第296回定例オープンセミナー
枝の節や年輪を手掛かりに樹木が蓄積した炭素量を考える
開催日時 | 2023/06/14(水曜日) 12:30~ |
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開催場所 | オンライン(Zoom) |
発表者 | 田邊 智子(京都大学生存圏研究所・ミッション専攻研究員) |
要旨
樹木は光合成により大気中の二酸化炭素を取り込み、その炭素を材料に成長します。成長に使われた炭素は、樹木が枯れて分解されるまで樹体内に蓄積されます。普段見かける大きな樹木は、それだけ沢山の炭素を蓄積してきたことになりますが、一年あたりの蓄積量は年により変動することも分かっています。わたしの研究では、樹木による炭素蓄積量の年変動に着目し、その要因を明らかにすることを目指してきました。どんな年に炭素蓄積量が多く、または少ないのかが分かれば、気候変動が進んだ場合の樹木による炭素蓄積量を確からしく予測することに繋がります。
樹木の炭素蓄積量は、伐採して個体の重さを量ることで概算することができますが、年変動を調べるには毎年同じ個体の重さを量る必要があるため野外では困難です。樹木は分裂組織の異なる伸長成長と肥大成長というふたつの成長を繰り返しながら成長します。伸長量は幹や枝の節間長を、肥大量は年輪幅を計測することで過去何年分もの成長量を遡って推定することが可能です。特に幹の肥大量は、樹木成長量の年変動を類推する指標として使われてきましたが、これらは伸長量の年変動と必ずしも一致しないことが分かり始めました。つまり幹の肥大量では、樹木個体の成長量、つまり炭素蓄積量の年変動を正しく評価できていない可能性があります。またその要因として、伸長と肥大は異なる要因の影響を受けている可能性が考えられます。
本発表では、常緑針葉樹クロトウヒを対象に、幹枝の伸長量と肥大量の年変動について調べた研究課題を紹介します。10個体分の幹と各個体から採取した計200本の一次枝について、過去20年分の伸長量と肥大量を計測したところ、各成長量は固有の年変動を示しました。このことは、どこかひとつの成長量を指標とした場合、樹木全体の成長量の年変動を正しく推定できない可能性を示唆しています。また実際に、月別の平均気温や合計降雨量を用いた網羅的な統計解析により、成長量に重要と思われる時期や気候要因が伸長量と肥大量とで異なる可能性が明らかになりました。
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2023年6月8日作成