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生存圏フォーラム第52回連載コラム

「今年の夏の暑さに想う」

今年は盆休み明け前までは猛暑であった。しかも地域差が大きいように感じた。東京では、その間のある日の最高気温は34℃に対して京都は38℃。東京在住の両親からの電話で、「京都ってものすごく暑いんだね」とびっくりされた。もちろん、京都は内陸に位置し、しかも盆地なので元来夏は蒸し暑く、冬は底冷えする気候ではある。なぜこんな暮らしにくい場所に、1200年以上も都が置かれてきたのは不思議であるが、それでも猛暑の時期の東京の最高気温と、京都のそれとは、20年以上京都に住んでいる私でさえも、近年は差がありすぎるように思っている。ただ、今年(2019年)の台風10号が中国・四国地方を通過して、台風がもたらした熱気と水蒸気によって、西日本は一時的に暑くなったが、その後、秋雨前線が現れ、天候不順の日が続き、雨が多く一気に涼しくなった。事実、8月26日現在、昼間は30℃以上で若干暑いが、夜は25℃以下となり、エアコンなしでも眠れるようになった。
このような京都と東京の気候の差の違いが大きくなっていることは、やはり地球温暖化が進行しているためなのではないかと思えてくる。聞くところによると、地球温暖化によって生じる現象として、もちろん地球の平均気温が上昇することは問題であるが、それよりも寒暖の差や、降雨と乾燥との差、すなわち、極端気象の起こる割合が高くなることによる弊害の方が重大なようである。今年の例で言えば、外国の例であるが、中国では北部で干ばつが起こっているのに対し、南部では洪水が起こっていると聞く。いずれの状況にしても農作物の生産には不都合である。農業を営むためには、適度に雨が降り、適度に晴れる気候がもちろん望ましい。
人類は天候をコントロールできない。一方、新海誠監督の最新作である「天気の子」というアニメーション映画のヒロインは、異常気象で雨天続きの東京に晴れをもたらす代わりに自分という存在が消えていくという悲しい役を演じている。もちろん現実には、そのような人はいないから、我々が気候の安定と極端気象に対応するために成すべきことは、地球温暖化の主な原因とされる人為的な温室効果ガス(二酸化炭素やメタンなど)の排出を削減すること、極端気象にも適応できる農作物を作出すること、レジリエントな灌漑システムを構築すること、貯水機能を持つ森林植生を回復・増加させることなど、一筋縄ではいかない様々な課題が含まれている。つまり、これらのうちの一つの課題が「はい終わり~!、チャンチャン!」と解決するものではなく、まさに異分野が協働しなければ解決が進まないと考える。
生存圏研究所の研究は、もちろん個別研究の深化も重要であるが、さらにこのような異分野の融合や協働を通して初めて解決を見る研究の推進こそが、本研究所の存在意義に通じると個人的には考える。先述の複雑に絡まった課題を端的に表しているものは、近年国連が定めた、今後持続的かつ貧困なく安定的に社会が発展するために必要な17のSDGsと呼ばれる課題群であるが、解決のためには互いにトレードオフの関係になるような課題もある。従って、どのようにこれらの課題解決のためのベストミックスを成り立たせるか、それは今後の人類の英知と行動力にかかっていると言えるだろう。

(生存圏フォーラム会員 京都大学助教 鈴木 史朗)