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エネルギー収支の確率的変動に基づく生存圏リスク評価の数理モデル開発

平成17 (2005) 年度ミッション専攻研究員
坪内健

生存圏とは自然環境を構成する数多の要素が動的に連動し合うシステムである。そのため生存圏状態を診断・評価するには、個々の要素間の物理化学過程から還元していく従来型のアプローチだけでは不充分であり、全体像を把握するための手段の確立がより重要になる。具体的には地球の平均気温や大気中の二酸化炭素濃度といった巨視的な環境パラメータの時間的・空間的な振舞いを取扱うことになる。中でもこうしたパラメータの時系列変動は、生存圏の持続可能性を予測していく上で詳細に調査すべき特性である。

時系列変動には長期間に及ぶトレンド成分や通常時のノイズ成分に加えて、環境に壊滅的な打撃を与える突発的な自然災害の出現がある。本研究はこれを環境の曝されているリスク要因として、その発生確率の定量的な評価を目指すものである。そして具体的なリスク現象として、特に宇宙環境・利用ミッションに打撃を与える地磁気嵐に着目した。これは地球磁気圏内に大量に流れ込んできた太陽風プラズマが作る電流の影響で地球磁場が汎地球規模で変動する現象であり、放射線帯の粒子フラックス急増による人工衛星の回路損傷や通信障害などをもたらすことから、生存圏持続を脅かす「自然災害」として改めて認識すべきものである。

地磁気嵐の規模を示す Dst 指数のデータセットを用いた統計解析を行い、特に大規模なイベントについてその最大強度と発生頻度の確率を検証した。前者は閾値を超えたデータのみを抽出したデータセットに対する極値統計解析から、イベントの累積分布を表すパレート分布関数を導出した。この関数から T 年間の間に生じる最大規模の強度 (T-year return level) を求め、将来の危険性を定量的に見積もることを可能にした。また後者では巨大磁気嵐データの待ち時間分布を解析することで、その発生がポワソン過程で表されることを示した。ただしポワソン強度には時間依存性があり、太陽活動度と強い相関を持つことも明らかになった。得られたポワソン強度から、ある一定期間内における発生回数の確率が求められる。これらの研究成果は「宇宙天気予報」における基本パラメータとして、今後の実用化が期待できるものである。