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地球の21世紀に生きる
植物の研究
炭素の理想循環
森を取り戻すために
林隆久 略歴
taka@rish.kyoto-u.ac.jp
植物の研究
植物の研究
植物ホルモンのオーキシンを発見したF.W.Wentは、オランダのユトレヒト大学でPh.Dを取得し、インドネシアのボゴール植物園で5年間研究した後、米国に渡り、その後生態学に研究の方向性をシフトさせました。80年代に米国植物生理学会年会で彼を捕まえて、なぜオーキシンを発見したのに生態学に興味を持つように変えたのか聞いたことがあります。彼は「配線を調べるような研究よりも、地球上の全ての生物の仕組みを知りたい」と応えました。当時の私には理解できませんでした。6年前にボゴール植物園に行ったとき、直径2m以上のマンギウムを見て何となく彼の言う意味が分るようになりました。私が年をとったために分るようになったのかもしれません。
セルロース及びキシログルカンは、植物細胞を包み込み、その組織を維持・構築している細胞壁成分です。植物細胞の基本的な成長は、細胞壁のゆるみに伴う、壁構成成分の変化であり、その主成分であるセルロース及びキシログルカンは植物の成長・分化・形態形成に重要な役割を担っています。したがって、これら糖鎖の生合成・生分解の仕組みを解明することは、植物細胞の基本的な成長を理解することにつながります。

今まで私は、植物細胞壁の研究とくにキシログルカンとセルロース代謝の基礎研究を長い間行ってきました。セルロース繊維やキシログルカン糖鎖のモデルを構築し、遺伝子発現を調べました。キシログルカナーゼやセルラーゼをモデル植物で発現させ、架橋構造の変化に伴う植物形態の変化を実証したとき、Wentを思い出しました。このとき私は、世界の森林をフィールドにして森林における炭素固定能を上げる研究に、残された人生をささげたいと思うようになりました。森林をとりもどすことによって、大地をよみがえらし、大気をきれいにすることが頭に浮かびました。

キシログルカンを特異的に分解するキシログルカナーゼをポプラで過剰発現させると、キシログルカンが分解されて架橋が消失し、その結果ポプラの成長は2〜3倍促進されます。しかしながら、この組換えポプラは、成長が早いものの、重力応答が不能になりました。このように、植物生理学から林学に発展し、そして応用からまた基礎がはじまろうとしています。
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植物細胞の成長メカニズム
通常の植物細胞では、細胞内液の浸透圧によって水が滲入するのを細胞壁が壁圧によって抑え込み、細胞の膨張を抑えている。伸長・肥大している細胞では、植物ホルモン(オーキシン)によって活性化された酸素により壁圧が減少し、吸水力が生じる。この吸水力が植物の成長の原動力となる。
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