかった。また、ポジティブコントロールとして、10 µg/ml濃度のブレオマイシンで処理した細胞において有意な上昇が観察された。

図:5.8GHzおよび40GHzばく露によるHCE-T二核細胞300個中の小核形成頻度   (** p<0.01, n=6)

今後の展開

今回の実験から、5.8GHzおよび40GHzばく露によるHCE-T細胞の小核形成への影響は観察されなかった。今後はさらに別の機能的側面からのアプローチにより電磁波の生体影響を検索する。また、生活環境で汎用が予想される異なる周波数での研究を行う予定である。

研究成果

Koyama, S., Narita, E., Shimizu, Y., Suzuki, Y., Shiina, T., Taki M., Shinohara N., Miyakoshi, J., Effects of long-term exposure to 60 GHz millimeter-wavelength radiation on the genotoxicity and heat shock protein (Hsp) expression of cells derived from human eye. Int. J. Environ. Res. Public Health, 13, 802, doi:10.3390/ijerph130808022016, 2016.

本研究に関するより詳しい説明はホームページをご覧ください。
Homepage URL:  http://space.rish.kyoto-u.ac.jp/people/miyakoshi/

課題3 大気質の安心・安全―人間生活圏を取り巻く大気の微量物質の動態把握―(高橋けんし,矢吹正教)

大気微量成分(ガスおよび粒子状物質)は、ローカルからグローバルスケールの大気環境への影響や、ヒトへの健康影響も懸念される。本研究では、人間生活圏および森林圏に近い大気の化学的動態の変動に着目し、大気微量成分の時空間分布を精細に描写する新しい大気計測手法を開拓することを目指している。29年度は、現代生活において多くの人が少なからず利用する車両を人間生活圏の一部分であると捉え、走行中の車両内におけるエアロゾルの動態を探査することを試みた。サブミクロンサイズのエアロゾル粒子に注目し、車窓の開閉の違いや、道路環境の変化が、車両内のエアロゾルの重量濃度、および、粒径分布に与える影響をリアルタイムで追尾した。エアロゾルの観点で見た車両内の空気質の診断方法の確立に向けて解析を進めている。

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野外観測や室内実験による大気微量成分の動態把握

研究成果

Yabuki, M., K. Miura, and M. Shiobara, Aerosol vertical profiles near Mt. Fuji using a micropulse lidar, Symposium on Atmospheric Chemistry and Physics at Mountain Sites 2017 (Gotenba, Japan), C-04, Nov. 2017.
M. Yabuki, F. Kitafuji and T. Tsuda, High Spatial Resolution Aerosol Lidar with a Multispectral Detector, The 10th Asian Aerosol Conference (Jeju, Korea), PS-IM15, July. 2017.

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