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第111回定例オープンセミナー資料

開催日時 2010/01/27(水曜日)
題目 アミノ酸窒素同位体比指標を用いた土壌動物群集の食物網構造推定
Studying soil food web using nitrogen stable isotope ratios of individual amino acids.
発表者 陀安一郎 (京都大学生態学研究センター・准教授)
関連ミッション ミッション 1 (環境計測・地球再生)
ミッション 4 (循環型資源・材料開発)

要旨

土壌動物群集は土壌生態系の多様性および土壌生態系機能のなかで重要な役割を果たしていると考えられるが、植食性昆虫などに比べて研究手法の難しさから研究が遅れている。たとえば、多様性維持機構や生態系機能の観点から土壌動物の食性に関して多くの研究があるが、古典的な餌選択実験や消化管内容調査のみでは、実際の野外での食性を推測するのが難しい。これに対し近年用いられてきた窒素・炭素の安定同位体比による食性推定は、代謝時間を反映したより長期的情報であるとともに餌の依存割合をも反映したものであるため、既存の手法の欠陥を補うものとして有効である。しかし土壌動物においては、デトリタス食者の窒素安定同位体比は分解がより進んだ餌を利用する者ほど高い値を示すということが分かっており、値を解釈するうえで栄養段階に伴った窒素同位体比の上昇との区別を困難にしている。

そこで本研究では、新指標としてアミノ酸窒素安定同位体比を用いる可能性について検討した。近年の研究により、アミノ酸の種類ごとに栄養段階に応じた同位体比の特異的な上昇パターンが存在することが明らかになってきている。フェニルアラニンの窒素同位体比は栄養段階を経てもほぼ変化しない一方、グルタミン酸の窒素同位体比は栄養段階に伴った上昇がみられる。対象とする動物においてこれらのアミノ酸の同位体比の差がどの程度拡大しているかをみることで、従来の同位体手法より正確な栄養段階を算出できると示唆されている。しかしながら、これらの知見は主に生食連鎖上の生物を対象に得られてきている。土壌食物網においては分解者である菌やバクテリアなどがアミノ酸合成能力に優れていることから、デトリタス食者に特徴的なパターンがみられるのではないかと考えられる。本発表では、シロアリ・ミミズ・トビムシで得られた研究結果を元に、今後どのような方向性をもって研究を進めていけるかについての議論を行なう。

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