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生存圏フォーラム第58回連載コラム 木に空を接ぐ

3月6日に生存圏研究所の創立20周年記念の講演会、式典、祝賀会が開催され、私も出席させて頂いた。

その席上での祝辞の中で、新しい研究所の設立にあたり「木に空を接ぐ」という言葉が交わされたことが紹介されていた。私も20年前の新研究所の発足の記念式典で、ある来賓の方が「木に竹を接ぐという表現はあるが、今回は木に空を接ぐといえます」とご挨拶の中で仰っていたことを鮮明に憶えている。

確かに木質科学研究所と宙空電波科学研究センターの統合であるので、木に空を接ぐとはうまく言ったものだと感心する一方で、やや揶揄された感じを抱いたのも事実であった。

「木に竹を接ぐ」の意味は異質なものを接ぎ合わせる用語として用いられているが、木と竹の違いは何だろう。両方ともリグニンとセルロースを主成分とする木本植物の仲間であるが、その分類学的な位置づけや組織構造、成長様式は大いに異なっている。タケノコがどんどん成長して竹になるものの、竹の太さはタケノコの時点ですでに決まっていて、いったん成長した竹は年数を経ても太さや長さは変わらず、竹の節の数もタケノコの節の数とまったく同じである。一方、木は芽が出た時から大木になるまで空に向かって高く伸びていくとともに、横の太さも毎年毎年成長し、年輪を重ねていく。

 木と竹に比べると、木に空を接ぐことの方が異質どころか人類の持続的な生存に必須な領域をカバーすることでその重要性は高まるばかりである。研究対象は、空は大気から宇宙に伸び、木では根元から土壌中まで広がっているのが実状である。木は大気の中で太陽エネルギーを利用し二酸化炭素を吸収して成長し、樹木や森林の背景にはいつも青い空が描かれている。

 ところで20周年の記念式典を締めくくる挨拶の中で、副所長の小嶋浩嗣教授が20年前の新研究所の発足を記念して配られた置き時計のことを紹介され、今も大切に使っておられることをお話されていた。上下に木材が配され、中央部にカレンダーと気温表示機能を備えた電波時計がはめ込まれていて、ここにも研究内容をそれとなく反映させる思いが込められていた。下部の木材表面にはRISHのロゴが鮮やかに描かれている。

創立時のことに想いを馳せながら、生存圏研究所のさらなる発展を願って一文を書かせて頂いた。

(生存圏フォーラム会員 京都大学名誉教授 今村祐嗣)