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材鑑調査室を利用した文理融合研究の推進
—木質文化財にみる日本人の木材選択—

平成23 (2011) 年度ミッション専攻研究員
田鶴寿弥子

日本人は古くより樹種特性と用途における明確な体系を確立してきた。木質文化財のうち特に、宗教・信仰の対象物の制作には、何らかの意味・重要性をもつ樹種が選択されたと想像できる。これらを科学的に明らかにし、古から日本人の根底に流れる精神世界を審らかにすることこそ、人類が歩もうとしている未来への確かな道程となると思われる。

1. 樹種識別への先端科学の適用

宗教・信仰の対象としての木質文化財の樹種識別調査を材鑑調査室の木材組織データベースを利用して進めていく。国宝や重要文化財では木片を得ること自体が困難で、修理時に得られても極微量という問題が発生してきた。そこで、得られる試料の状態によらず識別が可能となる新しい方法、シンクロトロン放射光 X 線マイクロトモグラフィーによる識別法を確立し、今後様々な文化財に応用していく予定である。

2. 古材収集と年輪解析

生存圏環境の現状と変動を読み解くプロキシとして、木材年輪が保有する情報に注目し、名古屋大学・京都大学理学部とともに、2008 年より樹木年輪の炭素・酸素・水素安定同位体比を用いた古気候プロキシの開拓を行ってきた。年輪情報から読み解く過去の気候変動と未来予測、そして年輪情報の蓄積を目標に、今後はより幅広く名古屋大学・京都大学理学部・鳴門教育大・東北大とともに継続して調査を進めていく。

3. 全国・国際共同利用生存圏データベース(材鑑調査室)の推進

材鑑調査室は、従来木質科学の進展に寄与してきたが、将来もう一つの役割を果たす必要があると考えられる。すなわち、日本独特の宗教観、文化を支え、今も我々とともにある木質文化財の調査、識別における新手法の構築、年輪解析で過去を知ること、そして得られた結果をデータベースとして発信し、建築史、考古学、民俗学、年代学、気候学を包含した新しい木の科学を創造することである。現在、材鑑調査室で運営している木材データベースには、上記のようにして調査された結果が順次アップデートされ、公開されているが、識別調査が適用される文物には現在でも偏りがあることから、それを正し、より多くのフィールドに関するデータベースの発展に貢献していく。

図(田鶴寿弥子 ミッション専攻研究員)