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生存圏フォーラム42回連載コラム

南極点基地でオーロラの観測をしています。と言っても遠隔で観測ができるので現地に常駐する必要はありません。南極点基地は南極大陸の中央付近、高さ2835メートルの氷床の上にあり、3月に太陽が沈むと9月まで上らないという極地の中の極地です。南極点基地は沿岸の基地から遠く離れていて、食料や燃料などあらゆる物資の輸送は全て飛行機に頼っています。インターネットは1日8時間程度しか使えません。私が南極点に行くのは夏の期間ですが、約40名の隊員は補給なしで冬の9ヶ月間を生活するのです。そのため、生命を長い間維持するために必要な設備が整っています。水は氷床を溶かして作り、清浄後にまた戻します。凍りにくいジェット燃料を燃やして発電します。ジムや広い体育館、趣味のクラフト工作ができる部屋などがあり、これらは社会を維持する上で必要でしょう。南極点基地で生活して思うのは、こうした設備のありがたさです。エネルギーと物質の流れが狭い基地の中で全て完結しており、その流れが止まった瞬間生命が危ぶまれることになります。繊細な仕組みの上で生きているという意味で小さな地球(あるいは生存圏)と言ってもよいのかもしれません。

(生存圏フォーラム会員 京都大学准教授 海老原祐輔)

2017年 南極点にて著者撮影