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生存圏フォーラム 第12回連載コラム

今年の夏も酷く暑かった。暑さには滅法弱い私だが、汗だくになりながらのフィールド調査は彼是数年以上に及ぶ。研究内容の都合上、私にはいわゆる実験室と呼ばれるスペースもキャンパスの建物内にあるが、森林を主体とした野外もまた、私にとっては大切な“実験室”である。どちらも実験室なれど、その“立地条件”は当然大きく異なる。とりわけ興味深い(と個人的に感じている)のは、野外の“実験室”で体感する《生ける地球》である。例えば、私が足繁く通うフィールド調査地は、今夏蚊が異常に多かった。年によっては、虻が大量に突進してくるのに蚊はあまりいない、ということもある。そういえば、今夏は虻の突進がほとんどなかった。越冬するカメムシが観測装置の排熱に群がって、阿鼻叫喚の図になることもあれば、はて今年はどこで越冬しているのな?とちょっと心配になる年もある。スーパーマリオブラザーズのようなキノコが多い年、イノシシの足跡が少ない年・・・《生ける地球》の息遣いそのものである。生存圏科学に関わる教科書は山ほどあるが、やはり自然に身を投じ、五感を鋭くして観察することが「科学する」ことの原点なのだと調査地に入るたびに実感する。フィールドは私にとって重要な実験室であるが、同時に、本屋さんでは入手できない唯一無二な教科書でもあるのだ。(生存圏フォーラム会員 K.T)