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熱帯泥炭地は温室効果気体の巨大排出源である~排出量推定法の開発と排出削減への貢献~(伊藤雅之准教授ら)

伊藤雅之准教授、坂部綾香 農学研究科助教らの研究グループは、東南アジアの低平地に広がる熱帯泥炭地(18万km2)からの温室効果気体(GHG =二酸化炭素(CO2)+メタン(CH4))の排出量を推定し、詳細な分布図(空間分解能463 m)を月単位で作成することに世界で初めて成功しました。

東南アジアに広がる泥炭地は湿地林と共生してきました。地下水位が高いため枯死木の分解が遅く、膨大な量の有機炭素を泥炭として地中に蓄えてきましたが、近年の大規模農地開発で地下水位が低下して泥炭分解が進み、大量のCO2が排出されるようになりました。エルニーニョ現象による干ばつ時にはCO2排出量が更に増加します。一方、CH4排出量は地下水位の低下によって減少します。

先行研究では、土地利用ごとに一定の排出係数(単位面積当たりの年間排出量)を適用して、泥炭からのCO2とCH4の排出量の年間値のみを推定しています。それに対して本研究では、公開されている降水量マップから地下水位マップを作成し、さらに11か所の観測地点の実測値を基に作成したモデルを用いて地下水位から月単位で排出量マップを作成しました。得られた排出量は、樹木の光合成によるCO2吸収などを含んでおり、生態系スケールでの正味の排出量になります。10年間の推定結果から、(1)泥炭の分解により湿地林と農地から日本の年間排出量の約30%に相当するGHGが排出されている、(2)未排水の湿地林が排水され、さらに農地に転換されることでGHGの排出量がそれぞれ2.8倍、6.4倍に増加する、(3)干ばつにより排出量が16%増加することを明らかにしました。

本研究成果は、2025年12月16日に、国際学術誌「AGU Advances」にオンライン掲載されました。

土地利用変化に伴う1ヘクタールあたりの年間排出量の変化(CO₂:トンCO₂、CH₄:キログラムCH₄、GHG:トンCO₂換算 = CO₂ + 45×CH₄)

研究者のコメント

「東南アジアなどに広大に拡がる泥炭湿地林という熱帯林は、数千年間に及ぶ膨大な量の炭素を地中に蓄える炭素銀行として機能してきました。この炭素は植物の光合成により固定された大気中CO2ですが、近年の人為的な開発により分解し大量の温室効果ガスを放出しています。本研究は、たどり着くのも困難なサイトで長期間蓄積された観測データから熱帯泥炭地の温室効果ガス排出の時空間的変化を明らかにした貴重な研究成果と言えます。」(伊藤雅之)

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1029/2025AV001861

【書誌情報】
Takashi Hirano, Tomohiro Shiraishi, Ryuichi Hirata, Masato Hayashi, Chandra Shekhar Deshmukh, Lulie Melling, Bettycopa Amit, Masayuki Itoh, Tomomichi Kato, Frankie Kiew, Sofyan Kurnianto, Kitso Kusin, Nardi Nardi, Nurholis Nurholis, Tiara Nales Nyawai, Elisa Rumpang, Ayaka Sakabe, Ari Putra Susanto, Joseph Wenceslaus Waili, Guan Xhuan Wong (2025). Impact of Land Use Change and Drought on the Net Emissions of Carbon Dioxide and Methane From Tropical Peatlands in Southeast Asia. AGU Advances, 6, 6, e2025AV001861.

研究者情報

研究室ウェブサイト   大気圏環境情報分野

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