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植物揮発性化合物を利用した環境変動予測と環境ストレス耐性植物の開発

平成22 (2010) 年度ミッション専攻研究員
肥塚崇男

地球上に最初の生命が誕生して以来、様々な外的要因に耐え約 40 億年の進化を続けてきた結果が現在の地球上に存在する生物種である。我々ヒトを含めた現存の生物種は進化上極めてわずかな成功例であり、巧妙なシステムを獲得し特化してきたことにより生存できたと考えられる。植物も特徴的なシステムを獲得しており、その一つが情報化学物質としての「香り(揮発性化合物)」である。植物は、動物のような直接的移動手段を持たないことから、揮発性化合物のブレンドを放散し受粉媒介者(昆虫)を誘引することで次世代を担う花粉や種子の散布を介した移動手段を発達させてきた。植物はまた、これら揮発性化合物の多様性を変化させることにより著しく変動し続ける環境変化に適応してきたと考えられる。中でも、C6-C3 を基本骨格とするフェニルプロペン類は花卉や熱帯の常緑高木であるクローブ (Syzygium aromaticum) やナツメグ (Myristica fragrans) といった芳香植物から放散される特徴的な香りであり、一部は化粧品や香料としても我々の生活と深く関係している。一方で、フェニルプロペン類はその抗菌活性から、植物病原菌や植食性昆虫に対し防御物質として働くことが知られている。このように、植物揮発性化合物であるフェニルプロペンは生態系の中で重要な生理的役割や機能を担っているものの、その代謝系に関与する酵素遺伝子については未だ不明な点が多い。さらに、これら植物揮発性化合物が環境変動によりどのような組成変化を引き起こすか、また周囲の生態系に与える影響についてはほとんど未知の状態である。そこで、本研究では生態系のコミュニケーション媒体である植物揮発性化合物フェニルプロペン類の多様性と、環境変化による影響を分子レベルで解明し、植物を介した生存圏環境の変動に関する認識を深めるとともに、森林圏植物の有用代謝遺伝子により機能性フェニルプロペンを増強した高機能性植物の作出を行う。

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