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循環材料創成分野 梅村研二教授 着任挨拶(2020年)

 

本年5月より、定年退職された金山公三先生の後任として、循環材料創成分野を担当させていただいております。もと もと私は、1993年に博士課程の編入学生として初めて木質科学研究所(当時)に来ました。入学当初からちょうど木質材料実験棟の建設が始まり、建設中は資材運搬や設備搬入に何度も駆り出されました。完成後は、新しい建屋で研究を進めることができましたが、3階の会議室はホルムアルデヒド臭がひどく、特に夏場は目がチカチカしたのを覚えています。修了後は、いろいろなポスドクを経験し、200311月に物性制御分野(当時)の助手として採用されました。当時は、次年度からの生存圏研究所の開所に向けて、先生方が右往左往しておられるのを見つつ、よく分からずに下働きをしていました。なので、今振り返ってみると、私の教員生活はほぼ研究所とともに歩んできたことになります。

これまでの研究は、主に木材用接着剤や木質材料の開発に携わってきました。前述のホルムアルデヒド臭は、ホルムアルデヒド系接着剤を使用した木質建材から放散したと考えられ、当時はシックハウス症候群の原因物質として社会問題となりました。現在は技術開発が進み、木質建材からのホルムアルデヒド放散は非常に低く抑えられています。ただ、ホルムアルデヒドをはじめとした接着剤の原料は、いわゆる化石資源を由来とした化合物です。ご承知の通り、化石資源の使用によって地球温暖化が進行していますので、できる限り化石資源の使用を減らす必要があります。地球温暖化問題は1980年代から議論が始まり、最近ではSDGsESG、バイオエコノミーなどの取り組みが世界的に行われています。木材用接着剤でも、タンニンやリグニン、大豆タンパクといったバイオマスを原料に用いた天然系接着剤に関する研究が行われています。当研究室でも天然系接着剤の開発を積極的に進めていますが、従来とは異なった発想に基づいて、多糖類のコンニャクグルコマンナンやキトサン、ポリカルボン酸のクエン酸、さらには砂糖の主成分であるスクロースを接着剤とする研究を進めています。

一方、木質材料の原料となる木材事情を見ると、日本では人工林の成長による国産材の利用が盛んですが、世界では森林面積の減少が進んでいます。最近の報告によると、1990年以降、178百万ヘクタールの面積が消失しました。これは日本の面積の実に4.7倍に相当します。この原因は、過度な伐採や農地への転換に加え、気候変動による森林火災も含まれ、アマゾンやオーストラリアの大規模な森林火災は記憶に新しいところです。森林は、木材生産だけなく、生物多様性保全や地球環境保全などの多面的な機能を備えていますので、今後は森林の保全と管理が一層厳しくなることが予想されます。これを踏まえ、農産廃棄物などの未利用リグノセルロースを木質材料の原料として利用する研究を進めています。最近の研究では、天然系接着剤とうまく組み合わせることによって高性能な木質材料ができることを見出しています。農産廃棄物の有効利用は、アジア諸国での重要な課題となっていますので、インドネシアや中国、バングラデシュ、マレーシアの研究者と共同で研究を進めています。

生存圏研究所では、国際共同研究のハブ機能を強化するために生存圏アジアリサーチノードを整備・運営するとともに、生存圏科学スクール(HSS)や国際生存圏科学シンポジウム(ISSH)を開催しています。これまでも何度か参加させていただきましたが、今後もより一層発展するように貢献したいと考えています。さらに、ミッション活動にも積極的に関与し、生存圏科学の発展に尽力したいと思っています。皆様、どうぞよろしくお願い申し上げます。

 

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