話は変わりますが、IαとIβの解明に、安定同位体13CのNMRによる解析が大いに貢献したことはよくご存知のことでしょう。少し視点を変えて、最近の環境科学の分野では、C, H, Oの安定同位体存在比が環境変化の重要な指標となっています。中でも木材は貴重で、年輪という時間軸で、その時の大気や水の状態がセルロースの中に記録として刻まれるため、その微量成分の正確な分析が、気候復元や環境変化を明らかにすることを可能にしつつあります。私には、3次元的な構造体として大変興味深い対象であったセルロースは、いまや時間の軸を加えた4次元構造体にまで膨らんできています。京の寺社を訪ねるごとに、平安の気候も伝えてくれるのかなと思いを巡らせています。
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