2. 遺伝子工学、生化学、有機化学的手法を用いて白色腐朽菌のリグニン分解機構を解明する研究
2-1 選択的白色腐朽を統御する分子機構の解明
選択的白色腐朽菌は、酵素から遠く離れた場所で、セルロースを残してリグニンを高選択的に分解します。微生物による分解反応は、酵素による直接反応が主役と 考えられてきましたので、これは驚くべき現象です。この不思議な現象には、キノコ(選択的白色腐朽菌)の低分子代謝物によるラジカル反応が関与しています。当研究室では、ラジカル反応を制御する菌代謝物の構造・機能、それらの生合成酵素や遺伝子などに関する研究を行っています。当研究室では、セルロースを強力に分解する活性酸素(ヒドロキシルラジカル)の生成を抑制する新規代謝物を初めて見出しました。それら代謝物の機能と生合成に関する研究、リグニンを分解する脂質の過酸化機構の解明、さらには、ラジカルの発生源となる脂質の生合成酵素の遺伝子クローニングと発現解析などを進めています。また、選択的白色腐朽菌のラジカル反応をフラスコで再構築するため、ラジカルの反応解析を進めています。酵素から離れた場所でのリグニン分解機 構の解明と関連する代謝物生合成系の増強は、リグニン分解力向上を目的とした選択的白色腐朽菌の分子育種にも必要不可欠な課題です。
選択的白色腐朽機構の解析:代謝物、タンパク、遺伝子の解析
(酵素から遠く離れた場での低分子代謝物によるリグニン分解)
2-2 リグニン分解酵素の分子生物学的解析
一般に白色腐朽菌が分泌する菌体外ペルオキシダーゼやラッカーゼなどのリグニン分解酵素は、リグニン分解系の連鎖的な酸化反応を初発すると考えられています。当研究室では、これまで白色腐朽菌が分泌するリグニン分解酵素の諸性質について解析を行うと共に、それらの遺伝子のクローニングを行ってきました。さらに、これら遺伝子の発現制御機構を解析することで、それぞれのリグニン分解酵素の役割についても明らかにしようとしています。
また、ヒラタケにおいて独自の形質転換系を確立することで、白色腐朽菌の中で組換え遺伝子を効率よく発現する系の開発に成功してきました。最近では、この系 を利用してユニークな基質特異性をもつ多機能型ペルオキダーゼを大量に発現させる遺伝子組換え体を単離し、部位特異的な突然変異導入を行って、この酵素が どのようにして高分子の基質にも作用することができるのかについて、進化的に近い他のペルオキシダーゼや立体構造モデルと比較しながら解明しようとしています。