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生存圏フォーラム30回連載コラム

 人間は死ぬまで健康でいたいと願う。然るに、不慮の事態により病気や怪我をすると人は薬を求め、体の異常を治そうとする。そしてまた健康体に戻ると、薬のありがたさを実感するのである。
 人類が現在の形態の医薬品を手にしたのは実はそれほど昔のことではない。化学療法という概念の導入がその発端と位置付けられるが、たったこの100年余りのことなのである。それより以前の人類は、植物など天然にあるものに薬を求め、それで自らの健康維持に役立てていた。特効薬というには及ばずとも、天然医薬品で人類は何とか凌いでいたわけであり、経験に裏打ちされた天然の薬用資源には、それだけの魅力と秘密が詰まっている。そんな「宝箱」の研究も、生存圏科学の一部であると筆者は思う。
(生存圏フォーラム会員 京都大学教授 矢崎 一史)