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生存圏フォーラム 第7回連載コラム

京大に赴任してから、多彩な先生方、特に「ザッツ京大!」とでもいうべき方々にお会いしてきたが、そのうちの一人に人間・環境学研究科のS先生がいる。S先生にはトークの引き出しが沢山あり(と私が勝手に思っており)、実験演習の担当で吉田南構内の実験準備室に足を運ぶと、ついつい椅子に腰を下ろして話に聞き入ってしまう。ある時S先生がおっしゃった言葉〝アホなことせい〞は、とりわけ強く印象に残っている。この言葉は、S先生が京大に入学したときに多くの先生から言われた言葉だそうだ。勉強せいとは言われなかったそうだが、代わりに、アホなことはせい、と。関西出身ではない私にとって、「アホ」という言葉は、明石家さんまがテレビで頻繁に使っているイメージが強かったが、S先生が次のように説いてくださった。〝アホなことせい〞は京大的研究の原点である、と。詳しくは先生の著書*をご覧頂きたいが、端的に言うと、誰も気が付かなかった真実を明らかにするには、常識という名の呪縛から解放され、あえて「アホ」と思えることに挑戦すべし、という教えである。その昔、ここ生存圏研究所が発足した当初、《木に空を接ぐ》と揶揄されたことがあったらしい。しかしながら、木に空を接ごうというくらいの新しい概念の導入や劇的な発想の転換がなければ、『持続可能な社会』という言葉で語られるような社会の構築は難しいのではないか。環境、エネルギー、経済、様々な問題を抱えるこの時代の閉塞感を打破する肝は「アホ」にあるように思う。
* 都市を冷やすフラクタル日除け、成山堂、2013、ISBN 978-4-425-55361-7.
(生存圏フォーラム会員 K.T)