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第280回定例オープンセミナー
酵母を用いた植物由来抗がん薬パクリタキセル生合成のカスタムデザイン

開催日時 2022(令和4)年5月25日(水) 12:30–13:20
開催場所 オンライン(Zoom)
発表者 草野博彰(京都大学生存圏研究所・ミッション専攻研究員)
関連ミッション ミッション5 高品位生存圏

聴講希望の方は、下記Zoom参加登録用アドレスからご登録ください。
https://us02web.zoom.us/meeting/register/tZAkdO-rrD4qH9B8UWwDvZ2O05g4C94eZb8g
ご登録ができない方は、ご所属、お名前、連絡先等記してメールにてお問い合わせください。
オープンセミナー事務局: openseminar@rish.kyoto-u.ac.jp
開催日当日午前10時までにご連絡ください。

要旨

パクリタキセルは抗がん薬治療において最も一般的な抗がん薬のひとつである。現在はその生産の大半がイチイ樹木の長期栽培に依存しており、恒久的かつ安定的なパクリタキセル供給を可能にするためには、長期栽培に依存しない新たな生産法を確立する必要がある。本研究では、フラスコ内で無限に培養できるイチイの培養細胞と、人工的な代謝系の構築が可能な酵母を利用してパクリタキセルを生産する技術の開発を目指している。具体的には、イチイの培養細胞が生産する類似の化合物を原料とし、これを特定の酵素を発現させた酵母に与えることでパクリタキセルに変換する。

パクリタキセルはジテルペン類共通の出発物質であるゲラニルゲラニル2リン酸が環化された基本骨格に水酸基や、更に多様なアシル基がエステル結合した構造を有する(図1)。このため、パクリタキセルの生合成に関わる酵素は主に、骨格に水酸基を与える酵素と、アシル基をエステル結合させる酵素の2種が考えられる。現在までに、これに関わる多くの酵素が単離されたが、いくつかの重要な酵素が未だみつかっていない。

また、自然界ではこれら残基の組み合わせが異なる多様なパクリタキセルの類縁体が生合成されていることがわかっている。これまでに約700種の化合物の構造が決定されており、この多様性はイチイが持つ酵素の多様性によると考えられる。効率よくパクリタキセルを生産できる系を構築するためには、培養細胞から可能な限りパクリタキセルに近い構造の化合物が得られることが望ましく、また酵母での代謝に必要な酵素遺伝子を天然から見つけ出す必要がある。

現在までにイチイの培養細胞における代謝と遺伝子発現の変化を観察し、出発物質を得るための培養法の改善と、酵母株の作製に必要な未同定遺伝子の探索、および分子進化工学による新規代謝酵素の開発を進めている。イチイ細胞の培養法を検討したことで、パクリタキセルに非常によく似た化合物と、パクリタキセルの生合成経路に合流できる化合物の2種を主要な生産物とする培養法を開発することができた。これらの化合物をパクリタキセルに変換するために必要な酵素を単離するため、各種オミックス解析を利用した遺伝子単離と酵母を使った検証を行った。今回はその成果の一部について紹介する。

Seminar-0280_Kusano図1、パクリタキセルの構造式
破線で囲った部分は類縁化合物に共通する基本骨格。

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2022年5月18日作成