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第164回定例オープンセミナー資料

2013年1月30日

題目

環境科学における科学知とローカル知の協同
Collaboration of scientific knowledge and local knowledge in environmental science

発表者

伊勢田哲治 (京都大学文学研究科准教授、生存圏研究所学内研究担当教員)

関連ミッション

  • ミッション 4 (循環型資源・材料開発)

要旨

わたしの専門とする科学哲学という分野では、「知識」とは何かということがずっと問題となってきました。物理学、化学などの分野は、非常に信頼性の高い知識を生み出す手法を開発し、それが他の分野にも様々な形で影響を与えて来ました。再現性のある実験や数学を使ったモデル化はその代表です。では、科学的知識を生み出すためにはこれらの典型的な科学の手法に従わなくてはならないのでしょうか。それとも、主題によっては物理学などと異なる手法をとることこそが科学的だということはあるでしょうか。たとえば厳密な再現性のある実験がそもそもできないような問題領域でも、できるだけ物理学に近づけようとすることが本当によいことなのでしょうか。

この問題と関連して、近年科学技術社会論と呼ばれる分野(科学哲学の隣接分野)で注目されている「ローカル知」という考え方があります。ローカル知とはある地域に住む人達が生活の中で身に付ける知識を指します。当然ローカル知は科学的手法による吟味を経ていないので間違っていることもありますが、逆に科学的な知識を身につけた専門家の方が見落としていたことがローカル知として共有されているということもあります。こうしたローカル知と科学者はどのようにつきあっていけばよいのでしょうか。これは環境科学においてとりわけ重要な課題となると思います。

以上のような事例の検討から見えてくるのは、この世の中には、さまざまなタイプの「知りたいこと」「知る必要があること」があり、それに応じたさまざまな探究活動があるということです。では、そうした探究活動はどのように行われるべきなのでしょうか。今回の講演では、そうした大問題に答えは出せませんが、どういうルートを通ってこの大きな山に登頂するべきなのか、その登攀の道筋のようなものを一緒に考えることができればと思います。