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生存圏科学の新領域開拓について (参考資料)

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研究目的

産業発展により急速に進んでいる、人を取り巻く生存環境(生存圏)の特性変化が、人の健康や安心・安全に及ぼす影響を科学的に解明し、問題解決につながる技術開発を進める。特に、バイオマス由来物質、大気質および電磁場の生体影響、また健康な木質居住環境の構築などの新規課題を振興し、研究成果の社会還元を目指す。

研究背景

古来、生物の生存環境は太陽放射エネルギーを基に、自然界の絶妙なバランスのもとで形成された大気圏によって保護されてきた。しかし、人類の産業活動の増大により、我々が棲息する空間(圏)には大きな変化が生じてきており、ときとして人の健康や安心・安全な生活の維持に悪影響を及ぼしている。

例えば、輸送手段の広域・高速化に伴い、ウィルス・菌類が広汎かつ迅速に蔓延している。さらに地球温暖化にともない、これらの地域分布も変化しつつある。一方、居住空間にも多種多様な人工物が組み込まれ、人はその抽出物が混ざった空気を呼吸している。一見透明な大気は、自然界からの太陽放射に加えて、人工的に発射される電磁波で満たされている。さらに、人工的に排出されるガス等により大気質(大気微量成分の組成)が急速に変化している。

一方、我が国には古来より木材利用の英知が受け継がれている。例えば、法隆寺など、千年を超える歴史的建造物が実在しており、生物としての寿命を超えて活用され、かつ炭素を固定し続けている。また、ウッドマテリアルを超寿命で多目的に活用すべく、安心・安全な建築技法、および木材劣化生物対策等の保存科学に関する研究が培われている。

具体的な研究課題の例

(1) バイオマス由来の生体防御物質

植物の薬効成分は古来より、生薬としてヒトの疾病の治療や健康維持に利用され、作用機構の科学的な解明も進んでいる。一方、木酢液や竹酢液に代表されるバイオマスを分解して得られる成分は、消毒効果や皮膚疾患の治癒効果が報告されているが、有効な化学成分が十分に解明されていない。バイオマスは熱的、生物的、化学的変換を加えることによって、多岐に亘る生理活性物質を産生しており、これらが人の健康の増進や安全な生活に寄与する可能性を秘めている。バイオマスを人為的に構造変換することで、生理活性物質や生体防御物質の生産を目指す。これまで薬用植物として認知されていない植物や樹木関連微生物など広範囲な森林圏生物から生理活性物質を探索する。

グローバル化や地球温暖化が進む現在、ヒト、動物、植物への病原性ウイルスや細菌の感染、食品の汚染などの脅威が増大している。こうした環境変動による新たな驚異に対抗する新しいアプローチを森林圏バイオマスから発信する。特に、口蹄疫ウイルスによる家畜への被害などを想定して、木質バイオマスの熱分解物などから抗ウイルス活性をもつ生理活性物質を探索する。

(2) 木質住環境と健康

木材(とくにスギ材)が二酸化窒素(NO2)、オゾン(O3)などの大気汚染物質を吸収・吸着するとされている。また、シックハウス症候群等に関連する症状や、抑うつ、不安、不眠等について、木材内装仕上げによって症状改善が観察されている。また、材の抽出成分である精油はストレス症状を緩和するとされている。逆に、揮発性有機物(VOC)についてはネガティブな効果があるとも報告されている。材による空気浄化機能、および VOC に対するヒトの生理的応答を解明すべく、室内空気質環境下の生理的・心理的応答について検証する。

京都議定書の発効(2005年2月)に伴いわが国の森林整備が急務となっているが、森林整備の遅れによって、間伐材の8割は未使用のまま林の中に放置されている。間伐の促進、森林の活性化、環境・生態系の保全を目指し、木材を有効活用する技術開発を開拓する。

(3) 電磁場の生体影響

生活環境に浸透する電磁場の種類、曝露頻度は急増しており、将来ますます高くなる可能性がある。電磁環境の急速な増加に伴い、社会的に健康への不安も高まっている。しかし、電磁波利用の技術的な開発が常に先行し、生体健康影響評価について明確な結論が出ていない。電磁波技術のパブリック・アクセプタンスのための研究と説明責任が求められている。

未解明の高圧送電線などの低周波電磁場と小児白血病の増加について、ヒト小児細胞の電磁刺激による遺伝子応答の先端生命科学技術による検索と、候補遺伝子の探索やそのメカニズムについて研究する。さらに普及目覚しい携帯電話や家庭内の IH クッキングヒーターからの電磁場による生体影響評価研究として、発がんに結びつく細胞遺伝毒性の評価や、細胞免疫能、細胞分化過程などへの影響について研究を推進する。

(4) 大気質と安心・安全

呼吸器疾患を引き起こす窒素酸化物やオゾンは都市型大気汚染の中心的物質で、大気質悪化抑制が重要であるが、今世紀になって光化学スモッグの発生件数が再び増加に転じるなど、大気質の悪化が再び懸念されている。一方、再生可能エネルギーとして期待されているバイオマス燃料がエアロゾルの生成等により、未知の大気質変動を誘因すると懸念されている。

公害問題の前轍を踏まないためには、代替エネルギー・新技術の導入に先だって、その正の側面だけでなく負の側面の可能性についても適切に研究・評価する必要がある。特に、大気質変動のプロセスを精密に診断、正しく理解する必要がある。

このため、微量化学物質の超高感度多成分リアルタイム分析装置を用いて、バイオマス燃料を含む大気微量物質の化学性状の変質過程を探る。また、ライダー・レーダー等を組み合わせた多角的フィールド観測を展開し、大気圏・森林圏・居住圏を循環するガスおよびエアロゾルの変動を時空間的に精細に描写する。これらを踏まえ、人間や植生を含む地球システムに与える環境負荷を最小限に抑えた大気質の在り方を考える。

(5) 千年居住圏の基盤と維持

法隆寺に代表される、千年を超える歴史的建造物が実在しており、生物としての寿命を超えてウッドマテリアルとして炭素を固定し続けている。超寿命建造物に関する、適材適所の木づかい、安心・安全な建築技法、木材劣化生物対策に代表される保存科学を融合し、ウッドマテリアルを超寿命で多目的に活用する「千年居住圏」を創成する。

ウッドマテリアルで構成される「居住空間・居住圏」を多元的に解析する住宅の劣化要因である昆虫類-特に今後重要になると想定される海外からの移入種-や菌類を包括的に維持・管理。ミクロレベルでの詳細な劣化解析を行う。実大のモデル住宅・木質部材を劣化させた際の構造的な変化をマクロなスケールで解析・評価する。

日本は「木と紙の文化」の国であり、木材及び木質系材料の長期劣化について膨大な試料が未開拓のまま残されている。全国の寺社・仏閣等から履歴の明らかな木製文化財や古材樹種同定の収集・樹種同定と物理的・化学的性質の解析を実施し、住宅の設計・維持・管理のためのデータとして役立てる。


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