マスタープラン2020 太陽地球系結合過程の研究基盤形成


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研究計画の概要
「太陽地球系結合過程」の研究目的は、地球に太陽エネルギーが流入する過程、 ならびに、それに対する地球周辺環境の応答を解明することです。 太陽から地球に与えられるエネルギーは、太陽光ならびにプラズマ粒子の流れである太陽風に大別されます。 太陽光は赤道で最大となりますが、太陽放射により加熱された地表面が熱源となって大気擾乱を起こし、 その擾乱が大気波動に姿を変えて伝わることでエネルギーが上方向に運ばれます。 一方、太陽風に起因する電磁エネルギーは、地球磁場の磁力線を通じて北極と南極に集中します。 極域でも擾乱が起こり、太陽エネルギーの一部は、下向きおよび低緯度方向に伝わります。
本提案では、これら2つの特異点に大型大気レーダーを設置して拠点観測することを目指しています。 赤道域のなかでも、大気変動が最も強くなるインドネシアに、 「赤道MUレーダー」を設置します。 また、北欧に国際協力により 「EISCAT_3Dレーダー」 を建設します。 国内に既設のMUレーダー、 インドのMSTレーダー、 南極・昭和基地のPANSYレーダー等とともに、 国際協同観測を進めます。 さらに、小型計測機器により赤道から極域までをつなぐ広域観測ネットワークを構築して、 エネルギーと物質のグローバルな流れを解明します。 本提案は、日本学術会議の マスタープラン20142017、及び 2020の重点大型研究計画の一つとして採択され、 文部科学省のロードマップ2014 の11件の新規課題の一つにも選定されました。
研究概要

赤道ファウンテン
赤道では、積雲対流と呼ばれる大気擾乱が活発です。 これにより作られる大気波動が上空に伝わることで、 エネルギーが地表付近から高い高度にある電離圏まで運ばれます。 また、赤道には、中低緯度域から大気物質が集中してきますが、 これも上に吹き上げられ、対流圏界面を通過して、地球全体に輸送されます。 超高層の電離圏でもプラズマの擾乱(赤道異常)が起こります。 このように、赤道域の全ての高度層で現れる、 エネルギーと物質の流れを「赤道ファウンテン」として捉え、 その変動を「赤道MUレーダー」で観測します。 我々は既にインドネシアの西スマトラにおいて2001年以来、 「赤道大気レーダー(EAR)」を国際共同で連続運用してきました。 今回、既設のEARに比べ10倍以上の感度を持つ新型レーダーの建設を提案しています。
赤道ファウンテン

極域へのエネルギー流入と応答過程
太陽風に起因するエネルギーが流入することで起こる、 極域特有の現象を高性能の 「EISCAT_3Dレーダー」 で解明します。 地球磁場に沿って侵入するプラズマ粒子により発生するオーロラが、極域におこる擾乱現象の代表例です。 また、太陽風のエネルギーは姿を変えて、下層の大気や低緯度方向に輸送されます。 逆に、極域は、地球大気の一部の成分が宇宙空間に流出する窓にもなっています。 これらの速い時空間変動について、3次元の空間構造の変化を精密に測定できる新型レーダーを スカンジナビア北部に建設します。 この計画は、日本が1996年より参加している、 欧州非干渉散乱(略称、EISCAT)科学協会 により国際共同で推進されています。
極域へのエネルギー流入と応答過程

観測とデータの全球ネットワーク
我々は最先端の大型大気レーダーであるMUレーダーを世界に先駆けて国内で開発し、 さらに、海外拠点にも設置してきました。 この技術に習った大気レーダーが海外でも建設されています。 こられの実績をもとに、さらに進化した最新式レーダーを赤道と北極域に建設し、 国際的なレーダーの協力体制を発展させます。 一方、観測空白域であるアジア・アフリカを中心に、小型機器を用いて、 赤道から極域を南北につなぐ地上観測ネットワークを整備します。 データはIUGONETを通じて共有し、グローバルなエネルギーと物質の流れを明らかにします。
全球観測ネットワーク
IUGONET

国内外の研究動向
太陽地球結合過程の研究は、国際的にはISC(国際科学会議)傘下の SCOSTEP(太陽地球系物理学科学委員会)において、 国内では日本学術会議で議論されてきました。 1957年の国際地球観測年(IGY)以来、5〜10年にわたる国際共同研究ロジェクトが継続しており、 2004-2013年に「太陽地球系の気候と天気:CAWSES」が、 2014〜2018年に「太陽活動変動とその地球への影響: VarSITI (Variability of the Sun and Its Terrestrial Impact)」が行われました。 現在は2019〜2024年に「変動する太陽地球結合系の予測可能性: PRESTO」が進行中です。 日本は特に大型大気レーダーにより貢献し、 2015年にはMUレーダーIEEEマイルストーン認定を受けました。 国内のMUレーダー設置をはじめとして、 赤道域に赤道大気レーダーを設置し、 極域ではEISCATレーダー観測に参加し、 最近では南極PANSYレーダーの整備を行っています。 同時に、地磁気や大気光の地上観測網を広域に展開してきており、 大量の観測データを共有するため 「超高層大気長期変動の全球地上ネットワーク観測・研究(IUGONET)」 プロジェクトを推進しています。
国内外の研究動向

国内・国際協力体制
本提案は国内・国際コミュニティから幅広い支援を受けています。 赤道MUレーダーに関してインドネシア政府の全面的な支援を得ており、 EISCAT_3Dレーダーは欧州各国および中国等を含めて議論されています。 我々は革新技術を駆使した大気レーダーの源流を作ってきました。 今後も太陽地球系科学の国際共同研究プロジェクトを牽引し優位性を維持します。 大量の観測データを相互利用するコンソーシアムが既にできています。 観測データはWorld Data Systemで活用され、 Big Dataの実例にもなります。

波及効果・人材育成
太陽地球系を理解することは系外惑星の大気環境を解明する研究に発展します。 また新型レーダーの開発は電波応用科学や情報通信工学に直結します。 研究成果は、極端気象や宇宙天気の予報精度改善に貢献し、 減災や衛星の安全運用に寄与します。
海外フィールド実習や国際スクールを通じて、 国内外の人材育成に役立ち、また、科学技術を通じた平和外交にも貢献できます。

関連コミュニティ(学協会)
国内:日本地球惑星科学連合・宇宙惑星科学セクション、 地球電磁気・地球惑星圏学会(SGEPSS)日本気象学会電子情報通信学会
国際:国際学術会議(ISC)太陽地球系物理学科学委員会(SCOSTEP)電波科学連合(URSI)国際測地学・地球物理学連合(IUGG)、 国際MSTレーダー研究コミュニティ、 国際宇宙天気研究グループ(ISWI)国際学術会議(ISC)世界科学データシステム(WDS)

海外協力機関
インドネシア: 研究・技術高等教育省(RISTEKDIKTI)航空宇宙庁(LAPAN)気象気候地球物理庁(BMKG)科学技術評価応用庁(BPPT)バンドン工大など
欧州非干渉散乱(EISCAT)科学協会: ドイツ、英国、フランス、ノルウェー、スウェーデン、フィンランドが1975年に創設。 日本は1996年に、中国は2007年に加盟。

主な実施機関と実行組織


本計画に関する学術論文

赤道大気レーダー(EAR)による研究成果 論文リスト

EISCATによる研究成果 論文リスト 日本の研究者の論文リスト

OMTI (Optical Mesosphere Thermosphere Imagers)による研究成果 論文リスト

MAGDAS (MAGnetic Data Acquisition System)による研究成果 論文リスト

IUGONETによる研究成果 論文リスト

提案書

パンフレット