第128回定例オープンセミナー資料
開催日時 | 2010/12/08(水曜日) |
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題目 |
里山保全ツールとしての建築 —笹葺民家の修理を通じて Architecture as a tool for SATOYAMA Initiative —Through an activity of restoring a house with a bamboo grass roof |
発表者 | 田淵敦士 (京都府立大学大学院生命環境科学研究科・講師) |
関連ミッション |
ミッション 4 (循環型資源・材料開発) |
要旨
資源を循環的に、そして、永続的に利用するために建築の分野から何が可能なのだろうか。循環とは、環が形成されて初めて成立するものである。本講演では、中山間地において、建築があることで環が形成できる環境づくりへの取組みについて考えてみる。
人々が古くから、持続的に利用してきた環境資源に「里山」がある。昨今の生物多様性の保全の動きのなかで、平成 22 年(2010)10 月、生物多様性条約第 10 回締約国会議(COP10)において、SATAYAMA イニシアティブとして国際的な枠組みとしてスタートした。SATOYAMA イニシアティブは 3 つの行動指針と 5 つの視点という考え方で構成されている。
「3 つの行動指針」
- 多様な生態系のサービスと価値の確保のための知恵の結集
- 伝統的知識と近代科学の融合
- 新たな共同管理のあり方の探求
「5 つの視点」
- 環境容量・自然復元力の範囲内での利用
- 自然資源の循環利用
- 地域の伝統・文化の価値と重要性の認識
- 多様な主体の参加と恊働
- 社会・経済への貢献
これらは、新しく考えだされたものでもなく、新しく始まった活動でもない。今、見直されている考え方である。かつて、都市の発展を支えてきた地方や地域を、今度は都市が支える必要がある。そのために、建築ができること。里山の中心に人間がいて、その周りに動物がいて、植物が生育し、自然が形成される、その受け皿としての場を建築が提供できないか。里山の自然とは、人の手があって初めて成立するもので、ある種の人工的作為が自然を守っている。里山がある中山間地が抱える問題の一つは担い手の不足である。若年層の人口が減少し、集落から活気が失われていく。
筆者は、京都府京丹後市を中心とした里山保全・再生に取り組む活動に参加している。その中で、現在、空き家になっている笹葺民家を修理し、活動の拠点を整備している。本講演では、民家修理の現況を紹介し、その過程で土蔵の壁土の特性について調査した成果を中心に建築が果たせる役割について議論したい。