Research Institute for Sustainable Humanosphere

ミッション融合研究 1 宇宙と木材

1-1 宇宙と木材「木質由来ならではの炭素材の宇宙利用の優位性」

研究代表者:小嶋浩嗣、畑 俊充
関連ミッション:ミッション1、ミッション3

[概要]
宇宙空間における飛翔体(衛星、ステーションなど)の宇宙に暴露する部分の材料は、十分な強度と軽量であるばかりでなく、十分な導電性を示す必要がある。木質を焼結して製作した木質炭素材は、十分な強度とアルミニウムに匹敵する重量密度をもつ上に十分な導電性を示すため宇宙空間での利用に向いている。一方で、焼結した材料はその表面が粉化して離脱してしまう欠点があり、このままでは無重力である宇宙空間での使用はできない。そこで、この粉化離脱を防ぐため、木質由来のDLC膜を木質炭素材表面にスパッタリング生成し、その粉化を防いだ。一方、地球低高度衛星では、原子状酸素(AO: Atomic Oxygen)による材料の浸食が問題となる。原子状酸素は、反応性が高いことに加え、相対速度8km/sというエネルギーで宇宙機に衝突するため、宇宙機への影響は大きい。これまで様々な材料と原子状酸素との反応性の実験が行われてきたが、木質炭素材の反応性についてはデータがなく本研究では、神戸大学にある原子状酸素照射実験装置を利用して、木質炭素材の反応性とその物性を調べた。そして木質炭素材でも他の金属と同様の原子状酸素による浸食が認められたが、表面に生成したDLC膜の生成時のターゲット材にSiを共存させ同時にスパッタリング蒸着させることで、原子状酸素に対する耐久性が向上することがわかった。一般に人工炭素材においてもSiを混入させることで、耐原子状酸素が向上することがわかっているが、人工炭素材に加え、孔径が小さくそろっている木質由来の炭素材では、Siの効果がより大きく現れることが期待でき、木質由来ならではの炭素材の宇宙利用の優位性を獲得できる可能性がある。

1.原子状酸素照射による木質炭素化物の構造変化の解明

・研究期間:平成22年6月~平成23年3月
・関連ミッション:ミッション3、ミッション4

・研究代表者:畑俊充
・共同研究者:田川雅人(神戸大学大学院工学研究科)
・共同研究者:小嶋浩嗣(京都大学生存圏研究所)
・共同研究者:梶本武志(和歌山県工業技術センター)

・成果の概要:木質炭素材にSiを含有させた焼結体試料を作成し、宇宙環境をシミュレートした実験を行った。原子状酸素の照射によりSiがSiO2に変化することによって、炭素部分の浸食が抑制された。

・成果
オリジナル論文: Kajimoto, T.; Hata, T.; Tagawa, M.; Kojima, H.; Imamura, Y.; Hayakawa, H.; Yamakawa, H.; Yoshikatsu, U., Resistance for Erosion on Carbonized Lignin and Si in Combined Materials. 2010; 高温学会誌 36(4) p 185-191.

 2. 原子状酸素照射によるオルガノソルブリグニン炭素化物の酸化・浸食機構の抑制

・研究期間:平成23年6月~平成24年3月
・関連ミッション:ミッション3、ミッション4

・研究代表者:畑俊充
・共同研究者:田川雅人(神戸大学大学院工学研究科)
・共同研究者:小嶋浩嗣(京都大学生存圏研究所)
・共同研究者:梶本武志(和歌山県工業技術センター)

・成果の概要:炭素とSiを配合した試料についてXPSにより分析を行ったところ、原子状酸素の照射前後における各結合の原子濃度割合はC-C及びC-Hが減少し、SiO2及びCOOHが増加した。原子状酸素照射により炭素が浸食されSiは酸化されたことが示唆された。TEM観察においてはSiと炭素が近接して分布しており、原料由来の結晶質Siと照射された原子状酸素と反応した非晶質Siとが混在していた。原子状酸素照射により生成したSiOCからなる結合が炭素の浸食を防いだと推測された。

・成果:
口頭発表:Takeshi Kajimoto, Toshimitsu Hata, Masahito Tagawa, Hirotsugu Kojima, Hajime Hayakawa: Resistance of Silicon-containing Carbonized Lignin to Atomic Oxygen Erosion, ICPMSE-10J, 06.12-17.2011,Okinawa
畑 俊充: 原子状酸素照射による木質炭素化物の構造変化の解明、第175回生存圏シンポジウム、生存圏ミッションシンポジウム、2011.03.24、京都

単行本:Kajimoto, T.; Hata, T.; Tagawa, M.; Kojima, H.; Hayakawa, H., Resistance of Silicon-Containing Carbonized Lignin to Atomic Oxygen Erosion. In Protection of Materials and Structures From the Space Environment, Kleiman, J.; Tagawa, M.; Kimoto, Y., Eds. Springer-Verlag Berlin Heidelberg: 2013; pp 541-546.

 3. 導電性木質炭素化物の低軌道宇宙環境耐性向上に関する研究

・研究期間:平成24年6月~平成25年3月
・関連ミッション:ミッション3、ミッション4

・研究代表者:田川雅人(神戸大学大学院工学研究科)
・共同研究者:畑俊充(京都大学生存圏研究所)
・共同研究者:小嶋浩嗣(京都大学生存圏研究所)
・共同研究者:梶本武志(和歌山県工業技術センター)

・成果の概要:
炭素/Si配合のターゲットを用いてスパッタリングを行うことにより薄膜を作製することが可能であり、薄膜には炭素及びSiの存在が確認できた。薄膜についてTEM-EELSによる原子状酸素照射前後の結果を比較すると、照射後、炭素及びSiいずれも酸素と結合したことを示すエネルギーシフトが確認できた。また、Siにおいて照射前と異なる位置にピークが観察された。原子状酸素照射に伴い、炭素はカルボキシル基などの反応物を生成しながら浸食が進むと考えられ、Siは酸化物だけでなく炭素も取り込むことによって安定な構造を形成し、浸食を防いでいると推測された。

 4. 木質系DLC被膜による低軌道宇宙環境耐性の向上

・研究期間:平成25年6月~平成26年3月
・関連するミッション:ミッション3、ミッション4

・研究代表者:畑俊充・共同研究者:田川雅人(神戸大学大学院工学研究科)
・共同研究者:小嶋浩嗣(京都大学生存圏研究所)
・共同研究者:梶本武志(和歌山県工業技術センター)

・成果の概要:木質由来の炭素化物の活用に加え、Siを用いて無機物由来の利点を付加することにより先端的材料開発を行った。本研究では表面へのSi付加は現有のスパッタリング装置により木質炭素材をDLC(ダイヤモンドライクカーボン)化することによって、材料(木質炭素化物とDLC膜)の密着性の向上を図った。神戸大学に整備されている低軌道宇宙環境模擬装置を用いて原子状酸素を照射した試料について分析したところ、AO照射に対してSiが酸化膜を形成しており、自己修復機能を付与した機能性木質炭素材であることが分かった。

 5. Siドープ木質系DLC膜による低軌道宇宙環境耐性の向上

・研究期間:平成27年6月~平成28年3月
・関連ミッション:ミッション3、ミッション4

・研究代表者:畑俊充
・共同研究者:田川雅人(神戸大学大学院工学研究科)
・共同研究者:小嶋浩嗣(京都大学生存圏研究所)
・共同研究者:梶本武志(和歌山県工業技術センター)

・成果の概要:木質材料を炭素化して得られる物質を2,000℃の高温まで加圧焼結することにより、結晶化の進んだ乱層構造炭素をつくり、得られた高温焼結体とSiを混合してスパッタリング用ターゲットを作製した。得られたターゲットからDLC膜を形成しAOに対する耐久性と導電性の両方が付与という両方を備えた機能性木質炭素材について低軌道宇宙環境をシミュレートした装置でAO照射を行った。Siドープ試料では酸化膜が形成され、表面化学構造分析による炭素と他の元素との結合状態からSiOxCy構造となっていることがわかった。この構造は、自己修復機能付与の鍵となることが示唆された。

・成果:
口頭発表:低軌道宇宙環境下での木質炭素化膜の微細構造変化, 第15回木質炭化学会・日本バイオ炭普及会合同研究発表会, 福岡, 2017.6

単行本:Kajimoto, T.; Hata, T.; Tagawa, M.; Kojima, H.; Hayakawa, H., Wood-based, diamond-like carbon for improved resistance against atomic oxygen. In Protection of Materials and Structures from the Space Environment, Springer International Publishing: 2017; pp 69-75.

1-2 宇宙と木材「宇宙における木材利用に関する基礎的研究」

・研究期間:平成16年4月~平成16年9月
・関連ミッション:ミッション3、ミッション4

・研究代表者:今村祐嗣(居住圏環境共生分野)
・共同研究者:吉村 剛(居住圏環境共生分野)
・共同研究者:篠原直毅(生存圏電波応用分野)
・共同研究者:三谷友彦(生存圏電波応用分野)
・共同研究者:勝又典亮(居住圏環境共生分野:修士課程学生(当時))

・成果の概要:
宇宙圏での木材の利用を目指し、木材を真空状態に暴露した場合に生じる変化について調査した。スギ辺材試験体を真空チャンバー中に入れ、1 x 10-3 Paの超真空状態で640時間保持して質量減少率と曲げ試験によるヤング率の算出を行った。さらに、粉砕試料を用いてセルロースの結晶化度を測定した。その結果、質量減少は全く観察されず、また、ヤング率とセルロースの結晶化度にも変化は認められなかった。このことは宇宙での木材利用の可能性を示している。

・成果発表履歴:
学会発表:The 5th International Wood Science Symposium(第5回国際木材科学シンポジウム)(2004年9月17~19日、京都)においてポスター発表。要旨をProceedingに掲載(ポスターNo.P38、411ページ)

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