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第279回定例オープンセミナー
地球・宇宙・時間

開催日時 2022(令和4)年1月26日(水) 12:30–13:20
開催場所 オンライン(Zoom)
発表者 市川隆一(情報通信研究機構)
関連ミッション ミッション3 宇宙生存環境
ミッション5 高品位生存圏

聴講希望の方は、下記Googleフォームへご登録ください。
https://forms.gle/TfEKQbQjCMveFAW4A
Googleフォームへご登録ができない方は、ご所属、お名前、連絡先等記してメールにてお問い合わせください。
オープンセミナー事務局: rish-center_events@rish.kyoto-u.ac.jp
開催日当日午前10時までにご連絡ください。

要旨

筆者が所属する情報通信研究機構(以下NICT)は、我が国の標準となる時刻「日本標準時」および「標準周波数」を決定・維持・供給する役目を担っている。日本標準時は、1967年第15回国際度量衡総会で定められた「秒の定義」、すなわちセシウム133原子の遷移周波数を基準とする定義にしたがって決定される協定世界時(UTC)と整合性が取れるように、小金井のNICT本部に設置される18台のセシウム原子時計と4台の水素メーザ原子時計を用いて生成している。一方、今世紀に入り、光学遷移を利用した周波数標準の研究・開発か゛急速に進み、2010年頃には確度・安定度共にセシウム周波数標準器を凌駕する光周波数標準器が出現するまでに至った。現在のセシウム周波数標準器の不確かさは10–16台であるが、光周波数標準器はこれを2桁上回る10–18台、ないしはそれ以上の不確かさが達成可能とされ、これまでの秒の定義を更新する、いわゆる「秒の再定義」が議論されるまでに至っている。

さて、筆者のもともとの専門は測地学である。測地学とは「地球の大きさや形・重力とその時間変化を測る学問」であるが、一見するとまったく異なる分野に見える測地学と先にふれた「時間・周波数」の科学とは実は密接な関係がある。特に、1970年代終わり頃から本格的に研究が開始され、その後80年代に入って実用化された宇宙測地技術、特に銀河系外の電波星からの雑音信号を観測に用いる超長基線電波干渉法(VLBI)と、米国が開発し運用するGPSの登場は、「時間・周波数」と「測地」との関係を不可分のものとする決定打となった。例えば、地球自転に準拠する世界時であるUT1は、大気や海洋等の変動の影響により地球の自転速度変動が生じるため一定の値とならないが、このUT1とUTCとの乖離を調整するために挿入されるのが「うるう秒」である。ここで、地球の自転速度変動を計測する唯一の手段がVLBIである。また、世界中で共通の時系を維持するためには、距離を隔てた場所に設置された高精度な原子時計間での時刻比較が必須となるが、米国のGPS、また最近ではGLONASS(露)、Galileo(欧州)、およびBeiDou(中国)等も含めた全地球測位衛星システム(GNSS)がこの比較に用いられ、ミリメートル精度での観測点位置を推定する測地学的な解析手法を使用することが主流となっている。

さらに、近年では、光周波数標準器の一つである光格子時計を用いた高さ測定が、測地学の新たな分野を切り拓きつつある。距離を隔てた2地点に設置された光格子時計どうしを光ファイバーで接続し、双方での周波数差を計測することにより、1 cmの精度で高度差が測定出来る。この手法は、従来の水準測量のように距離に依存して誤差が増大することも無く、将来的にはリアルタイム計測も夢ではない。これを応用して、地球の形状の最適近似であるジオイドの高精度化や、そのジオイドを基準とした全世界規模での高さの基準を決定することも検討されている。今後も、宇宙測地学と重力ポテンシャル研究を含む測地学と時間・周波数科学との連携がますます強化されていくことは間違いない。

Seminar-0279_Ichikawa図 1 時間・周波数科学と測地学との連携

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2022年1月12日作成