第247回定例オープンセミナー
二酸化炭素炭素安定同位体比を用いた森林における炭素循環の推定
開催日時 | 2019(令和元)年10月2日(水) 12:30–13:20 |
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開催場所 | 総合研究実験1号棟5階 HW525 |
発表者 | 高梨聡(森林研究・整備機構森林総合研究所関西支所・主任研究員) |
関連ミッション |
ミッション1 環境診断・循環機能制御 |
要旨
森林生態系は最も複雑な生態系であり、陸上生態系における炭素循環過程の明らかにするには大気と生態系との炭素交換量を測定すると同時に、生態系内部の炭素動態を把握することによって、より正確な陸上生態系炭素交換量を算定あるいはモデル推定に繋げることができる。また、樹木は器官ごとに機能が特化しており、葉で光合成により吸収した炭素は枝・幹を通じて根に運ばれる間に、呼吸基質として使われたり、一旦樹体内に貯留された後、各部で生長や呼吸基質として使われたり、脱落・枯死した物を微生物が分解したりして、二酸化炭素として放出している。そのため、巨大なバイオマスを持つ森林生態系において炭素循環過程を真に理解するためには、こういった炭素貯留プロセスを樹木の生長フェノロジーとともに理解する必要がある。
二酸化炭素安定同位体(13CO2)は,二酸化炭素(12CO2)とほぼ同じように吸収され、放出されるものの、プロセスにより少し異なる速度で吸収されたりするため、炭素吸収プロセスの解析に利用されている。近年の観測技術の発展により,レーザーを利用して,連続的に二酸化炭素安定同位体比を測定できるようになって来ており、樹体内の炭素動態について、季節変動特性を捉えるなど、より詳細な解析が可能となってきている。本発表では、光合成によって固定された炭素が、どのように呼吸として消費され、あるいは樹木へ固定されていくのか、その季節変動特性を明らかにするため、富士吉田試験地にてアカマツ成木を対象としたラベリング実験を行ったので、その結果を報告する。
アカマツ成木において、12月に吸収された炭素は、呼吸により徐々に放出されていたが、気温が上昇する3月に急速に下方に流下し、呼吸によって放出される様子が観測された(図1)。その後、5月下旬から6月にかけて低下した炭素安定同位体比が、6月から再び上昇し、8月にピークを迎え下降していた。このことから、冬季に蓄えた余剰炭素を成長量が鈍化し呼吸量の上昇する夏季にも利用していると考えられた。
図1 13CO2ラベリング後に幹から放出された二酸化炭素の炭素安定同位体比
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2019年9月18日作成