津田研究室(京都大学生存圏研究所 大気圏精測診断分野)

津田研究室が取り組んでいる研究についてご説明します。

研究内容 / レーダーによる水蒸気観測

大気レーダーは乱流による電波散乱を受信します。同じ乱流でも背景の屈折率プロファイルによって受信強度が変わることを応用し、大気中の水蒸気(屈折率を左右する)を測定することが可能です。この手法は当研究室で開発され、現在も改良中です。

レーダーによる水蒸気推定の原理

 大気中の乱流はドップラー効果によりレーダエコーの周波数を広げるため、エコースペクトルの幅から乱流強度が求まります。一方、エコーの強さは乱流強度と背景の屈折率勾配の大きさで決まりますので、幅と強さの両者から屈折率の鉛直勾配の絶対値が求まります。その符号を何らかの方法で判定できれば、屈折率の鉛直プロファイルが求まり、さらにRASS(リンク)等で気温がわかっていれば、水蒸気の高度分布が求まります。よって、この符号判定アルゴリズムが開発の要となります。

↑(左)乱流による電波散乱の概念図、(右)レーダーエコーの周波数⇒ドップラー速度分布

屈折率高度勾配の符号判定アルゴリズム開発

↑GPS可降水量を使う符号判定アルゴリズムの一つのブロック図

 上記のように、レーダーによる水蒸気推定の要は、屈折率の高度勾配の符号判定です。そのためのアルゴリズムをいくつも考案し、MUレーダー等の実際のレーダーシスムテムに対し実装して、改良を重ねています。

MUレーダーによる水蒸気観測の例

↑ラジオゾンデ(上)及びMUレーダー(下)で測った水蒸気の時間高度断面。*マークは人工衛星ひまわりによる雲頂高度。

 レーダーを用いると、数分という非常に高い時間分解能で水蒸気を測定できます。図の例では、雲の通過による湿度の急激な変化が捉えられています(ラジオゾンデデータの時間内挿では捉えられてれません)。

下部対流圏レーダーによる水蒸気観測

 普及型の小型レーダーによる水蒸気観測手法も開発しており、天気予報の向上を目指しています。図は、日本の気象庁が全国配備したものと同型のウィンドプロファイラー及びそれで測定した水蒸気です。

↑中国に設置した下部対流圏レーダー(左)で測定した水蒸気の時間高度断面(右)

複合水蒸気観測システムの構築

 信楽MU観測所における複合水蒸気観測システム構成は、図のようになっています。

 昼夜、天候にかかわらず、高い時間・鉛直分解能で水蒸気プロファイルを測定するため、レーダーを含む様々な測器を補完的に用いるシステムを構築しています。複数の測器は相互の検証にも用います。

現在進行中の研究・開発テーマ

 水蒸気推定は新しい手法であり、上に挙げたすべての研究が現在進行中です。例えばアルゴリズムも、より良いものを求めて日夜改良を繰り返しています。

↑赤道大気レーダー

付録:水蒸気推定原理の数式を用いた補足説明

大気の屈折率のポテンシャル鉛直勾配Mは次のように表される。

M=p/T(K0(N^2/g)+K1(q/T)(N^2/g)-K2(1/T)(dq/dz))

ここで、 zは高度、Tは気温、pは気圧、Nは大気の浮力振動数(気温の鉛直プロファイルで決まる)、qは比湿(水蒸気量)、その他は定数である。Mはレーダーによる計測と次のように関係付けられる。

|M|=(Cη^1/2)(Nε^-1/3)

ここで、 εは乱流エネルギー消散率であり、エコーのスペクトル幅から求まる乱流の運動エネルギーより求まる。 ηは乱流の体積散乱率であり、エコー強度に直結する。Cは経験的に求める定数である。 これよりΝが既知であれば、レーダー観測よりΜの絶対値が求まる。その符号を判定できればMが求まり、qに対する高度に関する微分方程式が得られる。これを適当な境界条件の下に解くと q が求まる。

具体的には、大型VHFレーダーでは高高度まで観測できるため、上端でq=0とすれば良い。一方、小型レーダーでは、観測の下限での水蒸気の測定値を用いるか、大型レーダーの測定値を上端で用いる。

当研究室での関連学位論文

関連する研究

当研究に用いられる装置

 当研究は、以下の装置を用いておこなわれています。

- TSUDA Laboratory - Research Institute for Sustainable Humanosphere [Contact]