RISH header
RISH header 2 events
ichiran

第37回定例オープンセミナー資料

2006年9月27日

題目

SiC パワーデバイス開発とその応用の可能性について

発表者

引原隆士 (京都大学大学院工学研究科電気工学専攻・教授)

要旨

1. はじめに

トランジスタに代表される Si ベースの電子デバイスは,能動領域における増幅動作に基づくアナログ技術から,遮断および導通領域を用いたスイッチング動作を確立したことで,情報社会を支えるディジタル回路の基本要素としてその地位を不動にした.言うまでもなく,小型集積化により高速化,大容量化,低損失化を実現し,多量の信号処理を達成して来た.一方,物理世界に情報世界の電気信号から仕事として作用させるためには,高速に電力(パワー)を処理し,任意の波形で,任意の形態の電力を供給する技術が不可欠で,その分野をパワーエレクトロニクスと呼ぶ.この技術を支えているのも Si をベースとするパワーデバイスで,同じくトランジスタが使用される.ところが,情報と異なり電力を得るためには,電圧×電流の積として蓄積要素間のエネルギー伝達を伴い,信号処理と同様にスイッチング動作が使用されるが,有限の時間積が必要となる.すなわち,しきい値との偏差のみによって 2 値処理できる電位信号と異なり,エントロピーを扱う回路とエンタルピーを取り出す回路の本質的な違いがある.このパワー変換を実現するSiパワーデバイスの性能限界が,現在の SiC パワーデバイスをはじめとする,ワイドギャップ半導体への大きな期待を生んでいる.

2. Si パワーデバイスの現状から SiC へ

パワーデバイスといってもその動作特性は電子デバイスと大きく変わるものではない.ただ,遮断電圧が大きく,導通時の電流が大きい場合に対して,デバイスの動作が保証されるためには,絶縁耐圧,導通損失の低減,高速スイッチ動作,および高い温度耐性が必要となる.これらの物理的に相矛盾する特性を実現するデバイス設計技術がキーとなり,そのデバイス駆動技術が重要となる.すなわちワイドバンドギャップ半導体の適用に当たっては,材料特性の優位性を十分に活用した素子の設計だけでなく,それを具体化するための回路設計技術が不可欠となる.

現在,SiC パワーデバイスの開発は,材料開発の段階からデバイス開発,回路設計に基づくデバイス設計,パッケージ技術の開発段階に入っており,Si デバイスの単純な置き換えのみによらない,新しいシステム技術への昇華が期待されているが,その基本的な考え方の点で未だ十分な状況に無く,今後の展開が待たれる.

          表 デバイス材料の特性
 Si SiC GaN
 バンドギャップ  [eV] 1.12 3.26 3.42
 熱伝導率  [W/(cm·K)] 1.5 4.9 1.3
 電子移動度  [cm2/(V·s)] 1350 1000 1200
 飽和速度  [107 cm/s] 1.0 2.2 2.4
 絶縁破壊電界  [MV/cm] 0.3 2.8 3.0