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ご挨拶       まだまだ魅力の天然セルロース

昨今京都では、寺社関連の歴史的文化財建造物の多くで耐震補強等の改修が行われています。私は用材の樹種識別の関係で現場に立ち会う幸運に恵まれるのですが、セルロース研究とは離れて、昔からの素材の選択とその加工・利用技術の巧みさに驚かされます。歴史的文化財の改修には素性の明るい良材が使われます。防腐剤などは使わず、材料寿命を考えてマツを主に用いた建物でも荷重のかかる大斗(だいと:柱の上にのる組み物の一つ)にニレ科のケヤキが、湿潤な軒など腐朽を嫌うところにはヒノキ科サワラの材をというように「適材適所」のもの作りです。技術者や職人が素材の特性を熟知し,技術を最適化した結果といえるでしょう。文化財を維持すると同時に、その巧みを学び、後世に伝えていくことは我々の努めでしょう。

最近になって水素結合様式を含む二つの天然セルロースIαとIβ、セルロースII, セルロースIIIIの結晶構造が明らかになりました。長い進化の過程での植物が獲得した「適材適所」のもの作りの秘密がそこに凝集されているのですが、私にはまだまだ判らないことが多くあります。特に気になるのが繊維周期です。IαとIβの結晶内のセルロース分子をよく観察すると、O5-O3とO6-O2の2つの分子内水素結合があります。特に後者は、セルロースIIやIIIといった多形にない特徴です。この水素結合のおかげでI型の分子は最も伸びきった状態に保たれています。一方I型でも、ミクロフィブリルの表面の分子は、水分子やマトリックス分子と相互作用する結果、O6-O2の水素結合を保つことができません。つまり表面分子の長さは結晶内部より短いと思われます。大学では、セルロースIの繊維周期は不変だと習いましたが、このように考えると、長さは表面と内部の釣り合いで決まることになり、結果的にミクロフィブリルのサイズに依存する事になります。実験的には、ミクロフィブリルの大きな海藻やホヤでは木材よりも繊維周期が約0.2%大きい値が報告されています。

話は変わりますが、IαとIβの解明に、安定同位体13CのNMRによる解析が大いに貢献したことはよくご存知のことでしょう。少し視点を変えて、最近の環境科学の分野では、C, H, Oの安定同位体存在比が環境変化の重要な指標となっています。中でも木材は貴重で、年輪という時間軸で、その時の大気や水の状態がセルロースの中に記録として刻まれるため、その微量成分の正確な分析が、気候復元や環境変化を明らかにすることを可能にしつつあります。私には、3次元的な構造体として大変興味深い対象であったセルロースは、いまや時間の軸を加えた4次元構造体にまで膨らんできています。京の寺社を訪ねるごとに、平安の気候も伝えてくれるのかなと思いを巡らせています。

バイオマス形態情報分野 教授 杉山 淳司