京都大学生存圏研究所 材鑑調査室

 

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むかしの建築部材の話

ヒノキの話

一般的には、古代の建築部材といえば、我々は“ヒノキ”という印象を持ちます。これは、『日本書記』の「ヒノキは宮殿の柱に使う」という記事によるところが大きく、また、実際に発掘調査によって出土した部材の樹種同定結果によっても裏付けられていました(島地・伊東1988)。しかし、近年の新しい成果によって、全国的な、また宮殿以外の柱についても傾向が明らかになってくると、クリが柱材として多用されることがわかってきました(伊東・山田2012)。

近畿に限定すると、他の地域では多用されるクリに代わって、やはりヒノキが一番に多用されます。近畿におけるヒノキの柱材利用率は、建物の種類を問わずにみると、約33%です。これを寺社仏閣に絞ると、約75%の高い割合で、ヒノキの柱材が使われることがわかります。寺社仏閣などの、いわゆる「格の高い」建物には、選択的に、ヒノキの柱材を利用しようとする意図が読み取れます。

一方、全国的、通時的な用材の傾向としては、中世・近世には、それまでにはあまり利用が目立たなかったマツ属、ケヤキなどの利用が目立つようになります。これは、「大鋸(おが)」等の新しい製材用工具の導入によって、曲がりのある木や、堅い木の利用が可能になった点が大きいといえます。材鑑調査室の古材コレクションは時代順に並んでおり、順番に見ていくと時代が新しくなるにつれ、ケヤキ等のさまざまな木の利用が増えていくことがわかります。

参考文献

島地 謙・伊東隆夫 1988 『日本の遺跡出土木製品総覧』雄山閣
伊藤隆夫・山田昌久 2012 『木の考古学 出土木製品用材データベース』海青社

ホームページの引用・参考文献

村上由美子 2013 「近世の製剤技術」『江戸遺跡研究会第26回 江戸と木の文化』江戸遺跡研究会
村松貞次郎 1973 『大工道具の歴史』 岩波書店