バイオマス変換分野 教授 岸本崇生 着任エッセイ
更新日: 2024/09/04
令和6年7月1日付で、渡辺隆司教授の後任として、バイオマス変換分野の教授に着任いたしました。どうぞよろしくお願いいたします。バイオマス変換分野は、昭和19年に京都帝国大学に設置された木材研究所の木材化学第1研究室に端を発しています。大学院は、農学研究科応用生命科学専攻の協力講座として、木質バイオマス変換化学分野という専門種目の教育研究を担当しています。
林野庁のホームページによると、バイオマスは「再生可能な、生物由来の有機性資源(化石燃料は除く)」のことをさし、そのなかでも、木材からなるバイオマスのことを「木質バイオマス」としています。私の研究は、木材をはじめとして、タケやトウモロコシなどのイネ科植物や、ケナフなどの草本植物も含め、リグノセルロース系バイオマスと呼ばれる、リグニンを含む植物由来のバイオマスを研究対象としています。
そこで、リグニンとは何かということですが、樹木や草本植物などの植物細胞壁は、セルロース、ヘミセルロース、リグニンという天然高分子化合物からできています。セルロースとヘミセルロースは繊維状で、多糖類に分類されるのに対して、リグニンはフェニルプロパノイドに分類され、広義のポリフェノール類に含まれます。セルロースは鉄筋コンクリートの鉄筋に、リグニンはセメントに例えられることもあります。リグニンは木を固める成分といえます。
リグニン(lignin)の名前の由来は、木材を意味するラテン語のlignumからきています。リグニンは、古くは木質素ともいわれ、樹木が樹木であるのはリグニンがあるからといえるのではないでしょうか。ちなみに私の卒業した京都大学農学部林産工学科の同窓会の名前は、ユナリグナといいます。ラテン語のuna(一緒に)とlignumの複数形のlignaが名前の由来と聞いています。
セルロースは、ブドウ糖(グルコース)がβ(1→4)結合という1種類の結合だけでつながれています。β(1→4)結合を分解できる酵素(セルラーゼなど)があれば、グルコース単位まで簡単に分解されてしまいます。タンパク質は20種類ものアミノ酸からできていますが、結合様式はペプチド結合という1種類の結合だけです。それに対して、リグニンは繰り返し単位となるモノマーの構造がグアイアシル核、シリンギル核、p-ヒドロキシフェニル核の3種類あります。また、モノマー単位間をつなぐ結合の種類も、β-O-4、β-5、β-β、β-1、4-O-5、5-5結合など、たくさんの結合様式があります。明確な繰り返し単位を持っていないということもできます。キノコやバクテリアなどの微生物がリグニンを分解するためには、それらの多種多様な結合を分解する必要があるため、土壌中でも簡単には分解されず、リグニンは難分解性であるといわれています。難分解性のリグニンは、植物体が土中で腐植となった後も変性しながらも残り続けるともいわれています。地球上で最も多い有機化合物はセルロース、2番目に多い有機化合物はリグニンとされていますが、土壌中のリグニン変性物を含めると、地球上で最も多い有機化合物はリグニンということになるかもしれません。
私は、そのような非常に複雑なリグニンの構造が、実際にどのような構造をしていて、リグニンのモノマー(モノリグノール)がどのように重合してリグニンの骨格が組みあがっていくのかに興味があり、関連の研究を続けています。リグニン中の構成単位(モノマー)の割合や単位間結合の割合はこれまでにも十分に解明されていますが、それらが全くランダムにつながっているのか、あるいはある一定の法則のもと結合しているかといった配列の問題は未解明のまま残されています。酵素を使って人工的にリグニンのモノマーを重合させ、その反応生成物を詳細に解析し、どのようなメカニズムで重合していくのかについて検討しています。