第307回定例オープンセミナー
持続可能社会構築に向けた植物細胞壁リアッセンブリ素材の創成
開催日時 | 2024/01/31(水曜日) |
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発表者 | 渡辺 隆司(京都大学生存圏研究所・教授) |
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要旨
地球温暖化やマイクロプラスチックなどの石油産業に付随する環境問題が顕在化するにつれ、木材等の植物バイオマスから石油製品にかわる新素材をつくるプロセスの構築が急務となっている。これまでは、セルロースを分離して利用するため、リグニンを化学的に分解除去するプロセスが数多く開発され、製紙産業やセルロース産業に利用されてきた。これに対し、我々は、非共有結合による細胞壁高分子の結束の解体に着目し、ゆっくりとした穏和な条件で、溶媒をスクリーニングした。その結果、ボールミル木粉をα-ケト酸であるピルビン酸やアルデヒド部位をもつ有機酸であるグリオキシル酸やギ酸中、室温で撹拌するのみで木材が全可溶化し、可溶化液をキャストすることにより光透過性があり屈曲可能なフィルムが作成できることを2014年に初めて報告した1)。その後、木材の微粉砕に必要なエネルギー消費を減らすべく、ダイセルと共同研究を行い、おが屑や木材チップを50℃までの穏和な条件で可溶化し、木材溶液からアクリル樹脂に匹敵する引張強度をもつ透明性のあるフィルムや、紙の風合いをもつ不透明なフィルムを作成するとともに、このフィルムを木材や金属、陶器、ガラス、プラスチックに熱圧することにより新規な表面コート材料を作成できることを見出した。さらに、木材のギ酸可溶物からガラス繊維強化樹脂に匹敵する曲げ弾性率をもつ木質圧縮成形物を製造できることを明らかにした。これらの木質新素材は、合成高分子や接着剤を一切使用することなく製造している点が大きな特徴となる。
木質新素材の原料として,我々は,里山の未利用広葉樹材に着目し,研究を進めている。まっすぐな幹を建築や家具の用材としての利用することに加え,これまで利用が難しかった曲がった幹や枝葉,端材を溶解利用することにより,切り出した樹木全体の利用価値を高め,里山の復興を目指している。広葉樹のみでなく,スギ、ヒノキなどの針葉樹や,イナワラ,タマネギ外皮などの農産廃棄物、タケも可溶化し,新しいバイオマス素材の開発を通した持続可能社会の構築を目指した活動を進めている。
1) Yuri Nishiwaki-Akine, Takashi Watanabe, Green Chem., 16, 3569-3579 (2014).
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2024年1月10日作成