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生存圏フォーラム 第24回連載コラム

生存圏研究所は、人類の生存を支え、人類と協調的に相互作用する場である「生存圏」の現状を精確に診断することを基礎に、「生存圏」が抱える様々な問題に対して、包括的視点に立って解決策を示すことを目指しています。「生存圏科学への招待(第二版)」第6章に記載されていますように、古来、生物の生存環境は太陽放射エネルギーを基に、自然界の絶妙なバランスのもとで形成された大気圏によって保護されてきました。大気圏とそれにつながる地圏、水圏とのエネルギーや物質循環のバランスは、この太陽放射エネルギーと、人類の活動に起因するエネルギーや炭素などの物質移動、森林破壊などの土地利用の形態変化により大きな影響をうけます。人口爆発と近代文明の急速な発展にともなう化石燃料の大量消費や土地利用の変化により、このエネルギーや物質循環のバランスが大きくくずれ、地球温暖化や異常気象を引き起こし、さらには、資源枯渇、大気、海洋、土壌の汚染、食料の枯渇、伝染病の蔓延などが深刻化し、人類は存続の重大な危機に瀕しています。このように、人間活動が自然界のバランスを崩しうるほど強大になるにつれ、人類の活動の選択が、人類の生存や、それを支える地球環境の持続性を決める大きな要因となっています。人類の活動の選択には、行動を起こす動機付けと、それを統制する法制度や倫理観が大きく関係しています。木材や石炭からの収益を追求し、一部の海外地域で違法伐採が後を絶たないことを考えると、持続性や環境との調和を尊重する人の考え方を深く浸透させることの重要性に気づかされます。人の行動は、生活の糧を得るという生きる営みそのものと直結しており、社会のあり方や地域の経済活動と切っても切れない関係にあります。持続的な生存圏を作り出すために人類のとりうる道筋について、様々な分野の専門家や市民と共に考える場を作り出す必要性を強く感じます。生存圏フォーラムは、そうした場を共有するための同志の集まりです。
引用文献:「生存圏科学への招待(第二版)」https://www.rish.kyoto-u.ac.jp/introduction/publication/on_the_frontiers_of_humanosphere_science_in_2004-2014/
(生存圏フォーラム会員 京都大学教授 渡邊 隆司)