RISH header
RISH header 2
ichiran

木質材料がヒトの心理生理に与える作用に関する研究
~木質材料の断面と表面加工の違いの影響、各種受容感覚の寄与率の推定~

平成26(2014)年度ミッション専攻研究員
高橋良香

木材は、古くから人間生活に密接に関わっており、建築用資材や燃料、道具の製作等などに利用されてきた。近代に入り、化石燃料を素材とした工業の発達により、鉄やコンクリート、プラスチック等の素材が木材の代わりに使われるようになったが、地球環境に配慮した持続可能な資源という特徴に加え、人間の生活圏を支える優れた特徴をもつことから、木材の利用が注目されるようになってきている。

人間の生活圏を支える木材の優れた特徴として、熱伝導率がコンクリートの約 12 分の 1 と熱を伝えにくく、吸湿性があることから、心地良い肌触りが維持される。また、短波長域の光を吸収し、橙を中心とした赤から黄色の材色であるため、温かさを感じさせ、表面にある細かい凹凸が光を散乱させることで、ざらつき(グレア)を和らげるので、目を疲労させない。また、木紛を通過させた空気(香り)には、脳波の一種である随伴性陰性変動(CNV: Contingent Negative Variation)を計測した実験から、鎮静作用があることが報告されており、その作用には木材に含まれる匂い成分の一つである α-ピネンに起因していると考えられる(寺内ら、1996、材料)。

近年、このように多くの優れた特徴をもつ木材の中で、特にスギ材に優れた空気汚染物質(二酸化窒素: NO2)浄化吸収機能があり、その抽出成分にストレス緩和効果や睡眠改善効果があることが報告されている(川井ら、2012、生存圏研究)。そして、スギ材の空気浄化機能および調湿能が板目面と比べて、木口面において、より優れていることから、板目面にスリット加工を施し、表面に木口面を露出させた材料(スギスリット材)が実用化されている。スギ材のもつこの優れた機能の要因として、抽出成分や仮道管有効内表面、含有水分の寄与が考えられるものの、詳細な機能はまだ解明されていない。

本研究では、どのような要因によって、木材がヒトにとって心地良い空間を作り出すのかを解明することを研究目的とした。具体的には、スギ材の空気浄化機能および調湿能に影響を与えることが報告されている断面および表面加工の方法の違いが、ヒトの心理・生理に異なる影響を与えるかを調べる。また、触覚、視覚、嗅覚などの感覚ごとに入力刺激を制限することで、木材がヒトの心理・生理に影響を与える際の各種感覚の寄与率を調べる。また、スギとスギ以外の樹種(例えば、ヒノキやヒバ)の間で、ヒトに与える作用に違いがあるかを心理・生理量を計測することで調べる。上記にあげた様々な視点で木材がヒトの与える作用を検討することで、木に対する理解を深め、木が持つ優れた特徴を実環境に適用しやすくなればと考えている。