menu

第203回定例オープンセミナー資料
空間周波数特性が木材の見た目の本物らしさに与える影響

開催日時 2015(平成27)年12月16日
題目 空間周波数特性が木材の見た目の本物らしさに与える影響
Influence of Spatial Frequency on Appearance of Wood
発表者 桂重仁(現九州大学大学院芸術工学研究院・学術研究員(旧千葉大学大学院融合科学研究科))
溝上陽子(千葉大学大学院融合科学研究科・准教授)
矢口博久(千葉大学大学院融合科学研究科・教授)
関連ミッション ミッション 4 (循環型資源・材料開発)

要旨

はじめに

木材は身近な素材の1つであり,多くの人に親しみを持たれている.近年,木目を印刷によって表現した木目印刷が,建材などの用途に使用されている.木目印刷は,天然木材の代替品であるため,見た目がより本物らしい製品が求められている.

天然木材と木目印刷は,成り立ちが大きく異なる.天然木材は,細胞分裂によって生じた木繊維によって構成されており,細胞壁の厚さの差異が木目として現れている.一方,木目印刷は印刷における最小要素である網点によって,木目を作り出している.この木目の見えは,木材の特徴の1つとして重要な要素であり,「木らしさ」や「自然さ」に影響することが示唆されている[1,2].

木目の特徴を表す方法の1つに,空間周波数分析がある.この方法では,木目の輝度変化を様々な周波数の波の合成として表すことができ,主に木目の周期性を調べられる.仲村らは,柾目の自然さに影響を与える要因を調べるうえで,分析の1つとして空間周波数分析を用いた[2].結果は,自然さと高空間周波数領域に関連は見られたが,研究対象が低空間周波数領域の特徴であったことや,空間周波数の特徴的な部分の定量化が困難であったことから,別指標による分析を行っていた.

我々は,木材の本物らしさに影響を与える要素として木目の特徴,つまり木目の空間周波数特性に注目した.ここでの本物らしい木材とは,加工を施していない天然木材のような見えの木材とした.木材の本物らしさに影響を与える特徴を明らかにすることで,木目印刷などの製品の本物らしさを増す技術に応用できる可能性がある.この研究は,そのための基礎データを示すことを目的とした.本セミナーでは,木材の本物らしさについて空間周波数特性を用い検討した結果を紹介する.

木材試料の空間周波数分析

天然木材と木目印刷の特徴を明らかにするために,空間周波数分析を行った.天然木材14種類と木目印刷14種類をカメラで撮影し,RGB値をCIE1931XYZへ変化しYの値を用いることで輝度画像とした.これを2次元フーリエ変換し,パワースペクトル画像を得た.図 1には,Ashの天然木材,木目印刷における,パワースペクトル画像の中心から水平方向の強度変化を示す.縦軸は空間周波数の強度の対数値,横軸は視距離を60 cmとした場合の空間周波数(cycle/degree)の対数値を表している.この強度変化における注目すべき箇所は,高空間周波数領域における強度変化が,天然木材では湾曲しているのに対し,木目印刷では直線的である.この傾向は他の木材試料においても共通していた.

この強度変化を定量的に評価するために,10 cpd以上の強度変化に対し二次関数(f(x) = ax2+bx+c)によるフィッティングを行った.このとき|a|を,強度変化の湾曲具合を示す湾曲度と定義した.湾曲度は,値が大きいほど強度変化が湾曲しており,0に近いと直線的であることを意味している.天然木材,木目印刷の湾曲度の平均は,1.23と0.41であり,湾曲度からも図 1に示したような強度変化の傾向が示された.

S0203_Katsura JPEG 図 1 樹種Ashの天然木材と木目印刷の空間周波数特性

木材試料の本物らしさ評価

どのような空間周波数特性が木材の本物らしさに影響するかを調べるために,木材試料を観察する距離を変化させ,それぞれの観察距離において木材試料の本物らしさを評価した.空間周波数特性を任意に変化させることが出来れば,より直接的に空間周波数特性の影響を調べることができる.しかし,実物を用いて評価するため,この方法を用いることはできない.そこで,観察距離を変化させることで,知覚される空間周波数を変化させる方法を用いた.

各観察距離において,呈示された木材試料が天然木材(本物)に見えるか,木目印刷(偽物)に見えるかを応答する実験を行った.この実験において,本物と応答される確率が高いほど,より本物らしい木材であるとした.

各観察距離における本物と応答した確率と湾曲度の関係を図 2に示す.縦軸に本物と応答した確率,横軸に湾曲度を示している.この結果から,湾曲度が大きいほど,本物らしい木材であることがわかる.また,観察距離15 cmにおいて,天然木材と木目印刷が明確に分離している原因として,網点の影響であることが示唆された.

S0203_Katsura JPEG図 2 各観察距離における本物と応答した確率と湾曲度の関係

まとめ

木材試料の空間周波数特性を比較したところ,高空間周波数領域の強度変化が天然木材は湾曲的変化,木目印刷は直線的変化という差があった.実物を用いた視感評価実験により,この差が木材試料の見た目の本物らしさに影響していることが示唆された.

参考文献

[1]仲村,増田,平松(1994)木材学会誌 40: 364–371.
[2]仲村,増田(1995)木材学会誌 41: 301–308.

印刷用PDFファイル(308 814 バイト) | 一つ前のページへもどる
2015年12月7日作成