第218回定例オープンセミナー資料
Microscopic control for chemical treatment in wood flow forming
開催日時 | 2017(平成29)年5月31日(水) 12:30–13:20 |
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開催場所 | 総合研究実験1号棟5階 HW525 |
題目 |
Microscopic control for chemical treatment in wood flow forming 木材の流動成形における化学処理の微視的制御 |
発表者 | 田中聡一 (京都大学生存圏研究所・ミッション専攻研究員) |
関連ミッション |
ミッション4 循環材料・環境共生システム |
英語スピーチ・Web配信(ZOOM Meeting ID: 257-973-168)
要旨
木材の流動成形は、木材細胞間の滑りによる流動現象を利用した新しい加工技術である。流動成形で得られた成形体は従来の木質材料や木材よりも高強度であることが知られている。流動成形では、塊の木材を金型に入れ圧縮・流動させることで成形体が得られる。流動成形の利点は、木材を一工程で自由な形に成形でき、かつ木材構成単位である細胞構造を壊さずに活かすことができる点にある。
しかしながら、無垢の木材で作製した成形体は、沸騰水中に1時間浸漬しただけで分解する。従って、形状や性質が安定した成形体を得るためには、原料となる木材に化学処理を施すことによって木材細胞壁中の不安定な非結晶領域を安定化させ、同領域が水分の収着点や分解の起点になることを防ぐ必要がある。
木材の安定化を目的とした化学処理では、木材原料に処理物質の溶液を注入したのち(図 1(i)含浸工程)、溶媒を蒸発させる(図 1(ii)養生工程)。しかしながら、化学処理された木材から得られた成形体は、それでもなお変色や表面荒れ(図 2)および変形を起こすのが現状である。
図 1: 流動成形する前の木材原料の化学処理
図 2: 化学処理した木材原料で作製した成形体の変色および表面荒れの様子
これは、成形前の木材細胞壁中に、処理物質が十分に行き渡っていない不安定な非結晶領域が残存することによるものと考えられる。従って、処理物質が原料中の細胞壁の非結晶領域に十分に行き渡って細胞壁全体が安定化されるように、化学処理を制御する必要がある。
本研究では、不安定な非結晶領域を安定化させるために、特に養生工程(図 1(ii))に着目した。 養生工程の直前では(図 3(i))、細胞壁の非結晶領域には、処理物質だけでなく溶媒も存在するため、非結晶領域が不安定なままである。溶液を含浸した木材をある大気条件下で養生したとき(図 3(ii))、 処理物質は細胞内腔から細胞壁へ拡散し、細胞壁中の溶媒を置換することが示唆されている(A. J. Stamm (1956) Forest Products Journal, Vol. 6, No. 5, pp. 201–204)。しかしながら、物質の細胞壁への拡散が促されるのに適切な大気条件(相対湿度(RH)および温度)は明らかになっていない。大気条件を適切に操作できれば、より多くの化学物質を細胞壁に拡散させて、細胞壁中の溶媒の物質による置換を促すことができるため、化学物質による細胞壁の充填を促進することができると考えられる。 本セミナーでは、処理物質による細胞壁の充填にとって適切な養生条件を探すことを目的として、養生のRHと温度が細胞壁への物質拡散に及ぼす影響を調べた研究について紹介するとともに、細胞壁に物質を充填するための戦略のカギとなる、養生中の物質拡散のメカニズムについて論じる。
図 3: 化学処理における養生工程の重要性と課題
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2017年5月23日作成