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生存圏フォーラム 第26回連載コラム

ようやく秋らしく涼しくなってきたと思いながら家の近所を散歩していたら、木全体がオレンジ色に見えるくらいキンモクセイの花がたくさん咲いているのに目がとまった。例年、秋に華やかな香りを添えてくれる庭木ではあるが、花は小さく、いつもだと知らない人は花に気付かないこともあるだろうと思えるほどなのだが、今年はその小さい花がびっしりと枝を覆うように咲いている。この夏、厳しい暑さが続いたからか、はたまた、夏台風が4つも上陸したからか、これほどたくさんキンモクセイの花が咲いたのは記憶に無い。花や実に所謂「当たり年」というのがあるが、それかも知れないとも思い、また多年生の植物では、生存の危機を感じると子孫を残そうとする機能が強く働くのか、花や実が多く着くとも言われている。これら伝聞の学術的根拠については定かではないが、植物は環境の変化に対してその体内で必死にいろいろ変化させ対応している。植物は普通、最初に種子の発芽した場所から自力で移動することができない。我々人類を含む動物は暑ければ日陰へ、寒ければ日なたへ移動することができる。植物は移動できないが故に、環境の変化に備えて事前にいろいろな物質を準備したり、環境の変化に応じて遺伝子の発現を制御したり、見た目の静謐さとは打って変わって内部ではダイナミックに生物学的変化が生じている。植物を研究する面白さのひとつは、こういった環境の変化に対する植物内部の変化を調べることにあると言っても過言ではない。また、それらの機能を調べることによって農作物や有用木の品種改良に繋がる発見が、日々少しずつではあるが蓄積されている。地球温暖化やそれに付随する異常気象など新しい問題が懸念される中、有用植物の品種改良が「これで終わり」という日はまだまだやってこない。
(生存圏フォーラム会員 京都大学助教 馬場 啓一)